2011/02/28

歯科医の過剰(1)

医師」と言えば高給取りの代名詞のようなイメージだが、歯科医に関しては高給取りどころか「ワーキングプア」のような人々もいるという。

 

全国保険医団体連合会主催で開かれた集会で、歯科医師の5人に1人が年収300万円以下であると報告した。その理由として、2000年以降相次ぐ診療報酬のマイナス改定と、73項目にわたる保険点数が20年間も据え置かれていることが挙げられている。歯科医を目指す人々にとっては、何とも将来を憂いたくなるような状況だが、ある歯科医は「23世の歯科医でなければ、開業しても借金を抱えるのがオチ」と、さらに追い打ちをかける発言をする。

 

「設備投資が、とんでもなくかかるんですよ。例えば、治療する際に座る椅子。あれは1台数千万もするもので、それを揃えるだけで億単位で金がかかります。そこまでして設備を整えても報酬は雀の涙で、借金を完済することはおぼつかない。おまけに新しく医院を開いても、すでに歯科医院なんてどの街にもあるものだから、新規の患者はやってこない。低い医療報酬、莫大な借金、来ない客、働いても働いても八方塞がりですね。私も父親が歯科医院をやっていなければ、別の仕事をせざるを得ないところでした。まぁ、借金がないというだけで、生活は特に楽という訳でもないのですが・・・」

 

このような状況が続くようであれば、現在社会問題となっている医療崩壊に歯科医も数え上げられる日も遠くなさそうだ。

 

歯医者が多すぎる。

 

「歯医者というのはとても儲かるもの、という印象が強いですよね。実際、年収がかなり高いというデータも出ています。しかし実態はどうかというと、あまりに歯医者が増えすぎた事で、かなりの格差が生まれています。というのも、今の歯医者の数はあるいはコンビニと変わらないか、それよりも多いという状況で、コンビニが23しかない地域に歯医者が1020もある、というケースもあります。バランスが非常に悪くなっており、競争も激しくなっています。その為、儲かるところはとても儲かる一方、全く儲からない歯医者も出てくるのです。歯科医を目指す人は、まだまだ増えています。将来、歯科医の年収が一気に下がってしまう可能性も否定できません」

 

確かに、考えてみれば今は吉祥寺に在住しているが、自宅から吉祥寺の駅まで徒歩10分少々の道程の間に、歯科医院の看板は目に付くだけでも優に10件は超えている。さらに駅周辺には、同じビル内に何軒もの歯科医院が入っているなど、その数倍もの歯科医院が犇いているだろうから、コンビニどころではない膨大な数なのである。

 

《歯科医というと、さぞ年収も高いだろうという気がしますが、最近、その5人に1人は年収300万円(年)以下というニュースがあって、ちょっとビックリしてしまいました。少し調べてみたところ、それは本当のようですね。特に若い勤務医の場合、一般サラリーマンより安い300万円という人がたくさん存在するというのです。

 

その原因の1つは、相つぐ診療報酬のマイナス改定と保険点数の据え置きだ、といわれています。それから、歯医者が過剰気味になっているということも、要因となっているようです。歯科医といえば、年収が高いというイメージがありますよね。確かに開業をして自分のクリニックを持って、そのクリニックが繁盛すれば年収2000万円も3000万円も夢ではありませんが、そこまでいくにはそれなりの努力が大切となります。

 

歯科医にとって大切なのは、やはり技術です。細かい作業も必要なため、経験を積んで技術を身につけなければ仕事になりません。そして開業してからは、プラスαとして大切になるのが経営能力です。クリニックといっても、ある意味サービスのような面もありますので、患者さんのためになる診療とクリニック運営をしなければなりません。  この2つを身に付けておけば、開業しても成功することができるでしょう》

 

つまり技術は勿論だが、それに加えてクリニックの「経営者」としての才覚も必要となるのである。

 

《歯科医師過剰問題が浮上したのは、2000年代になってからです。歯学部の一年間辺りの卒業生は、全国で大体3000人程度と言われています。これは徐々に増えているようです。診療科全ての医師の育成を行う医学部が8000人弱と言われており、歯学部の卒業生の数はその約4割。これは、明らかに多いです。年収の高さもあり、現在かなり人気が高くなっている歯科医ですが、その数が多すぎて問題が生じているのが現状です。

 

