2026/07/26

君主論(2) ~ マキャヴェッリ(4)

君主の征服

征服を実施する場合、君主には多くの配慮が求められる。マキャヴェッリは、征服地域に近接する諸外国に注意する必要について述べている。

 

例えば、ある地域においてある弱小国を征服した場合、その周辺の弱小国もまた征服者に対して進んで服従を申し出ると考えられる。同地域に影響力を持つ大国がいるならば、征服によって得られた諸勢力と連合してその国を滅ぼすことで、ようやく完全に支配を確立することが可能となる。

 

このような征服の諸問題を克服した成功例として、マキャヴェッリは古代マケドニア王のアレクサンドロスが、東方遠征で得られた広範な領土を維持し続けたことを挙げている。この事業の成功については、君主国の様式で説明される。

 

君主国には、君主が大きな権限を以って行政を担う大臣を任命し、集権的に統治する様式と、元々その地域で支持を得ている諸侯にある程度の自律性を認めて、君主が分権的に統治する様式の二つがある。前者の様式の国家を征服者が統治することは容易であるが、後者の場合は各地でさまざまな勢力が存在するために困難であると考えられる。したがってマキャヴェッリは、アレクサンドロスの征服はペルシア帝国が集権的な君主国であったために、安定的な統治が成功したと考察する。

 

征服においては、それまで自由市民によって統治されてきた都市や国家を征服することもある。マキャヴェッリによれば、このような民衆を統治するためには、一般に三つのやり方が考えられる。第一に、都市や国家を滅亡させること。第二に、君主がその地域へ移住すること。第三に、ある程度の自治を認めて君主に従順な寡頭政権を成立させることである。基本的に自由市民はかつての独立を回復しようと試みる傾向があるため、その地域の市民を統治政策の中で活用することが適当である。

 

君主の力量

新設された君主国の行政は、征服者である君主の力量によって左右されるとマキャヴェッリは論じる。国家を樹立する途上で発生する問題の原因は、新たな社会秩序を導入しようとすることにあり、言い換えれば旧秩序の中で権益を持つ人々すべてと敵対することである。このような問題を研究するためには、君主の力量に着目する必要がある。力量が不足していればその統治は失敗し、民衆を説得し続けることがむずかしくなるのである。

 

他人の武力や運によって新たな君主国を得たとしても、そのような成果は君主の指導力が不足しているために常に不安定にならざるを得ない。もしも運によって政権を得たとしても、その力量が不足していれば国の基盤を構築することはできない。具体的には、敵の排除、味方の確保、武力や謀略による勝利、民衆からの畏怖と敬愛、兵士からの畏怖と敬愛、政敵の抹殺、旧制度の改革、厳格かつ寛大な振る舞い、忠実でない軍の再編、諸侯たちと親交を保ちつつ便益をもたらすようにするか、攻撃の際には慎重であること、これら全てが君主国において不可欠な力量である。

 

非道な手段によって政権を得た君主は、力量があるとはいえない。なぜならば、そのような手段によって獲得した権力には栄光がないためである。

 

征服者が国を奪取する場合、残虐行為を一度で終結させ、その後に民心を獲得しなければならない。断続的な残虐行為は、民衆の信頼を失わせてしまうからである。逆に、恩恵は小出しにして継続的に実施することで民衆の支持を得ることができる。

 

君主の軍備

君主にとって軍備と法律は不可欠なものであり、良い武力の下で初めて良い法が成立する。マキャヴェッリのこの思想は

「すべての国にとって重要な土台となるのは、よい法律とよい武力とである」

との言葉で要約されている。

 

そもそも軍隊とは自国軍、傭兵軍、外国軍、混成軍のいずれかである。この中で傭兵軍や外国軍は無統制で不忠実であるため、無用であるばかりでなく危険であると史実を引用して断定している。

 

傭兵軍の部隊長が有能であれば、君主はその傭兵からの圧力に晒され、無能であれば君主は戦争そのものに敗れてしまう。また、援助や防衛のために派遣された外国軍は、援軍として勇猛であるがゆえに戦争が終結しても駐留し続け、事実上占領してしまう危険性がある。したがって君主は、自国民から編制された自国軍に統治の基盤を求め、戦争においては他人の武力に頼らないことが重要であると、マキャヴェッリは結論づけている。自国の武力がなければ、あらゆる君主国は破滅の危険に晒されるだけでなく、自力で事態を動かせないために周囲の情勢に左右されるだけになってしまう。

 

