2006/08/22

若き血潮の躍動(後編)

 そして決勝戦・・・日曜日だけに週に一度しか通えない、フィットネスに通う日だった。普段なら午後3時ごろに家を出るが、1-1のまま白熱の投手戦で延長に入るという、(『早実』贔屓の)ワタクシ的には期待以上の好勝負である。

延長となると、三連投の『早実』エースの疲労と『駒苫』の驚異的な粘り強さを考えるなら、正直なところ

(斎藤投手が、どこま持ち堪えられるか・・・)

という気がしていたが、蓋を開けてみれば斎藤投手の力投で白熱の投手戦となり、結局11回当辺りまで見たところでフィットネスクラブへと向かった。

フィットネスクラブに着いて、しばらく後にTVに目をやると 引き分け再試合の結果とスコアが画面に映し出され、ちょっとした人だかりが出来ていた。

この試合中を通して感じていた事だが、何が起ころうとも水のような冷静さを決して失わない、いかにも都会のお坊ちゃん然とした、あのおっとりとした顔からは想像もつかない『早実』エース・斎藤投手の肉体的、精神的な強靭さこそは真に驚くべきである。

三連投で延長15回、178球を投げ抜いた最後の球が147㌔なのだ。

(今度は、いくらなんでも捕まえられるだろう・・・)

と思われた四連投(6日間で5試合!)となった再試合、球数はこの数日で500球も超えると言う過酷な試練の中で、しかしながら9回になお144kmを記録したという。驚くのはスタミナばかりではなく、0-0で迎えた大詰めの8回に決定的とも思えるような一発を浴びてなお、あの水のような冷静さを決して失う事なく、何事もなかったかのようなポーカーフェイスだ。

悲壮感で観衆の涙を誘うような気負いとは無縁な、あの淡々として衒いなくマイペースの投球を続けられるマウンド捌きには、心底惚れ惚れとさせられた。

大会屈指の投手」とも言われていたが、それどころか「この数年の中でも、屈指の好投手」と称すべきほどの完成度の高い、素晴らしい安定感は『駒苫』という最強チームを前にしても、聊かも揺らぐ事はなかった。

総合力の傑出した駒苫に比べ、エースにかかるウェイトの重い早実だけに、あちこちで

「再試合はエース頼みの『早実』には、圧倒的に不利だろう」

などと書いて廻っていたワタクシだったが、嬉しくもエース斎藤投手の力はワタクシなんぞの無責任な素人予想よりは、遥かに上を行っていた。そしてその先には、あのどのチームもがどう逆立ちをしても勝てないほど強かった『駒苫』に、ついに黒星を付けるという歴史的快挙のドラマが待ち受けていたのである。

『駒苫』としては、この『早実』エース一人に敗れたといった感があったろう。 それにしても、あれだけの世の重圧を一身に集めた中で、最後の最後まで「三連覇の奇跡」の夢を実現しかけた『駒苫』は、やはり立派の一言に尽きる。

これまで読んでこられた人の中には、或いは誤解があるかもしれないが、ワタクシは決して『駒苫』が憎いわけでないのだ。それどころか改めて、その総合力の凄さは再評価されるべきであると思う。最後には斎藤投手に主役の座を譲ったとはいえ、あの個性的な集団なくしてあれだけの大会の盛り上がりは有り得なかった事を思えば、斎藤投手とともに特筆に価する立派な戦いぶりを存分に見せてくれた『駒苫』ナインに対しては、僭越ながら惜しみない賞賛の拍手を贈らせていただこう。

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