歯医者の数があまりに増え過ぎているため、年収にも格差が現れています。少子化が進んで子供の数が減っている分、歯医者に通う人の数も減っているのですが、歯医者は増える一方なのです。歯科医の年収が高い事は、想像に難くないと思います。  その為、非常に人気の高い職業となっています。免許を取得している人がかなり増えており、需要と供給のバランスが崩れているようです。年収の高さも相成って、そういった問題は今後も継続されていく可能性が高いです。

2011/02/24

報復(プロジェクトS)(4)

「今日中という意味は予算絡みの話のネタということでしょうから、まずは納期が迫っている当月分を先に算出して、以降の分は明日にも見積もりますよ」

 

というと

 

「当月分のところだけ切り出して出されても、後に続く見積もりがなければ根拠がわからない」

 

と、あくまで全部出せという。

 

以前の担当者と、ベンダーの管理者と相談した想定では「サーバVM化」は3ヶ月、監視導入が約2ヶ月のオーダーと考えられた。その対応をしていると、次には別システムの担当がやってきた。

 

「急な話ですが、来月からウチのシステムを引き継いでもらう話になっていまして・・・そちらでの引き継ぎ計画と、膨大にあるドキュメントの受け入れ検査をしていただきたい」

 

という、面倒な依頼が舞い込む。

 

「何か困ったことがあったら、相談してくれ」

 

と言っていたI氏に持ち込んでも

 

「そのような上流作業は、メンバーたちはできない」

 

といわれるのは目に見えているから、リーダークラス以上のプロパー数人を巻き込んで、分担を割り当てて管理を行うことにしたが、さらにはユーザーからも

 

「データのバックアップ計画を作って欲しい」

 

という依頼が舞い込む。どれもが、納期や要求レベルが無理なものばかりだった。

 

「一人で並行して、このようなスケジュールをこなすには無理がある」

 

とI氏に相談したところ、ベンダーの管理者に

 

「来月以降の工数を使って、サポート対応してくれないか」

 

と相談したまでは良かったが、それでは誤魔化しきれないレベルになると、PMが介在してきてなにかと文句を言った。

 

当初は、インテリ風に見えたPMが実はかなりの激情的な性格で、かといってこちらもおとなしくムチャ振りを聞くタイプではまったくないだけに、当然のことながら次第に関係が悪化して行く。PMの態度が途中から急に変わったのも、喫煙所などでIによって「洗脳」された結果だったろうと思われる。

 

この場合、簡単に洗脳されるPMにも疑問を感じざるを得ないが、狡猾なIがこれまでの実績と信頼を背景に、よほど言葉巧みにだまくらかしたものだと半ば感心せざるを得なかった。このようにして、遂に「Iの目論見通り」PMと大喧嘩の末、早くも現場を退くことになった。

 

現場に見切りをつけた人間ほど、怖いもの知らずはいない。密かに転職活動を始めていた3月始め、所属会社から

 

「今月一杯で、契約終了という連絡が来ました・・・」

 

という、半ば予期していた連絡が来た。まだ月初であり、無論このような状態で長く続ける意思はなかっただけに

 

「今月一杯と言わず、すぐにも出たいのだが・・・」

 

と伝える。

 

「すぐは無理でしょう。引継ぎとかも、やらないといけないでしょうし・・・」

 

「引き継ぎなど、なにもないよ。そもそも、自分も引継ぎなどしてもらった記憶はないしね」

 

「しかし・・・お客さんの方で、今月一杯と言っているので・・・」

 

「それは向こうの都合による、勝手な言い分だ。こっちは、すぐにも出たいと言っている。その代わり、今月分の給料はビタ一文要らん」

 

「それは、無理だと思います・・・では、今月一杯ということで・・・」

 

以前は大手派遣会社営業だったH氏は、こういうことに掛けては柔軟性がなく

 

「今月一杯で・・・」

 

とユーザーから言われたことを伝えるだけだから、まったく頼りにならなかった。

 

「オマエじゃ話にならん。Sさんと直接話す」

 

と以前から知っていた社長のS氏に、現場のムチャ振りと「謀略」のカラクリを伝えた上で

 

「このような状態で、これ以上続けるのはお互いによろしくない。今月数営業日分の報酬は放棄するから、直ぐにでも退場させて欲しい。融通の利かんH氏はダメだと言ってたが、ダメと言おうが無理にも退場するつもりだ」