さらに、マキャヴェッリは軍事を統治者の本来的な任務に位置づけ、軍備を君主の力量を強化するものとしている。武力のある者が無力な者に服従することや、無力な者が武力ある従者に包囲されて安心することはありえないためである。軍事に無能な君主は部下の兵士たちから尊敬されず、また君主は部下を掌握することができない。したがって君主は、軍備には常に注意しなければならない。

 

軍事訓練には、実践的な方法と精神的な方法がある。実践的な方法では、兵士を組織化し、基本教練を行わせるだけでなく、狩猟などの実践形式によって鍛え上げる。精神的な方法では、歴史を学ぶことが必要である。作戦における指揮や戦術を研究し、逆境における準備を思考の上でも進めなければならない。

 

また、君主は地形についての理解を深める必要がある。地形についての知識がなければ、宿営地を予定し、部隊を行軍させ、戦闘陣を展開することは不可能である。自国の国情について知らない君主は、指揮官としての適性が欠落しているということになる。

2026/07/22

君主論(1) ~ マキャヴェッリ(3)

『君主論』(伊: Il Principe, イル・プリンチペ)は、1532年に刊行されたニッコロ・マキャヴェッリによる、イタリア語で書かれた政治学の著作である。

 

歴史上の様々な君主および君主国を分析し、君主とはどうあるものか、君主として権力を獲得し、また保持し続けるにはどのような力量(徳、ヴィルトゥ)が必要かなどを論じている。その政治思想から、現実主義の古典として位置づけられる。

 

沿革

マキャヴェッリがフィレンツェ共和国で失脚し、隠遁生活中の1513 - 1514年に完成したと考えられており、1516年にウルビーノ公ロレンツォへの献上文を付してフランチェスコ・ヴェットリ( Francesco Vettori )に託された。写本で読まれ、マキャヴェッリの死後、1532年に刊行された。

 

著作には表題はついておらず、友人ヴェットリへの手紙の中で「君主体制」に関する本を書いたと述べているため、『君主論』(Il Principe)と呼ばれるようになった。

 

構成

献辞と、26の章からなる。

 

献辞 - ロレンツォ・デ・メディチ殿下に捧げる

1 - 支配権の種類とその獲得方法

2 - 世襲の君主権について

3 - 複合的君主権について

4 - アレクサンドロスによって征服されたダレイオス王国では、アレクサンドロスの死後、その後継者に対して反乱が生じなかったのは何故か

5 - 征服される以前、固有の法に従って統治されていた都市や君主国をどう支配すべきか

6 - 自己の武力と能力とで獲得した新しい君主権について

7 - 他人の武力または幸運によって得た君主権について

8 - 極悪非道な手段によって君主となった場合について

9 - 市民の支持によって得た君主権について

10 - どのようにすべての支配者の力を測定すべきか

11 - 教会の支配権について

12 - 軍隊の種類と傭兵について

13 - 援軍と自己の軍隊とについて

14 - 軍事に関する君主の義務について

15 - 人間、特に君主が称讃され、非難される原因となる事柄について

16 - 気前良さとけちについて

17 - 残酷さと慈悲深さとについて、敬愛されるのと恐れられるのとではどちらがよいか

18 - 君主は信義をどのように守るべきか

19 - 軽蔑と憎悪とを避けるべきである

20 - 砦やその他君主が日常的に行う事柄は有益かどうか

21 - 尊敬を得るためにはどのように行動したらよいか

22 - 君主の秘書官について

23 - 追従を避けるにはどうしたらよいか

24 - イタリアの君主達はどうして支配権を失ったのか

25 - 人間世界に対して運命の持つ力とそれに対決する方法について

26 - イタリアを蛮族から解放すべし

 

内容

『君主論』は全体で26章から成る著作である。

 

1章において「君主政体にどのような種類があるか」と挙げ、その一つ一つについてを続く第2章から第11章までで解説する。第12章から第14章までは、いかなる君主政体においても必要となる軍備について述べる。第15章から「臣民や味方に対する君主の態度と政策がどのようにあるべきか」と、本来の意味での君主論に移る。マキャヴェッリはチェーザレ・ボルジアに理想的な君主の能力を見ている。第24章からは現実のイタリアに目を向ける。

 

当時、イタリアは多くの小国に分裂し、外国の圧迫を受けて混乱の最中にあったが、イタリア統一への願いから「統一を実現し得るのはいかなる君主か」を論じ、メディチ家への期待を述べて論を終える。

 

君主の統治

マキャヴェッリはまず国家の政治体制から共和国と君主国に大別した上で、君主国に議論を限定することから始める。

 

