2006/05/21

終結(二度目の技術審査part7)

 「やり直しと言っても、もう時間がない」

 「時間がないからって、こんないい加減な審査結果を受け入れるのは本末転倒や」

 普段とは打って変わり、なぜか頑固に原則論に固執するR氏は、土日に出てきてでもやり直しをすべし、とでもいうような勢いだ。

 「ほな、にゃべさんは、こんなええ加減な結果を受け入れるの?」

 「やり直すかどうかは、ともかくとして・・・ともかく、相手に真意を聞いてみないと・・・」

 大して期待もせずに電話をして、疑問に思っている部分を確認すると、やはり思った通り相手のS氏は

 「それは記載ミスでした・・・結果はどっちも「○」です」

 などと、苦し紛れの弁解に終始していた。

 「本当に「○」なんですね?
 これは正式に役所に提出する書類なので、間違いとか勘違いがあってはならないですが、その認識は大丈夫ですね?
 後になって『間違いでした』というのは、大問題になりかねませんが・・・」

 「はぁ・・・確かに「○」でした」

 「確認はしたんでしょうか?」

 「しました・・・」

 「その確認は、両方ともSさんがされた・・・と?」

 「ひとつは私ではありませんが、担当者が間違いなく確認したと言っておりました。もうひとつは、私自身で間違いなく結果を確認しています」

 ここまで言われたら、嘘だと決め付けることもできない。

 「では、結果報告書を修正して再度、送っていただけますか?」

 「わかりました・・・」

 いかにも歯切れが悪く、胡散臭さがプンプンと匂った

 「という事で、相手はあくまで記載ミスであり、間違いなく確認したと言ってる・・・」

 と、R氏に伝えると

 「そりゃ今更、確認してませんでしたの嘘でしたのと、言うわけないがな。
 まあオレはやり直した方が無難やと思うが、この審査のリーダーはにゃべさんだから、にゃべさんの思うようにやったら、えーのんとちゃうの?」

 と持ち前の無責任ぶりを発揮して、暗に

 「後で問題になっても、オレは知らん」

 とでも言いたげに、傍観者の立場を決め込まんとしていた  (--)y-゜゜゜

 責任者のK氏に状況を伝えると

 「私にはどうすればいいのかの判断がつかないので、Nさんに相談して方針を決めてください」

 と言われた。

 この日は、打ち合わせで某省に行っていた、リーダーのN氏に電話をする。

 「技術審査の件ですが・・・」

 「うん」

 「NTT某から送られてきた結果報告書を確認したところ、明らかに嘘と思われる記載が、少なくとも二箇所ありましたよ・・・」

 「・・・」

 「この前の電話でやり取りした時と逆の判定になっているものやとか「×」でないとおかしいところが「○」になっていたり・・・「△」と記載されているものもあったりで、電話で確認すると『記載ミスでした』と言ってはいますが、いかにもしどろもどろな具合で・・・」

 「なるほど・・・大体の状況はわかった」

 「それでKさんに伝えたところ、Nさんと相談して方針を決めろと言われました」

 「なるほどね・・・ただ私は今日は打ち合わせで、終日こっちにいるからな。
 にゃべさんとしては、どうしたいの?」

 「私としては、正直かなり胡散臭いとは思っていますが、結局この審査は相手の言うことを信用するしかないものと思っています。
 実際に相手の作業を見ることもできないし、ログだって捏造しようと思えばある程度はできてしまう・・・捏造したかどうかだって、正直なところ事実はわかりません」

 「うむ・・・」

 「あくまで相手が『間違いない』と言うならあれば敢えて疑う根拠もないし、ある意味この審査は相互の信用の上で成り立っているのです。
 もし後日に嘘が判明したとしても、こちらとして責任の取りようはないし、その義務も負ってはいないと考えます」

 「そうだな・・・」

 「というわけで、この審査はこれで終了としたいと考えていますが、Nさんの見解はいかがでしょう?」

 N氏の頑固な性格からして、恐らく

 「土日に出てきてでも、やり直さなければダメだ!」

 というだろうと思っていたが、こちらとしてはその気がないから予防線を張っておくことにした。

 「仮にやり直しをするとしたら、土日に出てきてやってもいいですがね・・・問題は、やり直したところで本当に真っ当な対応をするのか、という保証がどこにもないことです。

 今までの経緯を考えると、我々の見ている目の前でやるくらいでなければ信用できないし、結局のところ今のやり方では何度繰り返しても、同じような結果にしかならないと思ってます。

 ただ、誤魔化しが上手くなるだけかと・・・それにやるのであれば、当然レビュアーにも何人か出勤してもらわないとですね」

 「わかった。先にも言ったように、私は今日はそっちへ行けないから、この件はにゃべさんの判断に任せたよ。にゃべさんの思うようにやってくれ」

 意外な答えだった。

 やり直しを命じるはずのN氏が、これだけあっさりと納得するというのは実に意外だったので、思わず聞き返した。

 「では、これで審査を終了しようと思います。が、Nさんとしては、本当はやり直しをした方がいいと、思ってるんじゃないですか?」

 「いや・・・私も、にゃべさんの言う通りだと思うよ。やり直しをしても、結局は同じことの繰り返しになるのだろうし、確かに無駄な工数を取られるだけに終わる気がする。
 結果については信用するしかないから、向こうが絶対にそうだと言い切っているのなら、違っていた場合はにゃべさんの言うように、自己責任で担保してもらうしかないよな」

 「ではこの審査は、これにて終了します」

 「もう一度確認するが、結果については先方に確認して「間違いない」と言ってるんだよね?」

 「そう言っています。なのでこちらとしては、これ以上は追求のしようがない」

 「じゃあ、いいんじゃないの・・・終わりで」

 この結果をK氏に伝えると

 「Nさんがそう言ったんなら、それで結構です」

 と了承をもらい、この短くも長かった呪われた技術審査は、ようやく終幕となった。

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