第2部 朝のトリトンの噴水(伊;La fontana del Tritone al mattino)
第3部 真昼のトレヴィの噴水(伊;La fontana di Trevi al meriggio)
第4部 黄昏のメディチ荘の噴水(伊;La fontana di Villa Medici al tramonto)
出典Wikipedia
全校生徒を前に、雛壇に上がり
「みなさんの応援のお蔭で、最後に一番いい内容と結果を出すことが出来ました」
と、相変わらず謙虚で言葉少なに挨拶を終えたみどり。この時に記録したみどりのタイムは、サッカー部エースの自分がスポーツテストで計測した時のタイムより早かった。 同じサッカー部のゴトーも自分より少し速かったが、調子の良い時でもみどりのタイムに及ばない。長距離は苦手なにゃべとはいえ、男子の中でもかなり早い方だった事を考えれば、このみどりのタイムが、女子としてはいかに化け物じみたものかわかる。おそらく男子に混ざっても、確実に10番以内には入っていただろう。
しかも、このみどりの場合は中長距離だけでなく、100mも12秒台、200mが25秒台と、女子としては短距離選手並みのタイムを叩き出しており、走り幅跳びでも当たり前のように毎回5m台を記録していた事からもわかるように、総ての面で傑出していた筋金入りのスポーツ少女であった。
カオリとみどり。この2人が『A高』の2大スターとして皆の人気と尊敬を集めたのは、その見事な競技力もさることながら、あれだけの実績を積み重ねながらも終始それを鼻にかけるような、増長した態度がまったく見られなかったことに尽きる。カオリは気の強さが取り沙汰されたように、感情の起伏が激しいところはあったようだが、みどりの方は走っている時の殺気立った雰囲気とは打って変わり
「普段の教室内では、いるのかいないのかさえわからないくらい、大人しかった」
と評されたくらいで、国体入賞という偉業を成し遂げた後も、その態度に些かの変化も現れなかった。
多くの事例にみられるように、みどりの才能も子供の頃から傑出していたらしく、小・中学ともに最初の授業で体育教師の熱視線を集めた、というエピソードは有名だった。「教室では、殆ど存在感がない」と言われたみどりだが、ひとたびグラウンドに出れば、その存在感は誰の眼にも際立つものだった。
彼女ほど素人目にも明らかに才能を感じさせる存在は、極めて稀である。入学して間もない頃の事を、今でも鮮明に思い出す。
「有名な陸上部のノムラというのは、どの女だ?」
とサッカー部の練習中にゴトーらと連れ立って、こっそり陸上部の練習を見に行った。無論、中学が別なので、これまで誰も見た事がなかったにもかかわらず、遠目からでも一目で
「あれに違いない!!!」
と皆で声を揃えたくらい、その才能は圧倒的に輝いていた。
多くの部員に混ざり、練習前のアップをしていたところだったが、そんななんでもない動きを見ただけでも、まるで全身がバネのようで並々ならぬ運動神経に3人とも見惚れてしまったのである。
「ありゃ、全然モノが違うな・・・」
「うむ・・・こんなイナカの公立に置いておくのは、実に惜しい」
と、その野生動物のような鋭くもしなやかな体の動きに、同じように見惚れていた。
国体で見事な入賞を果たしたみどり。インターハイで活躍した美少女・カオリとは違い、十人並みの容姿に中肉中背(ただし、かなりの筋肉質だが)と、外見はどこにでもいそうな女子高生というタイプだけに、前年のインターハイ後に起こった「カオリ・ブーム」ほどではないにせよ、それでもかなりの注目を集めた。
元々、殆ど無名の存在から、インターハイの直前に彗星の如くに現れたカオリとは違い、スポーツ万能のみどりは春の陸上競技会や秋の文化祭の大運動会、さらには前年冬のマラソン大会などでは常に華々しい活躍を見せていたし、スポーツテストでも唯一「特級」を獲得していた事などもあり、当初から知名度は誰よりも高かった。その分、どうしてもカオリほどの鮮烈な印象にならなかったのは、致し方ない。
こうしたスポーツの一流選手というと、カオリに代表されるような「気が強く強く負けん気の塊」のようなイメージだが、みどりの場合は内面はともかくとして非常に穏やかな性質だったようだ。カオリと同じく、みどりとも同じクラスになる運に恵まれず、殆ど接触のないままに終わってしまったのは、実に惜しまれる。
前年はこの2人、そしてこの年もみどりと同じクラスだったゴトーによると
「どっちも、教室ではおとなしいぞー。つーか、まったく存在感がねーと言うべきか・・・」
などと繰り返していた。
「ヨシノは練習疲れでいつも眠そうにしてるし、授業中は蛻の殻のような感じだな。ノムラは案外に真面目そうだったが、存在感がねーのは似たようなもんだ」
と好色オトコらしく、鋭い分析をしていた ( ´艸`)ムププ
インターハイと並ぶ、高校生のスポーツの祭典が国民体育大会(国体)である。
サッカー部の場合は、夏のインターハイと冬の高校選手権の二大大会に比べ、国体は「県代表チーム」となるだけに、あまり関係がなかった。同級生で、このクラスの全国大会に出場できる実力となると体操部のカオリ、陸上部のみどり、そしてヨット部のタカミネ御曹司辺りに限定される。
