2015/12/30

女ストーカー(小説ストーカーpart3)



●忍の場合
 ああ、ラッキーボーイったら、一体どんな仕事してんのかしら?
 
 気になって、しゃーないわ・・・
 
こっちは、しがないアパレルショップの店員だから、店が閉まったら真っ直ぐ駅に向かうわけ。
 
 だから毎日同じ電車に乗って、同じような顔ぶれのオッサンやオバサンに囲まれてたんだよね。
 
 そんな平々凡々な日常に、まさかこの私が痴漢に遭おうとは!
 
 忘れもしない、あの満員電車のドサクサに紛れて、後ろから私のお尻を撫でてきた、あの汚らわしい手の悪夢よ!
 
 まるで「タコのように」にゅーッと伸びてきたあの手の、薄気味悪い感触。
 
 アタマ来てキン蹴りしてやろうと思ったけど、あの満員の中で足を動かす自由なんてありゃせんわ。
 
 やっとの思いで首を捻じ曲げて後ろを見たけど、どれが犯人だかわかりゃしなかった。
 
 周りにいるオッサンどもは、どいつもこいつもスケベエそうで怪しかったけど、まさか無辜の民を痴漢扱いにも出来んしねー。
 
 残念ながら顔は見えんかったけど、あのにゅーッと伸びてきた筋くれだったタコの吸盤のような薄気味の悪い手の感触からして、きっと赤ら顔の 酔っ払いか「タコオヤジ」に違いないわ!
 
 まあ、そんな不愉快なことがあったから、次の日からは車両を代えてみることにしたわけよ。
 
 でも、そのお蔭でというか「ラッキーボーイ」に遭えたんだから怪我の功名って言うのかしら、あの痴漢の「タコオヤジ?」には感謝すべきなのかなー?
 
 そうそう・・・それで、あのラッキーボーイったら、毎日同じ時間の電車に乗ってくれないから、困っちゃうのよ。
 
 まあ幸いにして、私が乗る時間のが一番早いみたいで、それより遅くはなっても早くなることはないみたいだからいいようなものの、こっちの身にもなって欲しいわね。
 
 急行1本(30分)ならまだいいけど、2本以上も遅れたりするんだから、困っちゃうじゃん。
 
 この間なんか、2本目にも載ってないから
 
 (絶対に、次のには乗ってくるハズよ!)
 
 と思って、一旦駅構内のドトールに入って待ったくらいよ。
 
 精々、あれくらいまでが限度かな。
 
 お蔭で帰りが1時間半も遅れて、母から
 
 「今日は、デートでもしてきたの?」
 
 なんて嫌味を言われたけど、でも「」の後ろに乗れたから、母の嫌味も気にならなかったわ。
 
 彼、どんな仕事してるんかな・・・?
 
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●タコ坊の場合
 そのうちに、不思議なことに気付いた。
 
 オレと同じように、これまでは毎日判で捺したように同じ時間の電車に乗っていた彼女が、ある時からおかしな行動を取り始めたのだ。
 
 彼女の「おかしな行動」とは「電車が来ても乗らん」ことであった。
 
 1本やり過ごすくらいであれば、なにかの気まぐれや思うところがあって、乗るのをパスすることもあるだろうが、ホームの先頭に立っていながら次の電車にすら乗らんこともあった。
 
 ということは、勿論オレの方も一緒に乗らんかったんだが、ホームに入って来た電車に大勢で一斉に乗る場合はまだしも、彼女とオレの2人だけが「来た電車に乗らん」というのは、非常に目立つのではないか?
 
