2023/11/25

チャクラ(1)

チャクラ(梵: चक्र, cakra; : chakra)は、サンスクリットで円、円盤、車輪、轆轤(ろくろ)を意味する語である。ヒンドゥー教のタントラやハタ・ヨーガ、仏教の後期密教では、人体の頭部、胸部、腹部などにあるとされる中枢を指す言葉として用いられる。

輪(りん)と漢訳される。チベット語では「コルロ」という。

 

概説

タントラの神秘的生理学説では、物質的な身体(粗大身、ストゥーラ・シャリーラ)と精微な身体(微細身、スークシュマ・シャリーラ)は複数のナーディー(脈管)とチャクラでできているとされる。ハタ・ヨーガの身体観では、ナーディーはプラーナが流れる微細身の導管を意味しており、チャクラは微細身を縦に貫く中央脈管(スシュムナー)に沿って存在するとされる、細かい脈管が絡まった叢である。

 

身体エネルギーの活性化を図る身体重視のヨーガであるハタ・ヨーガでは、身体宇宙論とでもいうべき独自の身体観が発達し、蓮華様円盤状のエネルギー中枢であるチャクラと、エネルギー循環路であるナーディー(脈管)の存在が想定された。これは『ハタプラディーピカー』などのハタ・ヨーガ文献やヒンドゥー教のタントラ文献に見られ、仏教の後期密教文献の身体論とも共通性がある。

 

現代のヨーガの参考図書で述べられる身体観では、主要な3つの脈管と身体内にある6つのチャクラ、そして頭頂に戴く1つのチャクラがあるとされることが多い。この6輪プラス1輪というチャクラ説は、ジョン・ウッドロフ(筆名アーサー・アヴァロン Arthur Avalon)が著作『蛇の力』 (The Serpent Power) で英訳紹介した『六輪解説』 (acakranirūpaa) に基づいている。この書物は16世紀ベンガル地方で活動したシャークタ派のタントラ行者プールナーナンダが1577年に著したとされるもので、これについてミルチャ・エリアーデは最も正統的なチャクラ観を表わす文献だと評した。アーサー・アヴァロンによる紹介以降、この6輪プラス1輪のチャクラは定説のようにみられているが、実際は学派や流派によってさまざまな説がある。

 

例えば『ヘーヴァジュラ・タントラ』などの仏教タントリズムでは4輪説が主流である。愛知文教大学の遠藤康は、『六輪解説』における身体観は脈管とチャクラに関する比較的詳細でよくまとまった解説であり、チャクラを含む伝統的な身体観を原典に遡って理解するうえで有益な文献であるが、あくまで特定の流派における論である、と指摘している。

 

表象文化論を研究する埼玉大学基盤教育研究センター准教授の加藤有希子によると、現代に広く普及した虹色と7つのチャクラを関連付けた身体論は、近代神智学のチャールズ・ウェブスター・レッドビータ(1854 - 1934年)が考案したものである。彼はインド由来のヨーガの経典とも西洋の信仰や神秘主義の文脈からも断絶する形で、1927年の著作で7つのチャクラのプラーナの色と、西洋の虹の7色を独自に関連付けた。近現代ヨーガ、ニューエイジやスピリチュアル系の思想に取り入れられている。そういった言説では、チャクラの7色はインドの伝統に由来するかのように伝えられているが、事実とは異なる。

 

ヒンドゥー・ヨーガにおけるチャクラ

一般にチャクラは6つあると言われる(サハスラーラをチャクラに含る場合は7つ)。背骨の基底部から数えて第1チャクラ、第2チャクラ……と呼ぶこともある。

 

ハタヨーガの古典『シヴァ・サンヒター』ではチャクラはパドマ(蓮華)と呼ばれ、同書第5章ではアーダーラパドマからサハスラーラパドマまでの7つの蓮華について詳述されている。加藤有希子によると、伝統的なチャクラの色には体系的な秩序はほとんどなく(さほど重視されてこなかったのかもしれない)、現代のように各チャクラに虹の7色があてはめられることはない。

 

1のチャクラ

ムーラーダーラ・チャクラ(mūlādhāra-cakra)と呼ばれ、脊柱の基底にあたる会陰(肛門と性器の間)にある。「ムーラ・アーダーラ」とは「根を支えるもの」の意である。ヒンドゥー・ヨーガの伝統的なチャクラの図では、赤の四花弁をもち、地の元素を表象する黄色い四角形とヨーニ(女性器)を象徴する逆三角形が描かれている。三角形の中には、蛇の姿をした女神クンダリニーが眠っている。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は金色。『蛇の力』での色は黄色。

 

2のチャクラ

スワーディシュターナ・チャクラ(svādhişţhāna-cakra)と呼ばれ、陰部にある。「スヴァ・アディシュターナ」は「自らの住処」を意味する。朱の六花弁を有し、水の元素のシンボルである三日月が描かれている。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は金色。『蛇の力』での色は白。

 

3のチャクラ

マニプーラ・チャクラ(maņipūra-cakra)と呼ばれ、腹部の臍のあたりにある。「マニプーラ」とは「宝珠の都市」という意味である。青い10葉の花弁をもち、火の元素を表す赤い三角形がある。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は黄金色。『蛇の力』での色は赤。

 

4のチャクラ

アナーハタ・チャクラ(anāhata-cakra)と呼ばれ、胸にある。12葉の金色の花弁をもつ赤い蓮華として描かれ、中に六芒星がある。風の元素に関係する。「アナーハタ」とは「二物が触れ合うことなくして発せられる神秘的な音」を指す。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は真紅。『蛇の力』での色は煙色。

 

5のチャクラ

ヴィシュッダ・チャクラ(viśhuddha-cakra)と呼ばれ、喉にある。くすんだ紫色をした16の花弁をもつ。虚空(アーカーシャ)の元素と関係がある。「ヴィシュッダ・チャクラ」は「清浄なる輪」を意味する。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は黄金色。『蛇の力』での色は白。

 

6のチャクラ

アージュニャー・チャクラ(ājñā-cakra)と呼ばれ、眉間にある。インド人は、この部位にビンディをつける。2枚の花弁の白い蓮華の形に描かれる。「アージュニャー」は「教令、教勅」を意味する。「意」(マナス)と関係がある。『シヴァ・サンヒター』で言及されているチャクラの色は白色。

 

7のチャクラ

サハスラーラ(sahasrāra)と呼ばれ、頭頂にある。sahasra は「千」、ara は「輻」〔や〕で、千の花弁の蓮華(千葉蓮華)で表象される。一説に千手観音の千手千眼はこのチャクラのことという。他の6チャクラとは異なり身体次元を超越しているとも考えられ、チャクラのうちに数え入れられないこともある。

 

その他

アージュニャーの近傍にマナス・チャクラとソーマ・チャクラ、ムーラーダーラとスワーディシュターナの間にヨーニシュターナがあるとされるが、これらは主要なチャクラには数えられない。

 

20世紀のヨーガ行者ヨーゲシヴァラナンダは、主な6チャクラに加えて臍の上のスールヤ・チャクラ(太陽のチャクラ)とチャンドラ・チャクラ(月のチャクラ)を挙げ、身体には8つのチャクラがあるとしている。

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