2023/12/03

チャクラ(2)

仏教におけるチャクラ

インドの後期密教のタントラ聖典では、一般に主要な3つの脈管と臍、心臓、喉、頭(眉間)の4輪があるとされた(四輪三脈説)。最上位はヒンドゥー・ヨーガのサハスラーラに相当する「ウシュニーシャ・カマラ」(頂蓮華)または「マハースッカ・カマラ」(大楽蓮華)である。他の3つは臍にある「変化身」(ニルマーナ・カーヤ)のチャクラ、心臓にある「法身」(ダルマ・カーヤ)のチャクラ、喉にある「受用身」(サンボガ・カーヤ)のチャクラであり、仏身の三身に対応している。『時輪タントラ』は、この四輪に頭頂と秘密処(性器の基部に相当)のチャクラを加えた六輪六脈説をとる。

 

平岡宏一は、チベット仏教の無上瑜伽タントラの5つのチャクラとして大楽輪(頭頂)、受用輪(喉)、法輪(胸)、変化輪(臍)、守楽輪(秘密処)を挙げている。平岡によると、ゲルク派の解釈では、チャクラは中央脈管と左右の脈管が絡みついている位置にあり、縦に伸びる中央脈管を幹として枝のように横に広がる脈管の叢を成しているとされる。チベット仏教の指導者であるダライ・ラマ14世は、その場所に心を集中すると何かしらがあるという反応が得られると述べている。

 

仏教のゾクチェンのラマであるナムカイ・ノルブの説明によれば、チャクラは樹木状に枝分かれした脈管のスポーク状になった合流ポイントである。主要なチャクラは樹木の幹にあたる中央脈管上にあるが、他にも多くのチャクラがある。そして、タントラによってチャクラの数が異なるのは一貫性に欠けているわけではなく、基本的なプラーナのシステムの概念は共通しており、さまざまなタントラの修行においてそれぞれに異なったチャクラを使うため、それぞれのテキストでは必要なチャクラだけが書かれているのだという。

 

仏教学者の田中公明は、後期密教の生理学的なチャクラ説の源流として『大日経』に説かれる五字厳身観を挙げている。これは身体の5箇所に五大に対応する5つの種字を配する観法で、行者の身体を五輪塔と化す意義をもつものである。田中によると、五字厳身観は密教の身体論的思想の萌芽であり、精神を集中させる重要なポイントが身体にあるという発想の契機となった。

 

中国

中国の道家や内丹術の伝統的な身体論には、インドのチャクラに比すべき丹田という概念があるが、清代の閔小艮はヨーガのチャクラの概念を内丹術に取り入れた。

 

欧米・日本

チャクラの概念は欧米に紹介された。近代神智学のチャールズ・ウェブスター・レッドビータ(1854 - 1934年)は、ヨーガの修行でチャクラが覚醒したと主張し、1927年に『THE CHAKRAS』を書いた。加藤有希子によると、レッドビータが初めて虹、つまり太陽のスペクトルの7色と各チャクラのプラーナの色(菫、青、緑、黄、オレンジ、真紅、これらを統合したバラ色とされている)を関連付け、オーラを体系化した。

 

THE CHAKRAS』では、近代神智学の創始者ヘレナ・P・ブラヴァツキーの『シークレット・ドクトリン』3452ページを参照せよとあるが、そこにチャクラと色に関する記述は見られない。彼はチャクラを『ヨーガ・スートラ』と切り離し、虹の信仰を伝統的な「西洋起源の宇宙論的で契約論的な信仰」とも切り離し、西洋神秘主義的な彼以前の近代神智学とも異なる形でチャクラと虹の7色を結びつけ、システマティックな身体論にまとめた。

 

