2006/07/15

悪意(愛車の受難part3)

 そうして、しばらくは自転車を売ったK君にも教えてやった、あの秘密の「駐輪場」に置く日が続いた。

誰も住んでいなさそうな、幽霊棟の隅っこに停めていたワタクシと違い、若いだけに大胆なK君は歩く労を惜しんだか、一つ手前のまだ住人がいる棟に停めてある自転車に紛らわせて置いていたため、数度に渡って主婦から睨まれていたらしい。

たまたま朝、顔を合わせたときなど

「そんなところに停めてると、オバサンから文句を言われるぞー」

と注意を喚起すると、長身で女好きのするイケメンのK君は当初

「今朝は、主婦二人に挨拶しましたよ・・・」

などと自信ありげに構えていたが、そのうち

「今日は、主婦に睨まれた・・・ウゼー」

と嘆きながら、ワタクシの隣に停めに来たりしていた。

そうこうしているうちに、どうやらその社宅の住人が順次どこかへ転居して行っているらしい事がわかり、どの棟も住人が疎らになっていったのに伴って、我々もより手前の棟に移動して行ったのである。

住人の姿を見かける事がめっきりなくなったのに反して、今度は向かい側にあるパン工場から人相の悪い変なオヤジが毎朝、散歩のようにこの幽霊社宅のグルリをウロウロと徘徊している姿を見かけるようになった。

「向かいのパン工場のヘンなジジイが、ウロウロしてるの知ってますか?」

「ああ、なんかよく居るねー」

「今朝、あのジジイがジーっと見てたんですよ・・・それで速攻、逃げてきましたよ・・・」

「うぜージジーだ・・・」

とその時は大して気にも留めてなかったが、それから何度かK君から

「今日もこっち見てたし・・・あのクソジジィ、ほんとウゼーな・・・」

と訊いていた。

もし、何らかクレームをつけてきたら

(アンタはこの空き地に、なんの関係があるんだい?)

とか適当に誤魔化すつもりだったが、何度か遠くから見られてはいたものの睨まれるとこまではなかったので、さして気にも留めていなかった。

そうして、数日が経過した時の事だ。いつものように勤務を終え「駐輪場」まで行くと、愛車が横倒しに倒れ掛かっているではないか。完全には倒れきってはいず、不自然に斜めにひん曲がったスタンドで、どうにか倒れるのをまぬかれていたが、スタンドは最早使い物にならないくらいまで変形していた (/||| ̄▽)/ゲッ!!!

 結局、ひん曲がったスタンドでは立てかけられなくなったので、仕方なくスタンドを交換して2625円という思わぬ出費となった。確かにその日の日中は、台風並みの強風が吹いていただけに

「風で倒れたんじゃないですか?」

とK君は言っていたが、風であのような不自然な倒れ方をするはずはなく、あのひん曲がったスタンドを見た時から、何者かの悪意の力が人為的に加えられたのは明らかと見て取っていた。

金が惜しい気持ちも勿論あるが、それ以上に傷ついた愛車が忍びない。

(とはいえこんなところに停めているのだから、あまり大きな口は訊けんが・・・)

と再び最も奥の棟に、しばらく停める日が続いた。

数日後・・・いつものように社宅の敷地に入ろうとすると、ヘルメットを被った何人かの人夫の姿が目に入った。この数日前から、何かの工事が始まる合図のように車両の通行が禁止されており、ヘルメット姿の人夫の姿を時折見かける事があったが、この時は一段と人数が多かった。そして見覚えの小さな折り畳みチャリに乗ったK君が、向こうから戻って来たのだ。

「もう、ここはダメらしいですよ・・・今、停めようと思ったら、工事のオッサンから

『この建物、取り壊すからねー。ここに置いておくと、ボコボコにされちゃうよー』

と言われましたよ・・・」

という思わぬ展開に。

その日は時間がなかったため、暫定的に近くのコンビにの前に停めておいたものの、これからは本格的に安全な駐輪場所を探さなくてはならない。近くに団地やアパート、マンションが沢山あり、物件の駐輪場にこっそりと紛れ込ませておこうかとも考えたが、住人の目が光っていたりしてさすがに憚られた。コンビ二の前にしても一日二日ならともかく、毎日半日も同じ自転車が停まっていてはあのガラス張りの店内から丸見えだから、直ぐに目を付けられてしまうに違いない。

それに屋根もないから、天気の悪い日に雨ざらしにしておくのも愛車に不憫である事を思えば、やはり屋根のある場所を確保したいところだ。

 どこにでも置けそうな自転車だが、いざとなると案外に置き場に困るものだ。少しの間なら、コンビ二やそこいらの空き地にでも置いておけるが、朝から夜まで日中の間の10時間前後も置くとなると、やはり人目に付くところにあまり大っぴらに置いておくわけにもいかなかった。

そうはいうものの、適当な置き場所がない事もあって、或る日はコンビ二の前に、そして翌日は団地脇の空きスペースに、といった苦心の日々が続いた。

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