3人の中で、これまでピカイチの実績を残してきたカオリは、前年のインターハイで床運動の「銅メダル」を初め、女子総合で入賞。この年のインターハイでも、2年続けてメダルを獲得(平均台の銀)したばかりか、総合でも連続入賞を果たすなど、その美貌とヴィーナスと称された見事なプロポーションも相俟って、存在感は圧倒的であった。
そのカオリに、すっかり「主役」の座を明け渡したかに見えたのが、みどりだ。中学時代から、A市の隣町に一つしかない中学では「メチャクチャに足の速い女」で有名だった。
中学生のころは短距離の選手だったという事だが、100mと200mでは中学生の地区大会で優勝し、陸上の盛んな幾つもの私立校から特待で誘われたという、輝かしい経歴の持ち主であった。
『A高』陸上部に入部とともに、中距離に転向。しばらくは勝手が違ったか、2年生までは精々が地区大会入賞くらいで(それでも大したものだが)、全国大会出場までには至らなかった。小・中学の同窓生によると
「みどりは運動会の徒競走では、常に1等だったね。それも一人だけ飛びぬけて速かった。ウチの学校の体育祭は、まるでみどり一人のためにやっているようなものだったよ」
という証言からもわかるように、速さだけならば相当なものだったろうが、中距離は陸上では「最も難しい距離」とも言われるように、100mから転向したみどりはここでも実力は申し分なかったものの、馴れないレースの駆け引きに苦労させられたようである。
美貌だけでも充分に通用する体操部のカオリとは違い、みどりの方はありきたりの容姿だったせいか、当初の注目度では到底カオリの比ではなかった。高校入学後から一気に成長したカオリとは違い、中学時代から注目されていたみどりこそは、最も期待の大きい「天才少女」と言えたが、あまりの期待の大きさに押し潰されたか、怪我にも泣かされ続け2年生までは実力を発揮できぬまま終る。
1年生のインターハイは、よもやの県予選敗退。国体に至っては、捻挫で予選出場すら逃す屈辱を味わう。2年生になると体操部のカオリは見事個人総合で入賞、種目別では表彰台にも上がり一躍、スターダムへと伸し上がっていく。
一方、みどりの方は、県大会レベルでは入賞の常連となっていたが、満を持して登場したインターハイでは予想に反して入賞を逃すなど、全国大会では活躍できずに終わった。普通であれば、充分に注目に値する戦歴ではあったが、何しろ華やかなカオリの存在感の前に、いかにも蔭が薄かった。
この結果を受け、カオリの大活躍と比較して
「ヨシノとは違い、ノムラは所詮ローカルレベルだった・・・」
との烙印を押された。
そしてこの年の結果は、2年連続入賞を果たしたカオリが夏休みの全校出校日に華やかに凱旋し、校内挙げてのフィーバーで迎えられたのに対し、みどりの方はさぞかし内心、悔しい思いをしたに違いなかったが、カオリには笑顔で拍手を送っていた。
みどりの不振続きの原因として、度重なる怪我などがあったに違いないだろう。が、言い訳などはひと言も口にすることなく、黙々と練習に取り組んでいたみどりが、ようやく本領を発揮し始めたのは3年生になってからだった。
まずインターハイで念願の入賞を果たすと、続いて国体にも出場を決める。インターハイでは、2年続けて入賞した女子体操部のエース・カオリに対し、満を持しての登場は「陸上部の」というよりは「A高体育系全クラブの大エース」みどりである。
選考レースの位置づけだった東海大会では、前年の国体で入賞した強敵を破り優勝という、堂々たる実績を引っ提げての登場だ。みどりにとっての夢の舞台、国体。女子1500mは、予選で4組(各10数名)に分かれ、各組の3着までと4位以下の上位タイム者4人が決勝へと進む。前年は、決勝進出を逃すという屈辱に塗れたみどり。この年は予選3組を2位、全体では8位で余裕を残して通過し、決勝へと駒を進める。
そして「最低でも入賞」の期待を背に迎えた翌日の決勝は、予選を通過した全国の強豪16人がエントリーしていた。後半まで、入賞圏内ギリギリの8位に着けていたみどりは、ラストスパートで大爆発、目の覚めるような一気加勢のゴボウ抜きを見せた。
結果は、惜しくも表彰台は逃したものの、インターハイを上回る順位での入賞となり、(恐らくは)『A高』陸上部の歴史を塗り替える大快挙を成し遂げた。
その身に一身に集まる視線、己の一挙手一投足に反応し忠実に動く、44人のシモベ(?)
(うーん、こりゃ辞められん。かいかーん!! (*`▽´*) ウヒョヒョヒョ
しかも悪い事に『A高』学園祭は一般にも開放されていたから、他校の学生やら近所の一般人やら、それなりの見物で人垣が出来ていたこともあって、すっかり舞い上がってしまい、目立ちたい一心でメチャクチャなパフォーマンスを演じてしまった。
しかしバンドの方は、最初から指揮などは当てにしてなかったか、はたまた日頃からの千佳の統率が優れていたのか、素晴らしい演奏を披露してくれた。
そして、運命の結果発表!!
