2006/07/23

シューベルト 弦楽四重奏曲第14番『死と乙女』(第1楽章)


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オープニングからドラマティックな音に惹き込まれます。

 

この作品には『死と乙女』という標題がつけられているが、それは彼のリート作品『死と乙女』が引用されていることに由来する。歌曲『死と乙女』は、よく知られているように死へと誘う悪魔の囁きと、それに抗する乙女の言葉から成り立っている。そのため、この作品をシューベルト自身の死生観が表明されたものだという見方がある。もちろん、そう言う面は否定できないものの、それだけでこの作品を見ては見誤ることになる。

 

この作品が、他の四重奏曲と比べて異質の存在であることは、前作である第13番『ロザムンデ』と比べれば明らかだ。我々が思い浮かべるシューベルトの姿に最も相応しいのは『ロザムンデ』の方で、この上もなくメランコリックな叙情性に溢れ、歌そのものが作品を支配している。対照的に『死と乙女』の方は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を思わせるような、緊密で劇的な構成が特徴と言える。それはシューベルトが述べた「交響曲への道」を目指す過程のものであった。

 

2楽章の、あまりにも美しいメロディに幻惑されてはいけない。第1楽章で主題動機が徹底的に展開される様子は、まったくもってベートーヴェン的であり、さらに第3楽章の荒々しいスケルツォも同様である。数多くの弦楽四重奏曲を残したシューベルトといえ、歌心にあふれたシューベルト的な美質とベートーベン的な構築美が、これほどまでに見事に結合した作品は他にはない。

 

1楽章

冒頭の「運命」のリズムからして、ベートーヴェン的な要素が窺えるが、それのみならずベートーヴェンの後期作品に似たモティーフが、たびたび耳に響く。苦悩に苛まれるシューベルトは、泥沼から這い出す道をベートーヴェンに求めたのかもしれない。展開部もベートーヴェン的な展開を見せ、緊張感は益々高まっていく。再現部では、第2主題が長調で現れる。

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