2巻:ユートピアについての談話
モアはユートピアの位置を新世界に設定し、実生活におけるアメリゴ・ヴェスプッチの発見の旅を、ラファエルの旅に結び付けた。
彼は、ラファエルを24人いたヴェスプッチの1人に設定し、1507年の4度目の旅で、ブラジルのカーボ・フリオに半年滞在したとしている。
ラファエルは、そこからさらに遠くへ出かけてユートピア島にたどり着き、その地の人々の慣習を観察して5年が過ぎたのだという。
モアによれば、ユートピア島の様子は次のようなものである。
……中央部分は最も広い所で幅200マイルで、似たような幅が続いたあと、両端に向かって徐々に細くなっている。両端が丸く曲がって、円周500マイルの円を描き、三日月形の島を形作って新月のようになっている。
島は当初、半島だったが、コミュニティの創設者ユートパス王により15マイル幅の水路が掘られ、本土から切り離されることになった。
島には54の町があり、それぞれに約6,000戸が住んでいる。
首都アーモロートは、三日月形の島のちょうど中央に位置している。
各家庭は30戸ごとにグループ化され、「 Syphograntus 」( Styward )によって管理される。Styward は10グループごとに、「
Traniborus 」( Bencheater )の監督下に置かれる。それぞれの町の町長は、Bencheater の中から選ばれる。
各家庭には10~16人の大人が生活し、家庭や町の人口が均等になるよう配置しなおして人数調整する。島の人口が過剰になったときには、本土に植民地が用意される。
また、こういったユートピアの植民地にいったん入植した本土在住者も、希望すればコロニーを出ることができる。 人口不足になった場合は、コロニー入植者は呼び戻される。
ユートピアでは個人資産の所有は認められておらず、人々が必要とする品々は倉庫に保管される。家々のドアにも鍵は設置されておらず、住む家も10年ごとの輪番で決まる。
島で最も重要な仕事は、農業である。男女共に農業を学び、2年間田園地帯に住んで農耕に従事する義務がある。これに並行して、全ての市民は、織物業(女性中心)、木工業、鍛冶、石工など他の重要な商業を少なくとも1つ、学ぶ義務がある。
これらの商業は意識的に簡素化されている。例えば、同じデザインのシンプルな服を全ての人々が着用し、凝った服を作る業者は存在しない。健康な市民には勤労の義務があるため、失業は根絶され、労働時間は最短となっている。
人々が働かなければならないのは一日につき6時間だけだが、多くはそれ以上働くことも厭わない。モアは、自身の考えたユートピア社会の中で、行政当局や聖職者には学者を採用し、人々の初期教育に当たらせている。
他の市民も全員、余暇の時間に学習に勤しむことが奨励されている。
奴隷はユートピアでの生活に必須であり、全ての家庭に2人ずつ配置されているという。
奴隷は他国出身のこともあれば、ユートピア出身の元犯罪者のこともある。元犯罪者は、金製の鎖に繋がれている。
金はこの国の国有財産の1つで、犯人を拘束したり寝室用便器のような上品でないものに使ったりするなど、市民は金を嫌悪し、質素な価値観が損なわれないようにしている。
財産にはほとんど重要性がなく、諸外国から必需品を購入したり、互いに戦う国家を買収するために役立てるだけである。
行いがよい奴隷は、定期的に解放される。
ユートピアの革新性には、他にも重要なものがある。
医療費の無料化などの福祉制度、国家も認める安楽死、既婚の聖職者、離婚の他、婚前性交渉に対する罰則は生涯の独身生活、姦通の場合は身分を奴隷に落とされた。
食事は地域の食堂でとり、配膳の仕事は輪番で家ごとに回された。全員が同じメニューを食べるが、ラファエルの説明では、老人と行政官によい食べ物が回されるという。
島内を旅行するには許可証だけでよいが、許可証なしが発覚すると、1度目は猶予されても2度目には奴隷に落とされるという。
加えて、弁護士は存在せず、法はあえてシンプルに制定されているために全員に理解されており、善悪の判断に迷う必然性がない。
島には、太陽崇拝、月崇拝、惑星崇拝、祖霊信仰、唯一神教など複数の宗教が布教されているが、それぞれは他の宗教に寛容である。無神論は許されてはいるが、国家に対する脅威と見なされ、彼らだけは軽蔑されている。なぜなら死後の天国も地獄も全く信じていない者には、ユートピアの共産主義的人生を共有しようとする理由もなく、自身の利益のためには法をも破るからである。
無神論者は、追放はされないまでも、自分たちの誤った信条について聖職者と討論し、間違いに気付くようにすることが奨励される。ラファエルによれば、自分が伝えたことによって、キリスト教もユートピアに浸透し始めていたという。ユートピアの宗教は他宗教の信仰にも寛容で、1度の祈祷式でユートピア住民の全てが出席する。
……しかし仮に、彼らが間違っていたり、政府がもっとしっかりしていて、もっと神の意に適う宗教があれば、彼らは主の御心について知りたいと思うだろう。
恐らく、今日的な感覚でいえば、女性には社会的平等が与えられていない。妻は夫に服従し、家庭の仕事に従事するよう制限されている。わずかな数の未亡人のみが聖職者になっている。
全員に徴兵義務がある一方、女性はまだ男性より下位に置かれており、月に一度、夫に自分の罪を懺悔する。しかしユートピアで女性に振り分けられる役割は、現代の見地からみて、よりリベラルだといえるかもしれない。ユートピアでは、ギャンブル、狩猟、化粧、占星術は全て禁止されている。