 

と宣言すると

 

「では、私の方で調整してみます・・・Hは大手派遣でマニュアル教育を受けていたから、こういう話だと機転の利かないところがあってね。まあ給料を放棄すると言うのなら、なんとか交渉は出来るんじゃないかとは思うけど、取り敢えず交渉してみるので現場では穏便に願いますよ・・・」

 

と、交渉を請合った。

 

その時点で抱えていた管理案件は「VMサーバ新規構築」、「監視システム導入」、「ドキュメント受け入れ検査」、「サーバのバックアップ方式検討」、「障害案件の対応検討」があった。ユーザーの言う「今月一杯で・・・」というのは、それらのタスクの完了を想定してのものだろうが、そうは問屋が卸すまいことか。

 

このうち「バックアップ方式検討」は、前回の担当者に計画までは作らせたので、あとはユーザーとの調整と実作業は誰でも出来る。「監視システムの導入」は多少進捗遅れが出てはいたが、なんとか担当者をコントロールできていたから、リカバリは難しくない。「VMサーバの新規構築」も同様だ。

 

問題は「ドキュメント受け入れ検査」と「障害案件の対応検討」の二つで、これはボリュームも影響度も大きく、仮にその月一杯勤め上げたとしても完了する見込みはまったくない。「障害案件の対応検討」の方は、PMとI氏との3人で検討した結果、PM指示でI氏に担当が代わった。この「障害案件の対応検討」も「ドキュメント受け入れ検査」同様に他システムからの引継いだもので、以前に関わっていた作業者の伝手を辿り独自の有益な情報を入手していた。が、これはPMやIには知らせていないから、さすがのハイレベルの二人もまったく名案が湧かないようで

 

(これは、一体どうしたらいいのか・・・)

 

と、大いに頭を悩ませていた。

 

「ドキュメント受け入れ検査」については、依頼が飛んできたタイミングがあまりにも遅く(担当者の話では、PMにはかなり前に話しておいたと言うことだったが)納期が迫っていたが、なんといってもボリュームがでかすぎた。また、その性質上から対応できるのが「有識者」に限られていたが、当然ながら「有識者」の数が限られる上に、それぞれが沢山の別案件を抱えていて忙しいだけに、遅々として捗らなかった。

 

今後、これらの舵取りをやるのは、どう見渡してもI氏以外にはいなかった。あれだけPMと親密な関係のI氏だから、すでに「契約終了」の件は耳にしているはずである。そうした「暗黙の前提」に立って

 

「ドキュメント受け入れ検査の進行管理をしてください」

 

と頼むと

 

「なんでオレが・・・?」

 

と顔をしかめ、方針検討のミーティングでもスケジュールにI氏を登録すると

 

「他の打ち合わせがあるので、出られない」

 

と、あくまで我関せずを決め込んでいた。

 

「それだと後々、困るんじゃないですかね?」

 

と皮肉を飛ばすと

 

「これはにゃべさんの仕事だから、自分は関係ない・・・」

 

と、あくまでシラを切っていた。

 

(オレが月末まで居て、完了させると思っていたら大間違いだ!

すぐに消えるから、残りの面倒はアンタに任せたぜ)

 

と、腹の中でせせら笑っていた。

 

(Iよ、これが穢い「謀略」のツケだぜ!

精々、自分で自分の穢い尻拭いをするがいい)

 

これまでのPMのムチャ振りの全てが、I氏の首を絞める結果になっていくのだ!

ザマアミヤガレ!

2011/02/20

箱根(1)

正月の箱根駅伝は、すっかり新春の風物詩となった。出場できるのは関東の大学のみではあるが、足に覚えのある高校生が全国から集まっており、応援の盛り上がりは全国的なものだ。

 

出典https://baba72885.exblog.jp/

その箱根の地名由来は、箱根山から来ている。ご存じのように箱根には箱根山という独立峰はないが、それは阿蘇に「阿蘇山」という山がないというのと同じだ。

 

箱根山」とは、カルデラ式火山の外輪山(金時山・三国山・明星ヶ岳など)と、中央火口丘(神山・駒ヶ岳・台ヶ岳など)の総体のことである。外輪山はカルデラの内側が外側と比べ、極端に急な崖になっているのが特徴である。芦ノ湖に落ちていく急な崖は「ハケ」とか「ハコ・ホキ」という地形で、中央火口丘の火山も「トロイデ型」という釣り鐘状になっていて、山肌は急斜面になっている。そこも、ハケとかハコ・ホキという地形である。根は峰や嶺だから箱根山の地名由来は、その地形を素直に表現した「崖のような急な斜面の多い山」ということになる。

