モーツァルトは30年の作曲生活のうち、楽譜が残っている曲が626曲ある(楽譜が見つからない分を加えると800~1000曲位作曲したといわれる)。その626曲分の楽譜は全部で2万3千枚もあり、1枚書くのにどんなに急いでも、慣れている者で2時間、きれいに書いたら4時間はかかるそうだ(1枚の大きさはB4程度)。
単純計算として、2万3千枚を書くのに1日8時間で4枚書いたとしても、約6000日、つまり約16~17年かかる。しかし多忙なモーツァルトは、楽譜書きに毎日8時間も費やせなかっただろうから、1枚を驚異的な速さで書いたと考えられる。また、楽譜に書くときは妻コンスタンツェに世間話をさせ、一緒に会話をしながら書いていたといい、そのスピードはまるで速記のようだったらしい。
さらに、楽譜には訂正の後が殆どないものばかりで、熟考、推敲して曲を作ったタイプではない。ベートーヴェンは正反対で、彼の楽譜は訂正だらけで血のにじむような戦いの後、という楽譜が多いという。モーツァルトにとって楽譜を書くことは、小説家が原稿に文章を書くのと同じような感覚だったのかもしれません。作曲家がピアノを使わずに頭の中でメロディ等を組み合わせることは、それほど不思議なことではないそうですが、楽譜に書くときに会話しながら書くということは、とても信じられませんが事実のようです。
モーツァルトの作品は、後年のベートーヴェンなどと比べ「深みに欠ける」と言われることがよくあるが、そもそも時代背景が違うのだから比較するのがおかしい。後年のラフマニノフやチャイコフスキーらに代表される作品は、なんらかのテーマを掲げて創作に取り組み、じっくり熟成させた「芸術作品」である。
これに対しモーツァルトのピアノ協奏曲は、前にも触れた通りその日の夜の予約演奏会に間に合わせるため、当日昼間に書き散らかした「商品」に過ぎない。それでもこれだけの完成度があって、他の後年の「芸術作品」とともに堂々、世紀を跨いで聴き継がれているのは、寧ろ驚異と言うしかない。
0 件のコメント:
コメントを投稿