 彼女の思わぬ行動に、こっちは気が気ではなく、とにかく彼女や周囲の人々の目に付かんよう、気を付けるのに骨が折れたぜ。
 
 こんな風にして、来た電車をわざと回避するという彼女の「不可解な行動」に振り回されたオレも、ようやく乗った電車内を足早に移動し、例のオトコの後ろに背後霊のように殊勝に収まった「彼女」を見て、遂に彼女の目的を知ることが出来た・・・いや、残念にも知らされるハメになろうとは! (`Д´)y-~~ちっ

2015/12/26

トライアングル(小説ストーカーpart2)

●タコ坊の場合
 どうやら彼女の様子から察するに、あれは単なる偶然や日課ではなく、本人の「明確な意思の元に、例の男にくっついている」のは明らかなようだった。
 
 となると、憎らしいのは、あの男だ。
 
 チクショウ、あの「ラッキー野郎」め。
 
 本来なら、あんな憎いやつは「痴漢ヤロー」とでも命名したいところだった。

が、よくよく目を凝らすと、憎たらしいことに確かにそう呼ぶには勿体無いようなオトコマエではないか!
 
年の頃は、20代前半から半ばに差し掛かろうというところか。
 
いわゆるジャニ系というような爽やかタイプではなく、もっと知的で底が知れないような、一種独特の雰囲気を備えていた。
 
どこかインテリっぽく、それでいて少し崩れたところのあるような、表現しがたい個性的なタイプだ。
 
うむ・・・あれでは、若い女が注目するのも無理はない。
 
正直言って、オレにだって、気にならない存在といえば嘘になるくらいだ・・・なんせ、オレにはホxっ気が・・・いや、何でもない。
 
なにか、アイツの傍にいると得をするような・・・そう、まさに「ラッキーボーイ」という呼称こそ、ヤツにはぴったりではないか!
 
これが「そこいら辺に転がっているようなオッサン」であったなら、単にお目当ての彼女の「障害物」としか認識しなかったろうが、いつしかあの彼女とともに「ラッキーボーイ」が気になる存在になっているではないか!
  
くそっ!
 やっぱり、オレの「病気」は、まだ治ってなかったのか・・・

●忍の場合
 「一目ぼれ」って、こういうことだったのね・・・
 
 あんなもの、所詮ドラマやマンガだけの架空の世界の話・・・所詮、現実のオトコなんて飢えたオオカミか野良犬のようなのばかりだと思ってたのに、あんな「いいオトコ」がいるなんて・・・
 
 そんなに目の覚めるような美男子というわけではないけど、ちょっと何を考えてるかわからないような、あの独特の雰囲気がいいわ・・・ああ、ひと目見た時 から、もうメロメロよ・・・と言っても、とても真正面なんて立てない・・・だって、目が合っちゃったら困っちゃうじゃん。
 
 変に警戒して、逃げられてもマズイし・・・そう、私は彼の背中に寄り添っているだけで幸せよ・・・なんか、ご利益がありそうで・・・この私のつまらない灰色の人生の中で、初めて「生きる希望」を与えてくれた彼・・・まさに、私にとっての「ラッキーボーイ」だわ・・・

●ラッキーボーイの場合
 そのうちに、不思議なことに気付いた。
 
 というのは先に書いたように、毎日の日課のようなもので帰りの電車の時間が大体同じになっていたのだが、それでも日によっては時間がずれることもある。
 
 そんな際は、いつも見かける何人かの顔ぶれが、あまり馴染みのない顔ぶれに変わっているのは当然だ。
 
 ところが不思議なことに、そんな風に時間がずれた時でもあの例の「タコ坊」だけが、いつに変わらぬあの不景気顔で載っているのである。
 
 そのことに気付いた当初は
 
 「ああ、タコ坊も残業か何かで遅くなったのかな・・・」
 
 と、大して気にも留めていなかったのだが・・・
 
 実際、いつもより1本、2本(急行の感覚は30分おきだった)遅れた場合でも、見慣れた顔が一人や二人は居ることは珍しくなかったのである。
 
 ところが「タコ坊」に限っては、何本ずれても毎度毎度あの疲れたような不景気顔を見せているから、次第に薄気味悪くなってこようというもの
 
 こうして
 
 (なんでアイツは、いつも同じ電車の同じ車両に乗ってるのか?)
 
 と芽生えた「疑惑」は、徐々に深まっていった ( ̄_ ̄;) うーん