 

「箱地名」としては、他にも香川県三豊市の旧詫間町箱と箱崎などがあるが「」は「急な斜面を背後に控えた海岸の小集落」のことで、その先の半島の岬を「箱崎」という。

 

箱崎といえば、東京日本橋箱崎が思い浮かぶが、隅田川沿いの場所で、とても崖があるような土地ではなく、九州の福岡市箱崎も同様に海岸沿いの平地にある。この二つの箱崎は、崖の意味ではなく「ハ(端)」、「コ(処)」の意味で 「中心から外れた地区」を意味する。博多の地名も、那珂川流域の中心地から外れた意味の「端(は)方(かた)」かもしれない。

 

北海道函館市も箱地名だ。おそらく、函館山の急な崖を見て「ハコ(急な崖)」、「タテ(髙い丘)」を想い、函館山としたのに違いない。地元の地名由来では、豪族の館が箱に見えたとか、アイヌ語に由来を求めているが、それらは当たらない。北海道小樽市銭函(ぜにばこ)も、決してニシン漁で儲けた銭を納める箱に由来するのではない。現地は、石狩川河口から続いてきた穏やかな砂浜海岸が終わり、海岸は谷地川を越すと海岸段丘崖下の狭い通路になっている。すなわち、ゼニはセニで「狭いところ」を意味し、ハコは崖だから銭函は「崖下の狭い海岸の集落」と言う意味である。

 

北海道には、もう一つ道東の厚岸町の銭函があるが、ここは地区名ではなく断崖絶壁海岸の名前である。同じ絶壁海岸の隣には鯨浜があり、まさに「崩れ浜」の変化したものだ。なお、東京新宿区の戸山公園にある箱根山は人工の築山で、本物の箱根山に因んで命名されたものである》

 

出典https://www.town.hakone.kanagawa.jp/index.cfm/12,3164,73,html

 「はこね」の名前が歴史に登場するのは、今から1200年ほど昔の平安時代のことです。 『日本紀略』という歴史書に「はこねみち」と書かれた文章がのっています。ただ、それよりさらに古い『万葉集』(日本で一番古い歌集)に「あしがらのはこね」と詠んだ歌があり、奈良時代より前からの名前であることがわかります。

 

では、なぜ「箱根町(はこねまち)」は、「はこね」と呼ばれるようになったのでしょうか。「はこね」の「ね」は「」、つまり「」を表しているようです。 「はこ」については色々な考え方がありますが、ひとつには「駒ケ岳」の形が「箱」に似ているという説があります。

 

ポリネシア語による解釈

出典http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/

箱根町は、県南西部、箱根火山の古期外輪山の嶺線から内部の全域に位置し、中央火口丘の 西には芦ノ湖、仙石原があります。町名は、古代以来の地名で、足柄地域の一部である神山(1438メートル)、駒ケ岳(1327メートル)などの西の根方回りの呼称であったとされ

 

(1)「ハコ(箱のような形の山)・ネ(峰)」の意

(2)古朝鮮語で「ハコ(神仙)・ネ(峰)」の意

 

とする説があります。北部の金時山の西南には乙女峠があり、芦ノ湖からは早川が流出し、その流域に沿って山姥が金太郎の眼病を治したという姥子温泉、早雲山の麓にあって「石がごろごろしている場所」の意とされる強羅温泉を始め数多くの温泉が湧出していますが、南の外輪山の内側を流れる須雲(すくも)川の流域には温泉がありません。

 

この「はこね」、「あし(湖)」、「せんごくばら」、「かみやま」、「こまがたけ」、「おとめ」、「うばこ」、「ごうら」、「すくも」は、マオリ語の「ハコ・ヌイ」、HAKO-NUI(hako=anything used as a scoop or shovel,straight,erect;nui=big,large,many)、「シャベル(のようなもの)で大量に土を掘つた(ような場所。「神が富士山を釣り上げるための釣り針として岩石のかたまりをもぎとった場所。芦ノ湖とその横の神山、駒ケ岳等を含めた地形」)

