2023/07/11

悪神ロキの物語(2)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/

「六つの宝の物語」

 さらにロキが神々にもたらしたものとしては、すでに紹介してあるオーディンの持つ「投げやり」「黄金の輪」とフレイの持つ「折りたたみ式の船」と「金色の猪」、トールの持つ「槌のミョルニル」にまつわった物語があります。

 

 ある時ロキはいたずらで、トールの愛妻シフの自慢の金髪をすっかり切り取ってしまいました。トールは当然激怒してロキを捕まえ、力任せにロキをこなごなにしてしまおうとしました。ロキは大あわてで謝り、必ず元通りにしますと約束して釈放してもらい、細工に巧みな「こびと族」を訪ねていきました。そして細かな細工の名人であるこびと「イワルディ」の仕事場に行って、自然の髪と同じように生えてくる黄金の髪を注文して作らせたのでした。

 

ついでにロキは「折りたたみ式の船」と「必ず命中する投げやり」とを作ってもらってアースガルドに戻り、トールの妻には「黄金の髪の毛」を、オーディンには「投げやり」を、フレイには「折りたたみ式の船」を献上したのでした。そして自慢して、これほどのものをつくれる者は他には決して存在しないだろうと吹聴したのでした。これを聞きとがめたのがブロックルという「こびと」で、自分の兄弟の「シンドリ」はもっと素晴らしいものが作れる、とロキをたしなめてきたのです。そこで両者は言い争いになり、結局二人は「自分の頭」を賭けて勝負することになってしまいました。

 

 ブロックルからこれをきいたシンドリは早速製作に取りかかり、先ず一頭の「豚の皮」を炉の中に入れ、ブロックルに片時も休まずに「ふいご」を動かし続けるように言い置いて出ていきました。ブロックルは「ふいご」を動かし続けていましたが、その時一匹のアブが飛んできて、その手を激しく刺しました。これはアブに身を変えたロキの仕業でした。しかしブロックルはそれに耐えて「ふいご」を動かすのを止めませんでした。しばらくしてシンドリが戻ってきて、炉の中から「黄金の猪」を取り出したのでした。

 

 次にシンドリは一つの黄金の塊を炉の中に入れ、また同じようにブロックルに片時も「ふいご」を休むことなく動かすようにと言い置いて出ていきました。ブロックルが言いつけ通り休みなく「ふいご」を動かしていると、またもや「アブのロキ」が飛んできて前よりももっと激しく刺してきました。ブロックルは、必死にそれに耐えて休みませんでした。やがてシンドリが戻ってきて、とりだしたのが「黄金の輪」でした。

 

 さらにシンドリは鉄を炉の中に入れました。そしてブロックルに、もし「ふいご」の手を休ませたらすべてが台無しになってしまうからと注意して、またも出ていきました。「ふいご」を動かしているブロックルに「アブのロキ」は、今度は両目に間に止まってまぶたの上を刺してきたのです。そのため目の中に血が流れてブロックルは目が見えなくなり、困ったブロックルは一瞬動きを止めて両目の間に止まっているアブを追い払い、再び「ふいご」を動かしました。やがてもどってきたシンドリが炉の中からとりだしたのは、一つの「槌のミョルニル」でした。ただブロックルが一瞬動きを止めたため、この槌は少し柄の部分が短くなっていました。そして黄金の輪を「オーディン」に、「黄金の猪」を「フレイ」に、そして「槌のミョルニル」を「トール」に差し出し、「ロキの贈り物」とどちらが優れているかの判定を求めてきました。三人の神はそれらを見比べ、巨人たちから世界を守るのに最大の武器となる「槌のミョルニル」が最も貴重であると認めて、ブロックルの勝ちとしました。

 

 ところで二人は「頭」を賭けていたわけで、ロキは頭をとられなければならないことになってしまいましたが、そこはロキのことでずるく、頭をやるとは言ったけれど首までやるとは言わなかったのだから、首を傷つけることなく頭を取れと言い張りました。やむなくブロックルはキリと革ひもを持ち出し、ロキの生意気な口を縫い合わせてしまったといいます。

 

 以上の物語は「おとぎ話」のようなものですが、次に紹介する「神バルドル」に関わる話こそ、ロキが神々に最大の悲劇をもたらした悲惨な物語となります。

 

「神バルドル」にまつわる物語

 これは「アース神たちにとって、もっとも重要な話である」と語られてきます。その始まりは「善良なる神バルドル」が自分の生命に関わる不穏な夢をみたことから始まりました。

 

 バルドルについては「もっとも優れた神で、誰一人彼をたたえない者はいない、容貌も美しく輝いており光が発している。彼はもっとも賢く雄弁で優しい」とたたえられているほどの神であり、アース神の中でも重要な神の一人でした。

 

その彼が不吉な夢をみたということで、その夢のことをアース神たちに告げると神々は集まって相談し、バルドルをあらゆる危険から守ろうと誓いました。

 

 そしてオーディンの妻である最高の女神フリッグは「火や水、鉄を始めあらゆる金属、石や大地、樹々、獣、鳥、蛇、また病気や毒」に対して、バルドルに指一本触れることがないように誓いをたてさせました。そして神々はバルドルをみんなの真ん中に立たせて、てんでに彼めがけて弓を射たり刀で斬りつけたり、石を投げつけたりしてみました。しかし何をやっても、それはバルドルの身体に触れることがなく、彼は何ら傷を負うことがなかったのです。神々は大変喜んで満足しました。

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