レッドビータの虹色チャクラ説は、ニューエイジやオーラソーマなどのカラーセラピーの原点に親和するようなものだった。彼のチャクラ・オーラの概念は西洋オカルティズム、ニューエイジにも導入された。ニューエイジ系の人々のなかには、オーラ(生体が発散するとされる霊的な放射体)はチャクラから生ずると考える人もいる。欧米のヨーガ、レイキなどのエネルギー療法・手当て療法、日本の新宗教(桐山靖雄の阿含宗、オウム真理教、玉光神社の本山博主宰の宗教心理学研究所など)にも取り入れられている。

 

チャクラ図や宗教における後光などはあくまで象徴図・レトリックであり、伝統的にそれが物質的に何であるかが論じられることはなかった。初期のオーラ論者たちはオーラと霊的な力に物質的な裏付けを与えようとし、レッドビータはプラーナを虹色であるとし、当時の生理学・物理学を使ってチャクラやオーラ現象を物質世界の現象と結びつけて論じることで、オーラとチャクラの概念を物質化し、スピリチュアルでありかつマテリアルであると考える傾向をもたらした。現在もチャクラを実在すると考え、現実の肉体における内分泌腺などと霊的に直結し、それぞれの宇宙次元[要追加記述]にも対応していると考える人もいる。

 

チャクラは霊的肉体にあり、通常の人間には見えないが、開花したチャクラ[要追加記述]は霊視により花弁状に見えるとされ、チャクラを開花させる[要追加記述]とそれぞれのチャクラの性質に応じた能力が発揮できるようになると言われることもある。「仙骨は赤オレンジ、セクシュアリティやバイタリティと関わっている」というように、もっともらしく感じられるような色がそれぞれの能力にあてはめられている。非常に分かりやすく、色彩論における反知性主義ともいえるような言説である。加藤有希子は、取り上げられる能力は「人間が持つ総体的な能力というより、高度消費社会の住人が生きるのに必要な能力に限定されている」と指摘している。

 

加藤は、20世紀初頭のオーラ論は人種差別・女性蔑視・病気や障害を持つ人への差別の温床になっていたが、レッドビータの説はそれらとは大きく異なり、全ての人間が7色のオーラを持つとすることでグローバル化・ポストコロニアル化が図られており、また世界ではなく個人が虹の7色を持ち、それを掌握すると考えることで個人の神格化に帰結していると述べている。彼の思想は、のちのニューエイジや自己啓発の「高度消費社会のキッチュ」に近い言説で、問題意識はグローバルなものであり、ニューエイジ思想の成立に大きな影響を与えたと言われている。

 

現代ではチャクラやオーラ論は、新しい治癒のトポロジーになり、セラピーや健康維持として消費されている。

 

フィクションでのチャクラ

以下は、夢枕獏の小説『キマイラ・吼』シリーズに登場するチャクラ。

 

アグニ

仙骨にあり鬼骨などとも呼ばれ、この1つのチャクラで、7つのチャクラを合わせたよりも更に大きな力を持つとされ、生命進化の根元を司るとも言われる。あまりに強大な力を持つゆえに、このチャクラを開眼させたまま放っておくと人は獣や鬼に変じてしまうなどという話もあるが、現代のヨーガ実践者でそれを開眼させた者はおらず、眉唾的なものではある。ただ、古代中国に赤須子(せきしゅし)がそのチャクラを開眼させてしまい、獣(的なもの)に変じた赤須子が村人を数十人喰い殺し、見かねた老子が赤須子を封じたという記録が唯一残っている。

 

ソーマ

月のチャクラなどとも呼ばれ、アグニチャクラの開眼により暴走を始めた肉体(生命力)を統べ得る唯一のチャクラと言われるが、アグニチャクラの存在自体が定かでないため、更にその存在は疑問視されることがある。ソーマの身体上の位置を、頭頂の更に上(要するに虚空)と主張している。これは人間の身体を肉体だけでなく、エーテル体なども含めた上での見解である。

 

また、岸本斉史による漫画『NARUTO -ナルト-』では、チャクラは「遍く術の礎となるエネルギー」「万物を生成する精気」とされ、エネルギーの中枢ではなくエネルギーそのものを意味する言葉として使われている。

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