または

「直立した山が並んでいる(場所)」 、「アチ」、ATIdescendant)、「(釣り針をもぎとった)痕跡」、「カミ・イア・マ」、KAMI-IA-MA(kami=eat;ia=current,indeed;ma=white,clean)、「湖(古仙石原湖)を(噴火によつて)呑み込んだ(陸地に変えた)清らかな(山)」、「コマカ・タケ」、KOMAKA-TAKE(komaka=sort out;take=root,base of a hill,chief)、「(中央火口丘の中で一つだけ)区別されているどっしりと座っている(山)」 、「ウパ・コウ」、UPA-KOU(upa=fixed,at rest;kou=knob,stump)、「ゆったりと休息している丘(そこにある温泉)」、「ツ・クモウ」、TU-KUMOU(tu=stand,settle;kumou=komou=cover a fire with ashes or earth to keep it smouldering)、「火を地中に埋めこんだ(噴火口や温泉がない)場所を流れる(川)」 の転訛と解します。

2011/02/17

ムチャ振り(プロジェクトS)(3)

「直ってないといっても、あれから何日も経ってないし。そんなに急に出来るわけがない」

 

驚いてそう言うと

 

「この前話したのが、金曜日か・・・金、月、火・・・そういや3日しか経ってないか・・・」

 

ちょうど偶然に、先に眼にしたPMとI氏の親しげに話をする場面・・・こちらの姿を認めた途端、とってつけたようにそそくさと立ち去った二人の姿・・・そしてPMからのクレーム・・・この時、今回降って沸いたような問題の「構図」が、頭の中で出来上がった。

 

そうだ。「PM-I氏」のラインを中心に据えれば、あのわけの解らない疑問が全て氷解するではないか。そもそもVPのH氏が「タスクを丸投げにしている」などという、細かいレベルを把握できているわけがないから、これは「誰かからの情報に基づいて言っている」のである。では、誰からの情報か?

 

VPと直接会話をするといえばPMくらいしか思い浮かばないが、そのPMにしても自らそこまで把握しているわけはないから、これも「誰かからの情報提供」がなければならない。これは、誰からの情報か?

 

これまでPMとメンバーが直接会話をしている場面は、見たことがない。あるとすればメンバーの中でもプロパーか、或いはプロパー以外で・・・

 

そうだ!

リーダーの「I氏」が居るではないか!

 

PMとは最も親しくどころか、まったく「蜜月」ともいえるような、PMとしては全幅の信頼を寄せている「腹心のI」が居るではないか!

 

腹黒いIが、喫煙所などにPMを誘う。

 

(新しく入ったにゃべ氏ですが・・・どうもタスクの中身に入りきれてないようで、メンバーから色々と不満の声が出て来て、参りましたよ・・・)

 

(そーなのか・・・?)

 

(スケジュール管理しか出来ていないみたいで・・・ユーザーの定例会も、頼まれて私が出て説明しましたけど・・・私も、いつまでも頼られても困るしなー)

 

(うむ・・・  じゃあ、M君に言っておくか・・・)

 

と、このような会話が交わされたのではあるまいか。どうも、それ以外に考えられぬ。

 

これは単なる想像ではなく、改めてこれまでの話をよく吟味してみると、最も身近に居るIでなければ言えないような内容も含まれていた!

 

では、Iの動機はなにか?

そうだ!

 

以前に、Iに何かの作業を依頼したことがあった。まだ入ったばかりの頃で、その時はてっきりIのやるべき作業だという認識で「やっといてください」と言った時に「何で私が?」と、ややムッとしていたことがあった。

 

それは「何で私が?」ではなく

「何でオレ様が、オマエのような新米に指示されなきゃいかん」

ではなかったか?

 

その時はIも猫を被っていたため、まさかあれほど尊大なやつだという認識はなかったのと、PMから「解らないことは、当面Iさんに頼んで」という言葉をそのまま受け取ったせいで、まったく悪気や特別な意図はなかった。が、あれがそれほどまで、誇り高きリーダーIのプライドを傷つけていたのだろうか?

