2021/05/01

道教(1)

道教(どうきょう、拼音: Dàojiào)は、中国三大宗教(三教、儒教・仏教・道教の三つ)の一つであり、中国の漢民族の固有の宗教。時には外来宗教を除いてその後に残る中国の宗教形式をすべて「道教」の名で呼称する場合もある。多神教であり、その概念規定は確立しておらず、さまざまな要素を含んだ宗教である。伝説的には、黄帝が開祖で、老子がその教義を述べ、後漢の張陵が教祖となって教団が創設されたと語られることが多い。

 

一般には、老子の思想を根本とし、その上に不老長生を求める神仙術や、符籙(おふだを用いた呪術)・斎醮(亡魂の救済と災厄の除去)、仏教の影響を受けて作られた経典・儀礼など、時代の経過とともに様々な要素が積み重なった宗教とされる。ほかにも、『墨子』の鬼神信仰や、儒教の倫理思想・陰陽五行思想・讖緯思想・黄老道(黄帝・老子を神仙とみなし崇拝する思想)なども道教を構成する要素として挙げられる。道教は中国のさまざまな伝統文化の中から生まれており、中国で古くから発達した金属の精錬技術や医学理論との関係も深い。

 

しかし、道教は中国の歴史上の道家とは別物であり、また「道家の教・道門・道宗・老子の教・老子の学・老教・玄門」などの呼称がある[4]

 

歴史

詳細は「道教の歴史」を参照

 

老子の誕生を描いた画

道教は後漢末頃に生まれ、魏晋南北朝時代を経て成熟し定型化し、隋唐から宋代にかけて隆盛の頂点に至った。その長い歴史の中で、悪魔祓いや治病息災・占い・姓名判断・風水といった巫術や迷信と結びついて社会の下層に浸透し、農民蜂起を引き起こすこともあった。一方で、社会の上層にも浸透し、道士が皇帝個人の不老長生の欲求に奉仕したり、皇帝が道教の力を借りて支配を強めることもあった。また、隠遁生活を送った知識人の精神の拠りどころとなる場合も多い。こうした醸成された道教とその文化は現代にまで引き継がれ、さまざまな民間風俗を形成している。

 

現代、全世界に道教の信徒を自認する人は3000万人ほどおり、台湾や東南アジアの華僑・華人の間で信仰されている。また、中国のみならず中国文化の影響下にあった朝鮮半島・東南アジア・日本といった地域では、道教的な文化を多く受容している[6]。中国本国においては、五四運動や日中戦争、また中国共産党の宗教禁止政策などで下火になったが、近年徐々に復興している。

 

教義

道教が幅広い内容を含むものであることは古くから指摘されており、たとえば南朝梁の劉勰が著した『滅惑論』では、道教の3つの要素たる「道教三品」として以下の三点を挙げている。

 

上:老子 - 老子の無為や虚柔の思想

次:神仙 - 神仙の術

下:張陵 - 祭祀や上章(神々への上奏文を燃やす儀式)および符書(お札)の類

また、元の馬端臨が著した『文献通考』の「経籍考」では、道教の内容を五つ挙げている。

 

清浄 - 老子・荘子・列子などの清浄無為の思想。

煉養 - 内丹などの養生術。

服食 - 仙薬を服用し不老長生を図ること(外丹)。

符籙 - 符籙(おふだ)を用いた呪術。

経典科教 - 仏教に対抗して作られた経典や儀礼で、近世の道士が用いるもの。

これらの説を受けて、『四庫提要』の「道家類」の序文では、道家(道教)は老荘の「清浄自持」を根本とし、その後、神仙家・煉丹術・符籙・斎醮(亡魂を救済したり災厄を除去するために行う)・章呪(神々への上書文や呪術)などが加わっていったという説明がなされている。

 

以下、重要な要素ごとに説明を加える。

 

老子の「道」

老子は先秦時代の学者とされるが、その経歴については不明な点が多く、その思想を記した書である『老子道徳経』の成立時期もさまざまな説がある。道教は中国古来の宗教的な諸観念をもとに長い期間を経て醸成されたもので、一人の教祖によって始められたものではないから、老子が道教の教祖であるとはいえない。

 

しかし、『老子』に説かれる「道」の概念が道教思想の根本であることは確かである。道教においては、不老長生を得て「道」と合一することが究極の理想として掲げられ、道徳の教理を記した書の冒頭には『老子』の「道」または「道徳」について説明がなされるのが通例である。

 

『老子』の冒頭には、以下のようにある。

 

道の道とすべきは、常の道に非ず。名の名とすべきは、常の名に非ず。名無し、天地の始めには。名有り、万物の母には。故に常に無欲にしてその妙(深遠な根源世界)を観て、常に有欲にしてその徼(明らかな現象世界)を観る。この両者は同じきより出でて名を異にし、同じくこれを玄(奥深い神秘)と謂う。玄のまた玄、衆妙の門。

『老子』第一章

 

『老子』では、世間で普通に「道」と言われているような道は本当の道ではないとして否定し、目に見える現象世界を超えた根源世界、天地万物が現れた神秘の世界に目を向ける。「道」は超越的で人間にはとらえがたいものだが、天地万物を生じるという偉大な働きをし、気という形で天地万物の中に普遍的に内在している。

 

『老子』に見られる「道」「徳」「柔」「無為」といった思想は、20世紀後半に発掘された馬王堆帛書や郭店楚簡から推測すると、戦国時代後期には知られていたと考えられる。「道」を世界万物の根源と定める思想もこの頃に発生し、やがて老子の思想と同じ道家という学派で解釈されるようになった。一方、『老子道徳経』の政治思想は、古代の帝王である黄帝が説く無為の政治と結びつきを強め、道家と法家を交えた黄老思想が成立した。前漢時代まで大きく広まり実際の政治にも影響を与えたが、武帝が儒教を国教とすると民間に深く浸透するようになった。その過程で老荘思想的原理考究の面が廃れ、黄帝に付随していた神仙的性質が強まっていった。そして老子もまた不老不死の仙人と考えられ、信仰の対象になった。

 

道教においては、不老長生を得て「道」と合一することを理想とするが、その際には精神的な悟脱だけを問題とするのではなく、身体的な側面も極めて重視する。そのため、形而上の「道」の具体的な発現である「気」もクローズアップされるようになった。

 

神仙道

健康で長生きしたいという人々の共通の願いが、永遠の生命を得るという超現実的なところまでふくらませたものが神仙という観念であり、道教では理念的には神仙になることを最終目標としている。神仙は、東の海の遠くにある蓬萊山や西の果てにある崑崙山に棲み、不老不死などの能力を持っている。また、戦国時代から漢代にかけては、神仙は羽の生えた人としてイメージされることが多く、神仙は天へと飛翔する存在とされる。神仙は、『荘子』においては「真人」「神人」「至人」などとも呼称される。

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