2021/03/02

社会哲学 ~ ストア派(4)

ストア派の顕著な特徴は、そのコスモポリタニズムにある。

ストア派によれば、全人類は一つの普遍的な霊魂の顕現であり、兄弟愛をもって生き互いに躊躇なく助け合うべきである。

 

『語録』において、エピクテトスが人間の世界に対する関係について述べている。

「各人は第一には、めいめいの所属する共同体の一員である。しかし彼は神と人の偉大な国の一員でもあり、その国ではコピーだけが政治に関心を持つのだ」

この思想は、シノペのディオゲネスを模倣したものである。ディオゲネスは

「私はアテナイ人でもコリントス人でもなく世界市民である」と述べている。

 

階級や資産といった外的な差異は、社会的関係において何ら重要性を持たないと彼らは考えた。代わりに、彼らは人間の兄弟愛と全人類の本性的平等を称揚した。ストア派はギリシアーローマ世界で最も影響力ある学派となり、カトやエピクテトスといった多くの注目に値する著述家・人物を輩出した。

 

特に、彼らは奴隷に慈悲をかけることを推し進めたことで注目される。セネカは

「あなたが自分の奴隷と呼んでいるものは、あなたと同根から生じたこと、同じ天に向かって微笑みかけること、あなたと同じ言葉で呼吸し、生き死ぬことを思いやりを持って覚えておきなさい」とセネカは勧めている。

 

ストア主義とキリスト教

二つの哲学の大きな違いはストア派が汎神論、つまり神が決して超越的でなく、むしろ内在的であるという立場をとることにある。世界を創りだす実在としての神は、キリスト教思想においては人格的なものとされるが、ストア派は神を宇宙の総体と同一視した。万物が物質的であるというストア主義の思想は、キリスト教と強く対立している。また、ストア派はキリスト教と違って世界の始まりや終わりを措定しないし、個人が死後も存在し続けると主張しない。

 

ストア主義は教父によって「異教哲学」とみなされたが、それにもかかわらずストア主義の中心的な哲学的概念の中には、初期のキリスト教著述家に利用されたものがある。その例として「ロゴス」、「徳」、「魂」、「良心」といった術語がある。しかも、相似点は用語の共有(あるいは借用)に留まらない。ストア主義もキリスト教も主張した概念として、この世界における所有・愛着の無益性・刹那性だけでなく、外的世界に直面した際の内的自由、自然(あるいは神)と人との近縁性、人間の本性の堕落―あるいは「持続的な悪」という考えなどがある。各人の人間性の大きな可能性を呼び覚まし発展させるために、情動およびより劣った感情(すなわち渇望、羨望、怒気)に関して禁欲を実践することが奨励された。

 

マルクス・アウレリウスの『自省録』のような、ストア派の著作が時代を超えて多くのキリスト教徒によって高く評価された。ストア派のアパテイアという理想が今日、正教会によって完全な倫理的状態として認められている。ミラノのアンブロシウスは、ストア哲学を自身の神学に適用したことで知られた。

 

自殺をめぐる解釈の違い

自殺は人間の自由の最高の表現であるとするストア派に対して、キリスト教の考えでは自殺は「形式的に」自由の表現であるにすぎず、「自由の存立基盤」自体が破壊されてしまうために「内容的には最も不自由な行為」であるとされる。そして個人の肉体はあくまで「神に創られて存在する被造物」であるため、個人は自らの肉体を自由に破壊する権利を有していないとされる。

 

近代の用法

ストイック」という言葉は、一般に苦痛・歓喜・強欲・歓楽に無関心な人を指して使われる。「感情を抑え、我慢強く耐える人」という近代の用法は1579年に名詞の形で初めて見られ、1596年には形容詞の形で見られた。「エピクロス主義者」と対照的に、『スタンフォード哲学百科事典』のStoicismの項には「英語の形容詞stoicalが、その哲学的起源に対して誤解をもたらすことはない」と述べられている。

 

ストア派の引用

ストア派の一般的な教説を示すような、著名なストア派哲学者からの引用を以下に示す。

 

エピクテトス

「自由は人の欲求を満たすことではなく、欲求を除去することで得られる。」

 

「神は、どこにいるのか? あなたの心の中に。

悪は、どこにあるのか? あなたの心の中に。

どちらもないのはどこか? 心から独立なものの所である。」

 

「人間は物にかき乱されるのではなく、物に対する自分の考えにかき乱されるのだ。」

「それゆえ、もし不幸な人がいたら、彼に自分が自分自身の理由で不幸なのだと思い出させよう

 

「私は私の長所に関して、自然によって形成された。私は欠点に関して形成されたわけではない。」

 

「自分自身以外の何物にも執着してはならない。自分から引き離された後に苦痛しか残さないような、あなたにならないものに執着してはならない。」

 

マルクス・アウレリウス・アントニヌス

「判断することをやめよ、『私は傷ついた』と考えるのをやめよ、あなたは傷自体を免れているのだ。」

 

「世界よ、あなたにとって正しいものは、すべて私にとっても正しい。あなたにとって時宜に適っているものの内で、私にとって早すぎたり遅すぎたりするものなどない。

自然よ、あなたの季節がもたらすものは皆、私にとって実りある。あなたから全てのものが生まれる、あなたの内に、全てのものがある、あなたに向かって全てのものが還帰する。」

 

「あなたがあなたの前面で働いているなら、あなたが即座にそれを取り戻すことになっているかのように、正しい理性があなたを破壊するようなものはなく、あなたの心的な部分は純粋に保ち、真面目に、活発に、静謐に引き続く。

もしあなたがそれを保ち、何も期待せず、しかし自然に従った今の生活に満足し、あなたが口にする全ての言葉において英雄的真理を述べるなら、あなたは幸福に暮らせるだろう。そして何者之を妨害できない。」

 

「人生で起こること全てにいちいち驚くのは、なんと馬鹿げていてなんと奇妙なことだろう!

 

「外的なものが魂に触れることはない。たとえ最も僅少な程度においても。

魂に入る許可が与えられることもないし、魂を変化させたり動かしたりすることもない。しかし魂は自身を変化・移動させられるのだ。」

 

「あなた自身の強さは役目と同じではないのだから、人の力を超えていると思わないことだ。しかし全てが人の権能・職分であるなら、それがあなた自身の範囲にも含まれることを信じなさい。」

 

「あるいは、あなたを悩ませるものは、あなたの名声なのか?

しかし私たちが、どれだけ早くものを忘れるかをみよ。間断なき奈落が、記憶を全てのみこんでしまう。その間隙に拍手が送られる。」

 

ルキウス・アンナエウス・セネカ

「問題は、どれだけ長く生きるかではなく、どれだけ立派に生きるかである。」

 

「幸福が私たちにもたらさないものを、彼女が私たちから取り去ることはできない。」

 

「自然に、彼女が望むままに彼女自身の問題を取り扱わせてみよう。何があっても勇敢・快活でいよう。滅びゆくもののうち、何ものも私たち自身のものではないことをよく考えておこう。」

 

「徳とは、正しき理性に他ならない。」

出典 Wikipedia

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