 

あのクレームが「Iによる謀略」という当たりをつけたせいで、当然ながらIとの関係はギクシャクし始めた。Iの方でも、最早殊更に自らの「謀略」を隠すような振る舞いはなく、持ち前のふてぶてしさを発揮してきていた。こちらとしては、出来るだけIとの接触を避けたい。それに、自分を陥れようとしているヤツに定例会の同席を頼むのも業腹なので、不安はあったが一人での対応を余儀なくされた。

 

その最初の週は、ちょうど予定していた時間にユーザーのシステムで大きなトラブルが発生したため、担当者が3人ほどバラバラに来ただけで、本来の緊張感のある「定例会」は運良くお流れとなった。そのうちに、定例会向けのタスク管理だけではなく「VMサーバの新規構築」やら「監視システムの導入」といった、新規の大きなテーマが持ち上がってきた。個別案件に対する担当者アサインはI氏が行っていたため、この件についての担当者の割り振りを頼むと

 

「既存メンバーは障害対応とかはやるが、設計などの上流工程は出来ない者ばかりですよ。設計など上流はリーダーがやって、そこからメンバーがやることの指示まで落とし込んでやらないといけない」

 

という。が、元々ネットワーク屋のこちらとしては「監視の導入」はともかくも「VMサーバ」などは、知識も殆どない。ましてや顧客への定例報告とその資料作成、また10数人いるメンバーのタスク管理という慣れない作業だけで手一杯だったが、技術もオールマイティらしいI氏は、これらの設計も簡単に考えているようだった。

 

現場には、メンバーの他に大手ベンダーの管理者が常駐していたため、彼に相談して「今、使える工数の範囲内で、対応できないか?」と要請をし、監視設計については「別のチームに詳しい人材が居るから、そいつを使って欲しい」というPM指示により、その人物に依頼した。

 

ところがPMからの無理難題は、矢継ぎ早に飛んでくる。次には

「サーバVM化と、監視導入に関する各案別の工数見積もりを出して欲しい」

と来た。

 

この作業は、元々設計フェーズの仕掛かりから別のチームが担当していたものだったため、その時の担当者にメールで依頼したところ、PMから「自分でやれ」というわけのわからない指示だ。元々担当していた人間が居て、途中まで作業を行ってきたのをこちらのチームで引き継ぐことになったのだから、これまでやって来た担当者が見積もりを出した方が、より早く正確に出来るのは間違いない。仕方がなく、当面納期が迫っていると思われる当月の概算見積もりを急造で提出すると

「カットオーバーまでの全部の見積もりを、工程別に出して欲しい。それも急ぎで・・・今日中に欲しいな」

という、無理な要求だ。

2011/02/10

クレーム(プロジェクトS)(2)

どうにかこうにか金曜日となったところで、元請会社の現場リーダーM氏から

「昼飯に行きましょう」

と誘われる。

 

切れ者の若いM氏は別のシステムに居たのを引き抜かれて、今はユーザー側のフロントに立っていた。調子はどうかという、当たり障りのない話から始まり

「実はですね・・・」

と本題を切り出した。

 

「にゃべさんは、タスクを丸投げにしている・・・という声が耳に入ってきています・・・」

 

「は?」

 

「どうです?

心当たりがあるか、それとも、なにか言い分がありますか・・・?」

 

「丸投げにしているつもりはありませんが・・・誰が、そんなことを言ってるのでしょう?」

 

「直接は、Hさんから言われました・・・」

 

H氏というのは、PMの上司に当たるVPvice president)だった。が、PMですら担当者レベルと直接話している場面は殆ど眼にしていなかったから、その上司のVPが正しい情報を把握しているはずはない。

 

「いや、Hさんは色々と情報源がありますからね。それに、そう言っているのはHさんだけではなく、メンバーからも不満の声を聞いています」

 

と、M氏が言う。

 

「それは、誰?」

 

「まあ、名前は言いませんが・・・1人ではなく

『スケジュール管理だけで、タスクの中にまで入り込んでいない』

という不満は、自分も何人かから聞いているので。自分もあちこちに情報源を持っていて、一人や二人じゃないですよ」

 

と言った。

 

「昨日、Hさんから呼ばれて

 

『そうした声が出ているが、にゃべさんになんらか別の考えがあるのかもしれないから、そこを確認してくれないか』

 

と言われました。それで、どうかと聞いているのです」

 

「なんと言っても、まだ本格的に始めてから1週間しか経っていない。まだまだシステム全体も理解できていないし、タスクの中身にまで入り込むようには言われていましたが、正直そこまで手が回っていないのが現状です。まだ1週間で、そこまで完璧にやるのは無理でしょうな」

