2019/05/20

アポロンの恋人(ギリシャ神話54)


アポロンは理想の男性像のように見えるのに、どういうわけか「女に振られる」物語が多い。ここに何があるのか、さまざまに裏見読みできる。

ダフネ
 彼女は「河の神」の娘であり山野の妖精であったが、アポロンに愛されて(ローマ時代の物語によると、アポロンが愛の神エロスをからかった報いでダフネに対する恋心を植え付けられた、となる)追われることになり、彼女は逃げ回るがついに河辺まで逃げてきたところで追いつかれ、そこで父たる河の神に願って我が身を「一本の樹」に変えてもらった、となる。その樹が「月桂樹」で、それ以来、この月桂樹はアポロンの聖樹とされて、アポロンの祭典での優勝者の頭を飾ることになったとなる。この話も近代の画家達のイメージを刺激したと見えて、たくさんの絵が描かれている。これはアポロンのシンボルにまつわる所以の話という性格を持っている。シンボルには当人の強い想いが込められている必要があり、そのために失恋という形にしたのだろうか。

コロニス
 彼女はアポロンに愛されていたのに、他の男に心を移したということでアポロンの怒りを買って殺されてしまう。しかし、孕まれていた子どもは救いだされて養育され、やがてその子は偉大な医者となり、死者をも生き返らすほどになってゼウスによって雷に打たれてしまうが、のち天に召されて「神」となっていった。そのこどもの名前こそ「医神アスクレピオス」で、彼はギリシャ中に神殿を持つ最大の神の一人となっていった。ここでもアポロンは「失恋」しているわけであるが、その理由は良く分からない。
 この「コロニスの不倫」を告げた「使い鳥であったカラス」は、それまでは真っ白だったのに「不愉快なニュース」をもたらしたということで、それ以降「真っ黒」にされてしまったという有名な逸話も付随している。この物語は、「疫病の神でもあるアポロン」が「医」の部分を子に託したとなるわけで、医神の性格をものがたっている。鴉が黒くなったというエピソードは付録の話ではあるが、一つの事象の所以話の典型となる。

カッサンドラ
 トロイの王女であり、アポロンの寵愛を受けて予言力を授けられたのにアポロンを受け入れず、そのためその予言は誰からも信じてもらえないという呪いを受けてしまう。そのためトロイの滅亡に関わっては、さまざまに予言をして逃れる道を助言したにもかかわらず誰も信じず、結局滅亡へと至ってしまう。その自分の死の運命についても予言できたのに、結局ミケーネの城で殺されていくのだった。ここでもまた、アポロンは失恋している。これはカッサンドラの悲劇を作るためのものなのだろうか。

マルペッサ
 アポロンが彼女を愛したが、同時にイダス(ポセイドンが人間の女から生ませた子で、人間の中で最強と謳われた男)が彼女を愛していて、二人は争いとなったが、神ゼウスの仲裁があって、結局マルペッサはイダスを選んだとなる。その理由は、イダスは人間だから自分と一緒に年をとっていくから自分を捨てることはないだろうが、アポロンは不老不死なので、老いた自分をいつまでも愛しているわけはないだろうから、というものであった。またまたアポロンは失恋してしまった。

キュレネ
 彼女は山野の妖精であったが、家畜を襲うライオンと素手で戦い、これを倒してしまうほどの剛の者であった。これを見た神アポロンは彼女に恋し、彼女をアフリカに運んで、そこで交わったとされる。その地が「キュレネ」と呼ばれるアフリカ地方のギリシャ都市の名前で、ここからは後にソクラテスの弟子アリスティボスが「キュレネ学派」を創設したことで思想史的に知られる。言うまでもなく、この話は都市キュレネの由来話しとなる。
 ここではアポロンは失恋していないが、しかしここは「レイプ」と言える。

ドリュオペ
 彼女が山の中で父の家畜の番をしていたが、山の妖精たちと仲良くなり一緒に遊んでいた時。それを見て、アポロンが彼女たちの中に亀の姿で近づく。彼女たちが、それをボールのようにして遊んでいたときに、ドリュオペの膝の上に乗った。その時、アポロンは本性を現して、蛇の姿となって彼女の膝を割って入り犯してしまったという。これは完全にレイプである。
 ただし、彼女にはまた「神ヘルメス」と交わって「牧神パン」の母となったという言い伝えもある。

クレウサ
 エウリピデスの悲劇で知られる女性。神アポロンに犯されて「イオン」を孕むことになり、それが発覚するのを恐れて子を捨てるが、神ヘルメスがその子をアポロンの聖地デルポイに運んで女祭司に育てさせ、長じて波乱の末に母と再会するという物語となる。神話でのイオンは「イオニア人の祖」ということになり、ギリシャ人(ヘレネス)の祖となるヘレンの子であるクストスと、クレウサの子ということになっている。エウリピデスは、それを「本当はアポロン」として物語を創作したと言える。従って、ここでレイプして子供を孕ませたとされたアポロンは、「濡れ衣だ」と言うかも知れない。

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