2019/06/09

女神を魅了した男たち(ギリシャ神話56)

出典http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html

 他方、女神たちにも美しく、あるいは逞しい男たちとの恋物語りがある。その幾つかを紹介しておく。ただし、12神に含まれるヘスティア、アテネ、アルテミスは「処女神」なので恋物語はない。ヘラはゼウスの妻となっていて、それ以外にはない。デメテルは襲われるだけで、自分が恋した形跡はない。結局あるのは「美の女神アフロディテ」だけとなる。12神以外の主要女神には「曙の女神エオス」と「月の女神セレネ」とに興味深い恋物語がある。

アフロディテの恋人たち
アンキセス
 美の女神アフロディテは、その職分に人間たちを恋へと導く働きがあるが、自分自身も多感な女であった。その多感な女の恋の相手として有名なのが、トロイの英雄アイネイアスの父となる「アンキセスとアフロディテの恋物語」となる。

これはすでにヘシオドスに歌われ、そこでは「イダの高峯(トロイ地方の山)にあって、英雄アンキセスと甘い情愛の契り」をして英雄アイネイアスを生んだ、と語られている。後代のホメロス風賛歌では、これがロマンティックに脚色されて、アフロディテは人間の乙女の姿となって、山小屋に一人いたアンキセスを訪れ、神ヘルメスが自分をここに連れてきてアンキセスの子を産めと言い置いて去っていったと、その恋を切々と訴えている姿がある。

もちろんアンキセスは、否応も無く大喜びで女神を抱いている。こうして女神アフロディテは、英雄アイネイアスを産むことになったのであった。

アドニス
 アフロディテの恋物語としては、少年アドニスの物語も有名である。アドニスは中東地方の主神とされ、神話学的にアジアとのつながり(アジアの農耕神との関係)を背景に持つとされるのだが、それは別の問題として、アドニスは「父と娘との近親相姦(娘の方が父を愛して、悟られないように密かに偽って父に抱かれるようにし向けてしまう)」で生まれた子供であった。

アフロディテは、その子を箱に収めて冥界の女王となっていたペルセポネにその養育を託する。たぶん成長して美少年になっていたのであろう、ペルセポネはアドニスをアフロディテに返さなかった。そこで二人の女神の争いとなり、結局ゼウスの計らいで、アドニスは三分の一づつ「アフロディテ、ペルセポネ、自分の好きなところ」とを棲み分けることになったという。

ここまでは良かったのだが、その後アドニスは猪に襲われて死んでしまうことになり、その血からアネモネの花が、嘆くアフロディテの涙からバラが生じたという。

パエトン
 パエトンという名前は「太陽神の子のパエトン」が知られるが、このパエトンは別人。あまり知られていないがヘシオドスにあり、そこでは曙の女神エオスの息子とされ、まだ少年の時にアフロディテに愛されて連れ去られ、そこで精霊に身を変えられてアフロディテの社の「奥殿(要するに、夜の部屋)」の守りとされた、とある。

アレス
 このアレスとは戦争・殺戮の神アレスであるが、アフロディテの不倫物語として有名となっている。つまり、ホメロスの『オデュセイア』での描きだが、アフロディテは夫としてヘパイストスを持っていたが、アレスと不義密通の関係となり、ヘパイストスが仕事に出かけるとアレスを引き込んでよろしくやっていたという。それに気づいたヘパイストスは目に見えない網を作り出し、それをベッドに細工して二人がそこに入ると、その網が二人を捕らえるようにして出かけていったという。

そして途中で戻ってきたところ、果たせるかな妻のアフロディテとアレスとがあられもない姿で、ベッドにあって藻掻いているところを発見したという。ヘパイストスは大声で神々を呼び出してそれを見せつけ、男神たちは「自分もアレスの身になってみたいものだ」などと冗談をとばしながら大笑いし、女神たちは顔を真っ赤にして逃げ出したという。

曙の女神エオスの恋人たち
 あまり有名ではないが、曙の女神エオスにも多くの恋物語がある。その理由として、エオスはアレスと不倫関係になったためにアフロディテに憎まれて、そのためエオスは幾多の恋に身を焦がさなければならないことになった、という伝承が作られたほどである。

アストライオス
 エオスの正規の夫となる。彼からは風神たち、つまり北風ボレアス、春を呼ぶ西風ゼプュロスたちが生まれている。

ティトノス
 エオスの恋物語としては、この話が一番有名である。つまりトロイのプリアモスの兄弟であった彼は、エオスに愛されて愛人となったが(ちなみにトロイの王家の家系は美男子を生み出していることで有名で、ゼウスの目にとまって天上に浚われた美少年ガニュメデスや、トロイ戦争を引き起こしたパリスなどがいる)、エオスは彼を不死にしたが不老にすることを忘れてしまったために、彼は年をとっても死ぬことができず、その身は老いぼれてひからび、ついにはセミになってしまったという。

ケパロス
 アッティカのトリコス地方のケパリダイ族の祖とされる。伝承によれば、彼はエオスに愛されて、中東のシリア地方で子を産んだというが、その後女神と別れてアッティカに帰り、アテナイ王エレクテウスの娘と結婚したとされる。

クレイトス
 あまり有名ではないが、クレイトスもエオスに愛されて、浚われて彼女のもとで不死の身となったという。

オリオン
 オリオン座の主となるオリオンは複雑な物語を持つが、その一つにエオスに愛されてデロス島に連れてこられた、というものがある。

月の女神セレネの恋
エンデュミオン
 セレネの恋物語としてはエンデュミオンが有名で、彼女は牛飼いとして野にあったエンデュミオンを見いだして愛し、彼に永遠の若さと不死を与えて眠らせ、夜な夜な眠れる彼のもとを訪れて夜を共にしているという。

 セレネについては、他にゼウスと交わってパンディアをもうけたという話や、牧神パンに恋いされて、白牛の一群をプレゼントされて彼と交わった、あるいは見事な羊毛を見せられて近づいたところを襲われて犯された、という話などがある。

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