 

「なるほど・・・では

『タスクを丸投げにしている』

ということについては、どうですか?」

 

「『丸投げ』というのを、どういう意味で言っているのかがわからんけど、自分としては丸投げしているつもりはないですが。実作業は担当者がやって、その進捗を管理するのが自分の役目であって、先にも言ったように現状でタスクの中身までは入り込めていないにしても、丸投げという認識はないです。タスク管理のやり方は色々あると思いますが。ここの現場の担当者は総じてレベルが高いから、相手は小学生じゃあるまいしベッタリ張り付いて見るような必要はなく、ポイントを抑えていれば問題ないと思っていますがね」

 

「なるほど。考え方はわかりましたので、Hさんには伝えておきます。ただ、先のような声が出ているのが事実ではあるので、にゃべさんもタスクの中身にまで入り込んで、担当者と一緒に問題を解決していくような姿勢を見せてほしい」

 

とM氏が言い、その場は別れた。

 

しかしながら、この話には大きな違和感が付きまとった。まず第一は「H氏が言っていた」と言うことである。先にも触れたように、H氏はVPVice President)だから大きなところしか見ていないはずで、このような細かい状況を把握しているとは思えなかった。なにより本来であれば、このような改善要望であればPMから出てくるのが筋のはずだがPMの名前は一切出てこず、いきなりVPに飛び越えているのが解せない。M氏が、こちらのチームの担当者数人と親しいのはわかっていたから、その辺りから不満やら意見やらを聴取している事実として、いきなりH氏が絡んでくると言うのが解せなかった。

 

単に「メンバーが、そう言っている」というだけではインパクトに欠けるため、VPの「H氏」の名前を持ち出したのかもしれない。日ごろ接触のあるPMの名前を出した場合だと、万一直接に確認されたら嘘がばれるため、その心配のないVPの名を騙った・・・・ありそうな推測だ。若いが百戦錬磨のM氏であれば、このくらいのことはやりかねなかった。

 

ともあれ「タスクの中身に入り込む」努力は心がけはしたものの、現実は進捗遅れが多かったり、その理由(というよりは言い訳)をどうにか捻出して、毎週やってくる「定例会」をスムーズに進める準備だけで手一杯で、まだまだ「タスクの中身に入り込む」というのは簡単ではない。なにせ、まだ本格的に取り組み始めて1週間しか経っていないのだ!

 

ところが、その週が明けた3日後、つまり水曜日の事だ。この現場のビルは喫煙所が外にしかないため、タバコを吸う都度いちいち外に出ないといけなかったが、その時も喫煙場所には大勢の人間が屯していた。その大勢の中に、PMI氏がひそひそと密談のように額を寄せて話しこんでいたが、こちらの姿を見つけると急に立ち上がって戻っていった!

 

「直感」というのは不思議と的を射ている場合が多いもので、その振る舞いは「やけに不自然」に映った。なんとなく、嫌な感じに見舞われながらタバコを取り出すと、M氏の姿が眼に入った。バッグを持っていたので

 

「これから、客先訪問?」

 

と、声を掛けると

 

「そうそう、直ってないじゃん!

直ってないって、昨日PMから言われたよ・・・」

 

と、大きな声を出した。

2011/02/03

謀略(プロジェクトS)(1)

 新しい職場は、金融系の有名上場企業だった。


 「直近業務でのリーダー経験」


 から、10数名プロジェクトのリーダーという役割を期待された。直近のリーダー経験というのは、例のFプロジェクトでのプレーイングマネージャー実績である。


 新しい現場の初日は、同時に採用されたとおぼしき10人ほどが一室に集められ 「スタート説明」から始まる。


 「名前を呼ばれた順番に、着席してください」


 真っ先に呼ばれ、最も奥まった席に座る。


 10人ほどが全員着席すると、セキュリティカード、キャビネット鍵や資料の配布に続き、スタート説明が始まろうというところで、別の女性スタッフがやってきて


 「にゃべさんは、こちらへ」


 と一人だけ呼ばれ、別室に移動した。


 (なぜ、オレだけが別室・・・?)


