2021/06/27

密教 ~ 大乗仏教(5)

出典 https://user.numazu-ct.ac.jp/~nozawa/b/bukkyou1.htm#ch3

 

10. 如来蔵思想

如来蔵とは、生きとし生きるもの(衆生 しゅじょう)が皆、如来を胎内に宿しているということである。如来すなわち仏になる可能性は仏性(ぶっしょう)ともいわれるが、それがすべての生きものにそなわっているという教えである(一切衆生、悉有仏性

 

この如来蔵あるいは仏性を所有することが、あらゆる生きものがいつかは仏になり、救済されうる根拠であるとする。『勝鬘経』大乗の『大般涅槃経』『楞伽経』『大乗起信論』などに説かれる。

 

11. 密教

大乗仏教は、中観、唯識学派の成立により学問化する一方で、大衆の間では密教化していった。密教とは秘密教という意味である。

 

その特質は呪術性にある。呪力の発現により、現世利益の成就をはかる。あるいは、自己と絶対的な真理を体現する大日如来との神秘的な合一の体験、即身成仏を目指す。呪力を発現させるために唱えられる呪句は、真言、あるいは陀羅尼(だらに)といわれる。儀式は諸尊を配置した曼荼羅(まんだら)の前で行われる。

 

密教的な要素は、大乗仏教の早い時代から認められる。呪句としての陀羅尼は、3世紀には成立していたとされる『法華経』陀羅尼品をはじめ、大乗経典にしばしば現れる。

 

ついで 4世紀ころから、それまで部分的に説かれていた陀羅尼を主として説く初期の密教経典が成立した。そして、密教特有の教義が、7世紀ころの『大日経』と少し遅れて成立した『金剛頂経』において確立された。

 

『大日経』の説く曼荼羅は「胎蔵界曼荼羅」といわれる。『金剛頂経』の説く曼荼羅は「金剛界曼荼羅」といわれる。

 

胎蔵界曼荼羅」は、衆生の心に眠る仏になる可能性(仏性)が目覚める時、母親が胎内のわが子を慈しむように、大日如来は太陽のような限りなく大きい慈悲の光を投げかけ、衆生を悟りへ導く。その様子を図形化したものである。また、「金剛界曼荼羅」は、水が凍って氷になるように、清浄な智慧が凝集して光り輝くダイヤモンド(金剛石)のようになり、全身に行き渡ることを象徴している。

 

密教には、インドの民衆の信仰の影響が著しい。ヒンドゥーの多くの神々が取り入れられ、護法神あるいは明王として崇拝の対象とされる。また、後期の密教には、性力を崇拝する快楽主義的なタントリズムの影響がみられ、男女交合を絶対視する左道密教が生まれた。

 

12. インド仏教の消滅

密教化した仏教は、ヒンドゥー教と明確には区別がつかないものとなり、ヒンドゥー教に融合していった。

 

これに拍車をかけたのが、中世インドにおける都市の衰退である。僧院は、都市の住民である商人階級の寄進に依存していた。都市の衰退によって、仏教は経済的基盤を失った。僧達は、維持が困難になった僧院を捨て、別の僧院に移った。

 

その一方で、ヒンドゥー教のバクティ運動は、仏教の衰退と並行して盛んになっていった。僧に去られた仏教徒たちは、多くがヒンドゥー教に吸収されていった。

 

さらに、インド仏教の消滅を決定的にしたのは、11世紀ころから始まるイスラム教のインド伝播である。イスラムの侵入にともない、多くの僧がネパール、チベットに逃れた。象徴的な事件は、1203年に起こった。この年、インド仏教最後の砦となったヴィクラマシラー僧院が、イスラム軍によって破壊された。僧は国外に逃れ、信者はヒンドゥー教やイスラム教に吸収された。そして13世紀、インドにおいて仏教は、ほぼ消滅した。

 

13. 現代インドの仏教

1990年の統計によれば、インドの人口 8億人のうち仏教徒は 0.71%である。その数は 0.48%のジャイナ教を上回っている。これは主として、階級差別に対する抵抗運動を指導したアンベードカル(1893-1956)が推し進めた、ヒンドゥー教から仏教への改宗運動によるものである。

 

アンベードカルは、被差別階級に生まれたが、奨学金を受けてアメリカやイギリス、ドイツの大学で教育を受けた。いったんは役人となるが、不当な待遇を受けて辞職し、後に差別社会と戦う政治運動の指導者として活躍した。1947年インド独立後、新憲法制定議会に議席を得て政府の法務大臣となり、憲法の起草に貢献し被差別階級に対する差別を非合法化したが、1951年、政府内の非協力的な勢力への失望から大臣を辞職。1956年、ヒンドゥー教の枠内にとどまる限り、カースト制の厳格な階級差別から逃れられないとして、差別されている低いカーストの人々に呼びかけ、仏教への改宗を説いた。

 

これが支持されて仏教に改宗する人が増え、1930年代には全人口比0.1%であった仏教信者が、現在ではインド第 5の宗教勢力になっている。

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