2023/11/22

北欧神話(1)

宇宙論

世界樹ユグドラシル

北方民族は この世に九つの世界があると信じていた。

 

1) アースガルズ - アース神族の世界。オーディンの居城ヴァルハラが位置するグラズヘイムも、この世界に含まれる。ヴァルハラは偉大な戦士達の魂である、エインヘリャルが集う場所でもあった。こうした戦士達はオーディンに仕える女性の使い、ヴァルキュリャによって導かれる。彼女らが纏う煌く鎧が、夜空のオーロラを作り出すのだと考えられた。

エインヘリャルは、ラグナロクで神々の護衛を行う。ラグナロクとは神々とその邪悪な敵との大いなる戦いで、命あるすべての存在が死に絶えるとされた、北欧神話における最終戦争である。善と悪との両極端にわかれての戦いは、古代における多くの神話で、ごく普遍的にみられるモチーフである。

 

2) ヴァナヘイム - ヴァン神族の世界

 

3) ミズガルズ - 死を免れない人間の地

 

4) ムスペルヘイム - 炎とスルトの世界。スルトとは、溶岩の肌と炎の髪を持つ巨人である

 

5) ニヴルヘイム - 氷に覆われた世界。ロキがアングルボザとの間にもうけた半巨人の娘ヘルが支配し、氷の巨人達が住む

 

6) アルフヘイム - エルフの世界

 

7) スヴァルトアルフヘイム - 黒いエルフ、スヴァルトアールヴァルの住む世界

 

8) ニダヴェリール - 卓越した鉱夫や腕の立つ鍛冶屋であった、ドワーフや小人達の世界。彼らはトールのハンマーやフレイの機械で造られたイノシシなど、神々へ魔法の力による道具を度々作り上げた

 

9) ヨトゥンヘイム - 霜の巨人ヨトゥンを含む巨人の世界

こうした世界は世界樹ユグドラシルにより繋がれており、アースガルズがその最上に位置する。その最下層に位置するニヴルヘイムで根を齧るのは、獰猛な蛇(または竜)のニーズヘッグである。アースガルズには、ヘイムダルによって守られている魔法の虹の橋、ビフレストがかかっている。このヘイムダルとは、何千マイルも離れた場所が見え、その音を聞くことが可能な、寝ずの番をする神である。

 

北欧神話の宇宙観は、強い二元的要素を含んでいる。例えば昼と夜は、昼の神ダグとその馬スキンファクシ、夜の神ノートとその馬フリームファクシが神話学上、相応するものである。このほか、太陽の女神ソールを追う狼スコルと、月の神マーニを追う狼のハティが挙げられ、世界の起源となるニヴルヘイムとムスペルヘイムが、すべてにおいて相反している点も関連している。これらは、世界創造の対立における深い形而上学的信仰を反映したものであったのかもしれない。

 

神的存在

神々にはアース神族・ヴァン神族・ヨトゥンの3つの氏族がある。当初、互いに争っていたアース神族とヴァン神族は、最終的にアース神族が勝利した長きにわたる戦争の後、和解し人質を交換、異族間結婚や共同統治を行っていたと言われており、両者は相互に関係していた。一部の神々は、両方の氏族に属してもいた。

 

この物語は、太古から住んでいた土着の人々の信仰していた自然の神々が、侵略してきたインド=ヨーロッパ系民族の神々に取って代わられた事実を象徴したものではないかと推測する研究者もいるが、これは単なる憶測に過ぎないと強く指摘されている。

 

他の権威(ミルチャ・エリアーデやJP・マロイ等)は、こうしたアース神族・ヴァン神族の区分は、インド=ヨーロッパ系民族による神々の区分が北欧において表現されたものだったとし、これらがギリシア神話におけるオリュンポス十二神とティーターンの区分や、『マハーバーラタ』の一部に相当するものであると考察した。

 

トールは幾度も巨人達と戦う

アース神族とヴァン神族は、全体的にヨトゥンと対立する。ヨトゥンは、ギリシア神話でいうティーターンやギガースと同様の存在であり、一般的に「giants(巨人)」と訳されるが、「trolls(こちらも巨人の意)」や「demons(悪魔)」といった訳の方が、より適しているのではないかという指摘もある。しかし、アース神族はこのヨトゥンの子孫であり、アース神族とヴァン神族の中にはヨトゥンと異族間結婚をした者もいる。例えば、ロキは2人の巨人の子であり、ヘルは半巨人である。言うまでもなく、最初の神々オーディン、ヴィリ、ヴェーは、雌牛アウズンブラの父が起源である。

 

エッダにおいては一部の巨人が言及され、自然力の表現であるようにも見える。巨人には通常、サーズ(Thurse)と普通の横暴な巨人の2つのタイプがあるが、他にも岩の巨人や火の巨人がいる。エルフやドワーフといった存在もおり、彼らの役割は曖昧な点もあるが、概して神々の側についていたと考えられている。

 

加えて、他にも霊的な存在が数多く存在する。まず、巨大な狼であるフェンリルや、ミズガルズの海に巻きつくウミヘビのヨルムンガンドという怪物がいる。この怪物達は悪戯好きの神ロキと、巨人アングルボザの子として描かれている(3番目の子はヘルである)。

 

それらよりも慈悲深い怪物は、2羽のワタリガラスであるフギンとムニン(それぞれ「思考」と「記憶」を意味する)である。オーディンは、その水を飲めばあらゆる知識が手に入るというミーミルの泉で、自身の片目と引き換えに水を飲んだ。そのため、この2匹のカラス達はオーディンに、地上で何が起こっているかを知らせる。その他、ロキの子で八本足の馬スレイプニルはオーディンに仕える存在で、ラタトスクは世界樹ユグドラシルの枝で走り回るリスである。

 

北欧神話は、他の多くの多神教的宗教にも見られるが、中東の伝承にあるような「善悪」としての二元性をやや欠いている。そのため、ロキは物語中に度々、主人公の一人であるトールの宿敵として描かれているにもかかわらず、最初は神々の敵ではない。

 

巨人たちは、粗雑で乱暴・野蛮な存在(あまり野蛮ではなかったサーズの場合を除く)として描かれているが、全くの根本的な悪として描かれてはいない。つまり、北欧神話の中で存在する二元性とは、厳密に言えば「神 vs 悪」ではなく、「秩序 vs 混沌」なのである。神々は自然・世の中の道理や構造を表す一方で、巨人や怪物達は混沌や無秩序を象徴している。

 

巫女の予言:世界の起源と終焉

世界の起源と終局は、『詩のエッダ』の中の重要な一節『巫女の予言(ヴォルヴァの予言)』に描かれている。これらの詩には、宗教的なすべての歴史についての最も鮮明な創造の記述と、詳述されている最終的な世界の滅亡の描写が含まれている。

 

この『巫女の予言』では、ヴァルハラの主神オーディンが一度死んだヴォルヴァ(巫女)の魂を呼び出し、過去と未来を明らかにするよう命じる。巫女は、この命令に気が進まず

 

「私にそなたは何を問うのか?

なぜ私を試すのか?」

 

と述べる。彼女はすでに死んでいるため、オーディンに対する畏怖は無く、より多くを知りたいかと続けて嘲った。しかしオーディンは、神々の王としての務めを果たす男ならば、すべての叡智を持たなければならないはずであると主張する。すると巫女は過去と未来の秘密を明かし、忘却に陥ると口を閉じた。

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