そもそも君主国の統治を行う場合、より容易なのは世襲の君主国である。なぜなら世襲の君主ならば、既に定められた政策を維持して不測の事態に対処するだけで統治は事足りるからである。この場合には、君主は平均的な能力さえ持てば国民にも好感を持たれ、たとえ侵略に遭ったとしても奪還が可能である。

 

しかしながら、全く新しい君主国を建設する場合には、さまざまな問題に直面することになる。なぜならば、君主は国家を建設または獲得する上で不可避的に国民に何らかの被害を与え、そのことによって反乱が発生するからである。征服によって領有した地域の住民の言語や風習、制度などが征服者のそれらと異なる場合、統治にはさらに深刻な困難が生まれると分析する。このような国民との対立を解決する施策としては、征服した地域における旧君主の血統の根絶、支配地域の法体系や税制の維持、征服者が本拠地をその地域に移すことや、移民を兼ねた部隊の派遣を提示している。

 

このような、君主国における民衆の心理の分析を踏まえて、その対処については

「覚えておきたいのは、民衆と言うものは、頭をなでるか、消してしまうか、そのどちらかにしなければならないことである」

という見解を示している。つまり、君主は領民を被治者としてだけでなく、潜在的に有害な敵にもなりうる存在として認識すべきことをマキャヴェッリは強調している。

2026/07/21

スペインが2度目の優勝(ワールドカップ2026北中米大会)(8)


決勝戦は世界ランク1位(アルゼンチン)と2位(スペイン)、そしてワールドカップサッカー史上初めてヨーロッパと南米のチャンピオンという、まさに「頂上対決」となった。

 

延長前半までは0-0、延長後半にようやく均衡破れスペインが1点を奪うという、スコアだけを見るとまことに決勝に相応しい接戦かのようではあるが、内容的にはスペインがアルゼンチンを圧倒した。

 

何しろシュート数20本のスペインに対し、アルゼンチンのシュートはたったの2本。それも延長後半のロスタイム入るまでは、ただの1本のシュートも打てないまで完封されたように、期待された熱戦には程遠かった。

 

戦前の予想は「アルゼンチンの個人技」と「組織力のスペイン」の戦いになると思われたが、準決勝のフランスと同様、アルゼンチンは120分間でほとんどチャンスらしいチャンスがないまま、なすすべもなく敗れた。

逆に言えば、あの世界屈指ともいえる攻撃力を誇るフランス、アルゼンチンに何もさせなかったスペインは、まさに「無敵艦隊」であった。

 

スペインは、これでウルグアイ、フランスと並ぶ2回目の優勝である。

 

勝つためには反則など何でもありのアルゼンチンとは違い、フェアプレーで優勝したスペイン。グループステージから8試合でわずか1失点と、かつて「カテナチオ(Catenaccio)」と称されたイタリアの堅守速攻サッカーも真っ青の堅守にくわえ、バリエーション豊富な高い技術から繰り出される多彩な攻撃を展開するなど、チャンピオンに相応しい戦いぶりを見せた。

2026/07/17

準決勝(ワールドカップ2026北中米大会)(7)

 

過去最多の48か国が参加し、1か月以上に渡る長丁場となったワールドカップサッカー北中米大会も、いよいよ佳境に入った。

 

48か国の中から勝ち残った4か国は、フランス、スペイン、イングランド、アルゼンチンと、ものの見事なまでに世界ランキング1位~4位の国が揃った。

 

スペイン 2-0 フランス

 

好カードが目白押しとなった今大会においても「事実上の決勝戦」と目された一戦は、思わぬ一方的な展開となった。

 

かねてよりフランスサッカーチームが、どうにも嫌い(フランスが嫌いというワケでは決してないが)なワタクシは、当然ながらスペインに肩入れするところだが、そうはいってもフランスは前々回大会で優勝、前回大会もPK戦の末に決勝で敗れたとはいえ、今大会も「優勝候補筆頭」に挙げられていたのは妥当であった。事実、予選リーグからの6試合を見る限り、まったく付け入るスキがなく「優勝候補」に相応しい戦いぶりだった。

 

ところが、である。

勝負とはまことにわからないもので、ここまであんなにも強かったフランスが、この日ばかりは90分間ほぼ何もさせてもらえず、なすすべなくスペインの前に屈した。

 

勝負事には、実力とは別に「相性」ということがあるらしい。

かつて「サッカー王国」と称されるほど強かったブラジルがフランスを苦手にしていたように、フランスにとってはスペインとの相性が悪いようで、欧州の主要大会を見ても分の悪い相手ではあるとはいえ、ここまでいいところなく終わるとは予想外ではある。