 といぶかりながらも説明を聞いていると、ひと通りの説明の後、PMから呼ばれた。 そこに、リーダーのI氏が同席していた。


 現状の体制はPMがトップに居て、その下にリーダーが3名。3名のリーダーの下に実作業を行うメンバーが10数名と、大手ベンダーの管理者および実働部隊が数名居た。


 リーダー3人は、それぞれ沢山あるシステム単位で担当を分けているが、3人のうちの1人がNGとなったため、今回その人物の代わりを務めるということだった。3人のリーダーのうちI氏が特に全体を見ているらしく、PMの厚い信頼を得ているようだった。


 NGとなった既存のリーダーは、契約の関係からその週で現場を出ないといけないが、残作業やら次の現場入場の準備などがあって、当初から


 「引継ぎ期間は最大で1週間弱、実質殆どないと思っていただいたほうがいい」


 と聞いていた通り、担当者も休みがちで正味2日もないのが現状だった。

 このように、スタートからして無理な船出を余儀なくされたところに、さらに追い討ちが掛かった。


 「リーダーは、基本的に実作業はやらない。あくまで、マネージメントに特化した役割だと考えてください」


 というのがI氏の方針だったが、一方でPMの方は


 「マネージメントは単なるスケジュール管理だけではなく、タスクの技術的なところまで入り込んで欲しい。前任者には、それが欠けていた」


 というのが持論だった。


 「タスクの技術的なところまで入り込む」とは言っても、最初はシステム構成もよくわからない。おまけにメンバーは10人以上もいて、それぞれがサーバやデータベースなどの専門ばかりだから、ネットワーク屋の自分がそれらの「タスクの技術的なところまで入り込む」のは、口で言うほど容易ではないだけに、最初のうちは「リーダーは、基本的に実作業はやらない」という、I氏の方針を拠り所とすることにした。


 そうして現場のシステム構成を理解しながら、徐々に「タスクに入り込んいでいく」という目論見だった。

 リーダーとして最も重要なタスクは、週1回行われる「定例会」だ。ここではユーザー担当者の10人近くを一同に集め、各タスクの進捗を行うことになっている。引継ぎの週にS氏と一緒に出たが、各担当から鋭い質問や突込みなどが矢継ぎ早に飛び、S氏が立ち往生する場面も見られた。


 その席で、S氏から


 「私は今週限りで現場を離れることになりましたので、次週からはこちらのにゃべさんが私の代わりとなります」


 と紹介された。が、ユーザー担当者は、いずれもその道数年でやって来ている専門家であり、現に半年以上も勤めていたS氏ですら立ち往生するくらい大変なのだから、まだ現場の仕組みやシステムを理解していない人間に、おいそれと代わりが勤まるような話ではなかった。


 S氏に、それを言うと


 「しばらくは、Iさんに同席してもらいましょう。私からも、Iさんにお願いしておきます。Iさんは全体を見ている人なので、内容はほぼ理解できている人だから」


 ということで、自分からもI氏に事情を話し相談し、当面23回くらいは一緒に出てフォローしてくれるように頼んだ。フォームの始まり

 

フォームの終わり

 

 その週末でS氏が現場を去り、翌週の「定例会」に備えて各担当者からタスクの状況についてヒアリングをして進捗状況をまとめたり、遅れが出ているものについては尻を叩いたりしながら、2度目の「定例会」を迎えた。


 事前に、どのように説明するかのシミュレーションを行ったが、中には担当者が「体調不良」で休んでいたために手が付いていないものもあって、明らかに突っ込みの対象となりそうだったが、それについて


 「これは・・・どう誤魔化すか・・・」


 といいながらも、海千山千のI氏は余裕綽々だった。


 「今回は私が話しますが、次回からはにゃべさんがやってください」


 と言って臨んだ定例会。ユーザー担当者は、やはり10人ほどいた。


 S氏もかなり口が上手かったが、I氏の弁舌とロジックの展開は比較にならぬほどに水際立っており、並み居るユーザーの煩型からの突っ込みを交わしていく様は、実に鮮やかだった。


 このI氏はPMとよほど相性が良いらしいく、終始ひそひそと密談していたり、タバコを吸うにもいつも連れ立っていた。I氏と相談した結果、次回からはこちらがMCを務めるがI氏に同席とフォローをお願いし、次の月からは一本立ちでやるという整理となった。


 定例会では、当然ながら遅れが出ているものに焦点が当たりがちになるだけに、当初はとにかく「遅れが出ないように」という意識が強く、まだまだ各担当の「タスクの技術的なところまで入り込む」という状況ではなかった。