その後、駅近くにあるスーパーで8000円くらいのママチャリを買い、自転車で通勤する事にした。当然の如くに「前任者から引き継いだ」その社宅の階段脇が、指定の駐輪場所となっていた。
その年の忘年会の余興でくじ引きがあり、虎ノ門パストラルの宴会場に集まった100人以上の中から、見事一等を引き当て、折りたたみ自転車をゲットした。
年が明けて折り畳み自転車が送られて来たが、ママチャリがあるので二台も要らないし、あっても良いが置き場所がない。マンションの駐輪場には空きがあったが、ここは1ヶ月の契約料が500円で自動的に2年契約となるため、最初に1万2000円を払う必要があるのだ。月々500円ならどうという事はないが、あまり使わない二台目の自転車のために1万2000円を払うというのはやはり抵抗があり、誰かに売る事に決めた。
職場で何人かに当たったが、誰も要らないという。そこで白羽の矢を当てたのが、24歳と最年少のK君だ。職場に最も近い徒歩10分程度のところに住んでいるK君は、毎日歩いて通っていたのは近いためもあるが
「あんまり近過ぎて、会社からバス代が出ないんですよ・・・雨の日とかダリーよ・・・」
と愚痴をこぼしていたから、格好のターゲットだ。
「この前の忘年会で当たった、折り畳み自転車だけど売ろうか?」
「幾らですか? 5000円なら買いますけど・・・」
「5000円? アホ抜かせ・・・1万円だ」
「そんな高いんなら、要りません・・・」
と喫煙所で顔を合わせる度に、やり合っていた。
「じゃあ、8000円にまけとくわ」
「高いなー。どうせ元はタダのヤツでしょ」
若いが、高校卒業と同時に実家の九州を飛び出して来たすれっからしのKは、どこまでもしっかりしていた。
「元はタダといっても、フツーに買えば8000円はするぞ」
「8000円も出すなら買わないですよ・・・給料安いし、金もないし」
「8000円だ!」
「5000円で手を打ちましょうよ・・・5000円以上出す気はないですよ。にゃべさんは、どーせ僕の倍以上の給料取ってんだから、安くしといてよ」
「8000円ならお値打ちだろー・・・これ以上は、まける気はない」
「じゃあ、6000円出しましょう」
(やはりヤツも、通勤の足に欲しいはずなのだ)
という読みが当たり、予定通りの7000円に持っていく事が出来た。
「じゃあ、真ん中を取って7000円にしとこうじゃないか・・・その代わりここまでまけたのだから、帰りに家まで取りに来なさい」
当時、住居から現場までは、自転車で約20分だった。現場が鉄道のラインから大きく外れているので、最寄駅からバスに乗らなければならない。で、バスに乗っても10分以上はかかるから、所要時間も自転車と大した変りはなく、また通勤ラッシュのバス停の行列に並んだり、満員のバスで押し合いへし合いして通勤する面倒を考えれば、渋滞のない自転車の方が遥かに楽であった。
そのようなこともあり、引継ぎ時に例の嫌味なM氏から
「交通費請求の書類を提出するように」
と言われた時も
「自転車通勤で交通機関は使わないので、請求の必要はない」
と伝えたが
「この現場のルールだから、実際に使う使わんは関係ない!
最寄駅から内幸町までの交通費申請を出さないとダメなんだ!」
と強く言われた。
「なんで、内幸町?」
「国家機関の本部は内幸町にあって、我々は本部から出向している建前になっているからな・・・」
という、わけのわからない説明だった。
元々、このM氏は「変態」だったから、これは聞き流してM氏は退プロとなったことで、このわけのわからない話は終わりと思っていた。すると今度は元請のN社の営業が、同じことを言って来た。
今度の相手はM氏のような変態とは違い、れっきとした大手N社の営業部長だから大真面目な人物だったが、やはりM氏が言っていた通り
「最寄駅から内幸町までで請求してください」
というのである。
仕方なく調べてみると、JRと地下鉄で月額約1万3000円とあったから、これをただでもらうのはやはり気が引けた。バス嫌いなだけに、一年通して雨の日はおろか台風の時も自転車で通い続けたくらいで、実際にバスを使うことは殆どない。もとより、利用もしない交通費などもらうつもりはないから
「今も説明したように、自分は交通費というのは一銭もかからないので、請求は必要ない」
が、そこはユーザーがお役所(厳密には国家機関)相手だけに、相手も引き下がらない。
「この際、使う使わないは別として、支払われるのは悪いことではないでしょう?」
「給料として、その分が上乗せされるというのならまだしも、使いもしない交通費を請求するのは、まるで詐欺のような話かと・・・」
とやり取りがあったが、最後は
「ともかく書類がそろわないのは困るので、請求を出してください!」
と、拝み倒さんばかりの勢いなのである。
かくして、まったく使いもしない毎月1万3000円もの交通費が給料に上乗せされたばかりか、交通費は半年分まとめての支給となっていたため、半年ごとに約8万もの大金が振り込まれるという思いもよらぬことになった ( -ω-)y─┛~~~~
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