2019/02/19

ゼウスの妻たち(ギリシャ神話50)

出典 http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html

 オリュンポスの神々というのは、人間をそのまま大きくしたような性格をもっているので、その神話には人間の営みや感情のさまざまが描かれてくるような格好になる。戦ったり、仕事をしたり、遊んだり、パーティーをしたり、旅をしたり、発明・発見をしたりさまざまで、また恐ろしく感情的で、恋したり、憎んだり、嫉妬したり、贔屓したり、怒ったり、復讐したり、泣き悲しんだり、笑い喜び歌ったりしている。

 その中でも「」というのは人間にとってどうしようもなく厄介であるように、神々にとっても厄介きわまりなく、そうした「恋」にまつわる物語がたくさん作られている。「恋の成就」もあれば「悲恋」もあり、「浮気」もあれば「略奪」「強姦」まであり、主神ゼウスなどむしろ「女狂い」と言える。

 ただしゼウスの場合、その女狂いは「部族の融合」を背景にした物語であったり「ある事象の説明話」であったり「都市の建設の由来物語」であったり「家柄の権威付け」であったりで「意味」がある場合が多く、単なる「女狂い」とは言い切れない。

 もちろん女神も負けてはおらず、さまざまの男たちとの物語を残している。ここでは、そうした神々の性格をまとめてみる。そうした物語の多くは「神々や英雄の物語」の中で前後関係を含めて解説してあるが、この章では良く知られた物語に限定して(それでもかなり多い)説明し、ポイントを示したものである。

ゼウスの妻たち
 ゼウスが関係する「主要女神たち」は、「原初の原住民族の女神」が殆どと思われ、現住民族の融合を「原住民族の持っていた女神を妻とする」という形であらわしていたのかと推定される。一般にゼウスの妻とされるヘラとの結婚もそうした性格を持つと考えられるが、以下に紹介するデメテルやメティス、レト、ディオネなども、そうした性格の関係かと推定される。従って、「ギリシャ神話」として一般に知られる神話では、ゼウスの女関係に対して妻ヘラは恐ろしい復讐をしてくるということになるのだが、これらの主要女神たちとの女関係については、ヘラは何も言わず何も嫉妬の炎を燃やして復讐することもない、ということになる。

ヘラ
 ゼウスの妻は、オリュンポスの神体系が確立した時代には「女神ヘラ」となる。しかし、神話をたどると、その前にゼウスは「メティス」を妻として女神アテネをもうけている。次いで「テミス」と結婚して「季節の女神ホライたち」その他の子どもを産み、さらには「エウリュノメ」から「優美の女神カリス立ち」をうみ、さらに「デメテル」から「ペルセポネ」を生んでいる。その上また、あろうことか、この娘ペルセポネをゼウスは蛇に変身して犯してしまい「ザグレウス」を生み、また「レト」と交わって「アポロンとアルテミス」の双子神を生んでいる。こうしてやって「ヘラ」と結婚する、といったすさまじい女遍歴をしている。

 あるいはまた、ホメロスの叙事詩ではゼウスは「ディオネ」を妻としていたとも歌われている。その上、以下に紹介する女性たちとの関係があるのだが、これですべてではなく「ゼウスの子」とされるだけなら、もう枚挙にいとまがなくなる。

 正式の妻となった女神ヘラは「家庭婦人の守り手」「女性の栄光」をつかさどる女神とされ、さらに「三美神(ヘラ、アテネ、アフロディテ)」の一人となる。イメージとしては「成熟した女性美」の持ち主という感じとなるが、彼女は「泉の水を浴びて処女に戻る」という特技まである。ヘラは「主神並の権能」を持つ女神となっているが、その所以は、ヘラが元来土着民族の主神であったことに由来すると考えられる。つまり、ゼウスを主神とするギリシャ民族の到来とともに、民族が融合されていった経緯を示すものと考えられる。

 

メティス
 ゼウスのはじめの相手として有名な女神は「メティス」となる。彼女はオケアノスとテテュスの子なので、ゼウスの従姉妹に相当するもののオリュンポスの一族ではない。

 彼女は「知恵」の女神だったのだが、ゼウスによって孕まされ、しかも彼女から生まれる子は父親を凌駕するという定めをもっていたことが知られて、ゼウスに飲み込まれてしまう。そしてゼウスはメティスが孕んでいた子を自ら産むことにしてしまい、月満ちた時に「頭」から「武装した女の子」が勇ましい雄叫びを挙げながら飛び出してきたという。彼女こそ「戦の女神アテネ」であった。こんなアテネをゼウスはことの他可愛がり、彼女はオリュンポスの神々の中でも特別な扱いを受けている。一方、メティスの方はゼウスと同化してしまった格好になっている。これは、ゼウスの持つ「」の性格を由来づけた神話であると同時に、女神アテネの性格をも説明する物語となる。つまり女神アテネは「ゼウスが直接自分で生んだ」という特別にゼウスに近い性格と、その「知恵の女神」とされる所以とを物語っているわけである。

テミス
 彼女はウラノスとガイアの娘なので、前出のディオネと同じくゼウスの叔母ということになる。「掟の女神」であり、彼女もオリュンポスの一族ではないものの、その「職分」が重要であったためか、アテネ近くのラムヌスというところには立派な神殿があったし(遺跡として残存)、「神像」も作られていた。彼女もゼウスの子を孕まされた一人で、彼女からは「季節の女神達ホライ」「運命の女神モイライ」「正義の女神アストライア(ディケ)」「平和の女神エイレネ」が生まれている。これらの娘たちは皆「掟」に関わり、その権威としてゼウスの娘とされたのであろう。

エウリュノメ
 彼女は先に見た「メティス」の姉妹になり、ようするにここでもゼウスは姉妹を襲っていたことになる。彼女からは「優美の女神カリス姉妹」が生まれている。この優美の女神カリスも「美にとりわけこだわる古代ギリシャ人」にとっては重要な女神で、その像がたくさん造られていた。

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