「クラス対抗ブラスバンド大会。優勝は・・・『威風堂々』のA組に決定!!!」
生徒会長タカミネ御曹司の美声が高らかに告げ、リーダー千佳の元に日々特訓を続けて来たメンバーの女学生らは、みな感激の涙に暮れた。
「優勝トルフィーは、オマエが・・・」
「いいよ・・・にゃべ行ってきて」
と千佳に譲られ、タカミネ会長から金色に輝くトルフィーを手渡されたにゃべ。
「御曹司よ、祝福コメントをくれ・・・」
「うむ・・・クラスとしては悔しい。が、学校としては誇らしい演奏だった」
さすがは御曹司!
御曹司から褒められ、すっかりご機嫌となったにゃべ。
「ナカジマよ、総ては上手く纏めてくれたオマエのおかげだ。あの短期間で、みんながあんなに上手くなっているとは、正直まったく驚いたぜ・・・」
と、千佳にトルフィーを手渡すと
「フフフ・・・私も多数決を引っくり返してやるからには、それなりの意地があったからね。実のところ私もアイドルなんかより、こういうのがやりたかったから。まあ、アンタの提案のお蔭かな・・・」
さすがは気の強い彼女らしく、感涙に咽ぶ女学生の輪の中にあって、一人まったく涙を見せない。金色に輝くトルフィーを誇らしげに胸に抱き、大仕事をやり遂げた後の心底満足げな清々しい表情を浮かる千佳は、今の時代なら写メにでも撮りたくなるくらいに輝いていた。
「でも、やっぱり選曲のおかげかな。ポップス系のクラスとは、演奏効果が全然違ってたよね。この曲、とってもいい曲だからみんな好きになったし、好きでなくちゃあんなに続かないよね。アンタが言ってた通り、演奏も凄くやりやすかったし。演奏に関しては、殆どタカシマさんに仕切ってもらったようなもんだったけど、練習の時もみんな見る見る上達していく一体感が実感できて、凄く楽しくてやり甲斐があったよ」
猫のように大きな千佳の特徴的な黒目が、ゾクゾクするほど蠱惑的に見えた。
今だから言うけど、休憩の時なんか
『こっちはもう完璧だけど、唯一の心配はにゃべの指揮だねー』
なんてみんなで、アンタのことを笑ってたんだ・・・」
「バカヤロ。それよか、オレの指揮はナカナカのもんだったろ?」
「そうねえ。まあ今日の指揮は、それなりにサマになってたかな。でも、さっきタカシマさんに訊いたら
『大分、マシになったけど、まだまだ全然トーシロの域だな』
とか言ってよ」
「アイツめ、調子に乗りやがって・・・一発、お見舞いしてやらんと」
と千佳と別れ千春の姿を見つけるや、早速詰め寄った。
「アハハハ。でも、みんなにはそれなりにサマになって見えたのは、一体、誰のお蔭かしら?
最初は、スコアの見方すら知らなかったくせに・・・」
「う・・・まあ、オマエには感謝してるよ。しかし気まぐれとはいえ気になって様子見に来てくれるなんて、オマエも案外いいところがあるじゃねーか」
「私が、気になって様子見だって?
アンタ、アホとちゃう。ここだけの話、あれはナカジマさんから頼まれたのさ。
『どーせ彼は、偉そーな事を言っててもスコアが読めるかどーかも怪しいんだから、悪いけどタカシマさん見て来てくれない?』
ってね」
「クソ、アイツめ!
偉そうなカントクヅラだけでなく、最初から総てを見抜いていやがったか・・・」
「ちょっと!
『偉そうなカントクヅラ』ってのは、なんなの?
向こうで毎日、最後まで残って一番頑張っていたのは、間違いなく彼女だけど。普段は、あれだけ強気を絵に描いたような人が、吹奏楽部に1人で頭を下げに行って合同練習を頼み込んだのも彼女だし、あれがなかったら優勝なんてなかっただろうね。練習後にみんなが帰った後も、チェックリストみたいなのを作って、夜遅くまで細かいチェックをしてたしね。まあ途中からは、ずっと私も一緒だったけど。
彼女、(茶髪のヤンキー風だっただけに)元々クールな人だと思ったし、こういうのにあんなに入れ込むとは思わなかったけど、なんというか意地があったのね。途中で指揮を投げ出そうとした誰かと違ってさ、あんなに芯の強い人はちょっといないよ。ホント、今度ばかりは尊敬したわ」
「うぬぬ・・・」
「だから、ここだけの話、全国大会(声楽コンクール)前の一番大事な時なのに、部活をサボってずっと付きっ切りになっちゃったよ。だって、彼女と一緒に居る時が、一番楽しくて充実感味わえたもん・・・」
まったく意外な事実を聞くに及び
(あんなものは所詮、高校生活の余興の一つに過ぎん・・・)
などと終始醒めていたのは、一人自分だけと思い知らされることに ( ゜ ▽ ゜ ;)エッ!!