2019/05/05

ポセイドンの恋人(ギリシャ神話53)


 ゼウスの兄弟、ポセイドンとハデスは、それぞれ「海の王」「冥界の王」と「王号」を名乗る。従って由緒の正しさということでは第一ランクにあるのだが、ハデスは冥界の王であるため、その妻とするペルセポネ以外に地上での「恋物語」の主人公にはなれなかったようで、「妻以外の異性関係」はない。
 ポセイドンはゼウスに次いで異性関係が多いと言えるが、それは今指摘した「由緒の正しさ」に所以すると考えられる。しかし、その異性関係はゼウスに比べてひどく貧弱なのは否めない。その代表的なものを紹介する。

アムピトリテ
 彼女は海の妖精の一人であったが、ナクソス島で海の妖精たちが輪舞していたところを海の神であったポセイドンが来合わせ、輪舞の輪の中の一人であった彼女を見初めて、有無を言わさずかっさらって自分の妻にしてしまったという。そうした仕打ちに腹を立てたのか、彼女は逃げ出して海の果てまでいって「オケアノス」にかくまってもらったという。ポセイドンは血なまこになって探し回るが見つからないでいたところ、一匹のイルカがついに彼女の居場所を見つけて、やっとポセイドンは彼女を宥めて連れ帰った。こうして彼女は「海の女王」となった。ついでに功名をたてたイルカは、その姿が天に飾られ「イルカ座」になったという。

テュロ
 彼女は人間の娘であったが、この地方を流れるエニペウス川の好きな少女で日ごとに川辺に出かけていた。それをポセイドンが目にして恋し、そのエニペウス川の神に身を変えてテュロに近づき、渦巻く河口のところで彼女を抱いて交わったという。そのとき川は沸き立ち、波はそびえ立って二人の姿を隠した。こうしてテュロは子どもを産むが、自身は苦難の連続となり、やがて成人した子どもたちに救われていくという物語となる。この子どもたちというのは、一人はアルゴー船伝説の登場人物である「イオルコスの悪王ペリアス」であり、一人はペリアスに追われてピュロスに逃れてそこの王となり、トロイ戦争での老勇ネストルの父となる「ネレウス」であった。

イピメデイア
 あまり知られていない話だが、彼女はポセイドンに恋し、海辺で波を掬って胸に注ぎかけていたという。ポセイドンは、その彼女を抱いて二人の子供を得た。ポセイドンが珍しく相手から愛され、身を変じることなく堂々と交わることのできた例となる。ただし、生まれた子ども「オトスとエピアルテス」はすさまじい力を持ち、天上に攻め入ろうとしたためにゼウスによって永遠の地獄に落とされてしまった。

メラニッペ
 エウリピデスの失われた悲劇に『縛られたメラニッペ』および『哲学者メラニッペ』があるところから、古代では知られた神話であったらしい。ポセイドンと交わって「アイオロスたち兄弟」を生むが、怒った父によって子供は捨てられ、自身は盲目にされてしまう。苦難の後に成長した子供たちに救われ、ポセイドンはメラニッペの視力を回復してやる。

メドゥサ
 あのゴルゴン三姉妹のメドゥサである。ただし、ローマ時代のオウィディウスによると、メドゥサはもともと非常に美しい少女で、とりわけその髪の毛の美しさは群を抜いていた。そのため妻アムピトリテ、ないし女神アテネに憎まれて(どうしてアテネなのか、理由が分からない。あるいはアテネの神殿で、ポセイドンに犯されて神殿を汚したともされる)、醜い姿に身をかえられてしまったとされている。神話学的には、このメドゥサは先住民族の女神であったと考えられ、ギリシャ民族の到来と共に妖怪にされたと考えられる。そうだとしたら、身が変えられる前のメドゥサにポセイドンが恋しても不思議ではない。このメドゥサからは「天馬ペガソス」が生まれている。ポセイドンのシンボル動物は「馬」であり、彼自身しばしば馬の姿をとっているので、その子として「天馬」が生まれるのは理にかなっている。

 その他、ポセイドンは多くの女たちから子どもを産んでおり、その多くは「乱暴者」として知られる者たちとなる。たとえば『オデュッセイア』での一つ目の巨人「ポリュペモス」もポセイドンの子であり、母は「トオサ」となる。また巨大な山を積み上げて天上に攻め入ろうとした「オトスとエピアルテスの兄弟」もポセイドン、トロイ戦争での「巨漢キュクノス」、ヘラクレスと争う「アンタイオス」、戦争の神アレスの娘を犯そうとしてアレスに殺されたハリロティオス、テセウス伝説での悪漢たちなどたくさんいる。

 並はずれた力を持つものは英雄・悪漢いずれにしてもその力は「神に由来する」と説明したいからであろうが、ポセイドンは「地震と荒れ狂う海の神」であるから、凶暴な者たちがその父としてポセイドンにされたのであろう。同じ事情は「戦争と殺戮の神アレス」にもあり、アレスはたくさんの無頼漢の父となっている。


ハデスの恋人

ペルセポネ
 この物語も有名で、ペルセポネは穀物の女神デメテルの娘だったが、冥界の神であったハデスに恋されて、野にあって遊んでいたところを地中から地下界へとさらわれてしまう。いなくなった娘を尋ねて、世界中を放浪する母デメテルの物語が後に続くが、いろいろあってペルセポネは一年の三分の一を地下に、三分の二を地上にということで折り合いをつける。これは、ペルセポネが植物の種を表すものだからである。そして、結果的にペルセポネは「冥界の女王」とされていく。この話の意味は分かりやすく「穀物の再生」あるいは「種」の性格を語っているわけで、この再生の性格が「エレウシスの秘儀」として宗教化したのであった。

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