なにしろ、これまで驚異的な攻撃力を発揮してきたエムバぺ、デンベレともに、まったく仕事をさせてもらえなかったのだから。

 

逆に言えば、あの強いフランスをここまで見事に完封してのけたスペインの底力こそは、実に凄まじかったというべきか。フランスに比べ圧倒的な破壊力や派手こそヒケを取るものの、サッカーの原点ともいえるあのパス回しは芸術的な域と呼べる美しさで、あのフランスがボールに触ることすら困難なほど翻弄されたことからも、その技術の高さが改めて証明された。

 

実際、ボールの転がるところに必ずスペイン選手がいるように、まるで相手より人数が多いのではと錯覚してしまうほどであった。

 

アルゼンチン 2-1 イングランド

 

前回優勝国として、今回も当然のごとくに優勝候補に挙げられたアルゼンチンだが、ここまでは予想外の苦戦続きだった。

 

グループリーグはさておき、トーナメント1回戦から楽勝と思われた無名国のカーボベルデに2-1と苦戦したのを皮切りに、2回戦でも「格下」のエジプトに2点リードされながら、後半の土壇場にやっとこさ追いつき、なんとか逆転という薄氷勝利の連続で

「アルゼンチンは、本当に強いのか?」

と、疑わしくなるくらいの迷走ぶりだった。

 

対するイングランドは「サッカーの母国」と称されながら、優勝は60年前に1度のみと「看板倒れ」が定番だったが、今回はともに6得点を挙げてきたハリー・ケイン(ハリケーン?)、べリンガムという強力2枚看板を擁して準決勝に進出。人気先行で期待外れに終わったベッカムが率いた時よりは期待できる陣容だけに、今回ばかりはアルゼンチンにも勝てるかと期待された。

 

アルゼンチンに関しては、これまで「審判買収疑惑」やら、エジプト戦で2点ビハインドから後半30分過ぎから3点奪っての「出来過ぎた大逆転劇」など「疑惑?」満載のせいか、今回はすっかり「悪役」となってしまった感がある。対照的に「60年ぶりの優勝」を念願するイングランドに肩入れしたくなるのは、判官贔屓の理屈から言っても自然の摂理だろう。

 

そして、この試合もまた先制を許したアルゼンチン。今度こそは「真の実力」が問われる展開となったが、結果はまたしても「憎たらしいくらいの見事な逆転勝利」だ。加えてイングランドが誇る2枚看板にもほとんど仕事をさせなかったのだから、さすがにその実力は本物と認めざるを得ない粘り強さというしかない。

 

この結果、決勝は

 

スペインvsアルゼンチン

 

と、誰もが疑いようのない文句なしの「頂上決戦」に決まった。

 

先にも記した通り心情的にはスペイン応援となるし、休養日が1日多い分だけスペイン有利という気がするが、対するアルゼンチンも逆境には滅法強いだけに、どう転ぶかわからない。

ここまで7試合でわずか1失点という鉄壁の守りを見せるスペインの壁を、個人技に長けたアルゼンチンがこじ開けられるかがポイントとなるか。

 

珍しいことに、今大会は準々決勝~準決勝の6試合でPK決着がひとつもなく、文字通り手に汗握る好ゲームが続いているだけに、最後の決勝戦もPKなしですっきり勝敗を決していただきたいものである。

2026/07/13

準々決勝(ワールドカップ2026北中米大会)(6)


 「優勝候補」に挙げられていたフランス(FIFAランキング1位)、スペイン(同2位)、イングランド(同4位)、アルゼンチン(同3位)が、順当に準々決勝を勝ち上がった。

 

フランスの相手はモロッコ。

前回の準決勝に続く再戦となったが、2-0で今回もフランスの勝利。これまで良い戦いをしてきたモロッコも、フランスには完敗だ。

 

スペインは「赤い悪魔」ベルギーに2-1、イングランドとアルゼンチンは、それぞれノルウェーとスイスを相手に延長戦を戦った末、なんとか勝利をもぎ取った。

 

相手は、どれが勝ってもおかしくないような試合巧者だけに、ひとつくらいは波瀾があるかと思ったが、FIFAランキング上位4か国の「4強」が揃って準決勝に勝ち上がるとは、まことにここまで波瀾の少ない大会も前代未聞だ。

 

この結果、準決勝は

 

(1)      フランスvsスペイン

(2)      イングランドvsアルゼンチン

 

に決まったが、ここまで見る限り(1)が事実上の決勝と言えそうである。