2019/06/28

闇の神々2(ギリシャ神話58)



眠りのヒュプノスと夢のオネイロス
 この「眠りヒュプノス」は、ホメロスの『イリアス』の中で面白い一場面を作っているので知られているが、それはトロイ戦争でギリシャ方に味方している女神ヘラが、とりあえずトロイ方を優位にさせているゼウスを騙して愛のベッドに誘って眠らせてしまい、その間にギリシャ方を優位にさせてしまう場面で、ヘラはゼウスを寝入らせるために眠りの神に手助けを頼むのであった。

しかし、かつて似たようなことでゼウスを眠らせ、そのおかげでこっぴどい目にあった経験から、それを断ってくるヒュプノスに対して、ヘラは「優美の女神カリス」の一人を妻にしてあげるからといってついに協力させてしまう場面となる。人のいい眠りの神だが、実際ヘシオドスでも、この眠りの神は大地と海原を穏やかに行き来し人間どもに優しい、と歌われている。確かに眠りは疲れを取り、苦労を一時でも忘れさせてくれる。この神が人間的姿で描かれる時は、眠たそうな眼差しをして、額のところに翼を持ち眠りのシンボルであるケシの実か眠りの角を手にしている。

 その兄弟が「夢のオネイロス」で、彼は「夢の館」にいるのだが、その館には門が二つあり、一つの門は象牙の門でそこから出てくる夢は偽りを語り、一方角の門から出た夢は真実を語るとされる。つまり夢というのは、ギリシャに限らず夢占いとして人々に馴染みで、日本でも正夢といった言い方があるのと同じである。

争いの女神エリス
 この女神も、夜ニュクスの子どもとなる。この女神については、トロイ戦争伝説の発端となる「三美神の争い」の種を蒔いた女神として知られている。すなわち、女神テティスと人間の英雄ペレウスの結婚式ということで、すべての神々も招待されて出席していたのだが、彼女だけは招待されていなかった。

「争いの女神」だから当然ではあるが、しかしそれでおとなしくしているわけもないのが争いの争いたるゆえんで、彼女はその結婚式に黄金のリンゴを投げ入れ、それには「最も美しい女神へ」と書かれていたというわけである。

これは女性の間で争いを生むには、絶対的な言葉であった。しかも、神々には謙譲の美徳などというものは全く存在しないから、当然「」を自分のものとしている女神たちが名乗りをあげる。それが成熟した家庭婦人の持つ円熟の美を管轄する主神ゼウスの妻ヘラと、若い女性の知性的な美を持つとイメージされる女神アテネと、セクシャルな女性の美の女神アフロディテであった。そして争いになったところで、その審判としてトロイの王子パリスが選ばれ、このパリスはアフロディテが約束した「絶世の美女」という賄賂につられてアフロディテを選んでしまい、そのためギリシャのスパルタの王妃であったヘレネを籠絡してしまったところからトロイ戦争になってしまったわけである。

こうしてエリスは三女神の間の争いだけではなく、ギリシャとトロイの間での争いを生み出したわけで、争いの女神はここまでの強い力を持っているのであった。

迷妄・破滅の女神アテ
 この女神もしばしば登場してくる女神であるが、ホメロスの『イリアス』でも総大将アガメムノンがアキレウスに対して理不尽な言動を働いたところからアキレウスを怒らせてしまう。おかでアキレウスが戦陣から引いてしまったおかげであわや敗北という瀬戸際まで追い込まれてしまった事態があった。

その事態に対して、アガメムノンは「女神アテの仕業だ」と弁解している場面などがでてくる。要するに「とんでもない考え違い、自分勝手な主張、迷妄」とそこから引き起こされてくる致命的な過ち、そしてそれに基づく破滅を象徴している女神と言える。

ギリシャでは通常の常識的レベルを超えた様々の事柄は、わけがわからない故に神々の仕業としたわけで、こうした迷妄・錯誤もそうしたものとされていたわけである。日本での「魔が差した」に近い感覚があるのかもしれないが、それよりもっと強い。

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