2004/07/31

リフレッシュ(東京劇場・第2章)part13

 プロジェクトが始まるまでの待機中は、社内作業である。といっても資料も一向に届かずすることがないため、将来増えてくるらしい研修生向けの教材作成を依頼された。

かつて自分で勉強した時に使ったものなどを焼き直したり、新たにWebで検索したものをそのまま貼り付けたりして簡単に済ませると再びやる事がなくなり、毎日郵便受けに大量に投げ込まれているチラシを持参して、プログラミングの勉強に勤しむ若い研修生たちを尻目に、一人端っこの席で暇を潰していた。

飲食店の宅配や引越し会社、分譲住宅、或いは出前風俗のピンクチラシなどどれも縁のなさそうなものばかりの中で、目を惹いたのは新宿にあるスポーツクラブだった。

日頃の運動不足もさることながら

「体験入会キャンペーン。33150円で、ビジターでも全施設を利用出可能」

と書いてあり、施設にはプールやジャグジーなども含まれていたから、風呂好きのワタクシが見逃すはずはない。普段は狭いユニットバスで我慢しているだけに、思いっきり体を伸ばして風呂に浸かるのはなんといっても魅力的である。

引越し前は、住居から比較的近かった千代田区総合体育館で週1回程度汗を流していたが、狭いスペースに作り付けのシャワーしかなかったため不自由を感じていたが、土曜日に訪れたこの民間の施設はさすがに比較にならない規模である。

なにより目を惹いたのは女性客の多さで、総合体育館では若い女性には滅多にお目にかかる事はなかったから、カラフルなウェアに身を包んだ若い女性たちが徘徊しているのを見るの自体、久しぶりな気がする。土曜日という事もあるのだろうが、沢山あるマシンがどれも順番待ちといったような状況であった。

適度に汗を流しお目当てのプールへ行くと、スイミングキャップがないから入ってはいけないという。どうせ体の汗やら香水やらで汚れるのだから、なにも髪だけを問題にする事もなかろうにとは思ったが、フロント脇のレンタルコーナーまで戻るのも面倒だったので、プールは諦めてジャグジーに入る事にした。

ところが・・・である。ジャグジーは、プールと同じコーナーにある。という事は男女兼用であり、したがって水着着用という事なのだった。男女兼用といえば聞こえはいいが、プールと違い抵抗があるのかこちらには若い女性は少なく入ってくるのはオバサンばかりであり、おまけに海パン(実はトレーニング用のトランクス)を穿いたままだから、どうにも風呂に入っている気がしない。それでも広いジェットバスで、思いきり体を伸ばせたのはせめてもの救いと言えたが。

 以前は、フリーメールに送られて来るネットの懸賞に片っ端から応募していた時期があったが、どれも一向に当たったためしはなく早々に見切りをつけて一切手を出さなくなっていた。ところが全然訊いたことのない貴金属を扱う会社から、なにかのアクセサリーが当たったという電話が掛かって来た。

「といっても、そんなものに応募した事すら憶えてないんだけどね・・・まあ、くれるというんなら喜んで貰うけど」

「それでは是非、お越し下さい・・・今度はいつ、名古屋に来られますか?」

「ああ、名古屋の会社か・・・少し前から、東京に出て来てるんだけどねー」

「それでしたら銀座に支店がありますので、そちらの方で・・・」

といった経緯で、ガラにもない銀座へ行く事に。

以前にもどこかに書いたが学生時代に上京した時に、新宿辺りをブラブラしたのだったが、当時「プランタン銀座」がちょっとした話題になっており、愛知県に居たワタクシもその名を耳にしていただけに、その時もプランタンの前をわざわざ歩いたくらいであった。銀座を歩くのはそれ以来だから、実にン年近くぶりという事になる。

Mapion」で確認したおいた場所は、そのプランタンの角を曲がり、松屋を通り過ぎた昭和通沿いとあったが、余所者の頭では「松屋」といえば牛めしの松屋しかないから、あのデカイ松屋デパートを知らずに素通りして

(松屋なんてないぞー・・・吉野家はあったけど・・・)

とオオボケをかましながら、夜の銀座を彷徨っていた。

仕方なく電話で場所を訊き、まったく縁のなさそうな洒落た感じのエントランスをくぐって来意を告げると女性の店員が出て来て、シルバーのブレスレッドをもらったのである。

「貰ったら後日、何かを奨められるという事はないよね? 自分は貴金属とかには、まったく縁のない人間だから・・・」

と念を押しておいた通り、普段は指輪はおろか腕時計すら付けていない。学生時代や若い頃は、人並み以上に格好をつけてネックレスだのブレスレッドだのをしていたが、元々肌が異常にデリケートな体質なので安物をつけると直ぐに被れてしまうのである。

腕に至っては時計すら邪魔に感じて付けていないくらいだから、ブレスレッドなどは20代半ば以来十年以上は無縁だったが、折角だから付けてみようかと思いつつ、久しぶりの銀座の夜はラーメン屋で夕食を済ませることに。

サン=サ-ンス 交響曲第3番「オルガン」第2楽章(第二部)



 最初にこの曲を聴いた時、当然の事ながら「オルガン入りの交響曲」という珍しいところに、非常なる興味を持ちつつ勇んでオーディオに向かった。ところが延々と流れる曲を聴いていても、一向にオルガンが現われて来る気配がなく  

(ありゃりゃ?
オルガンなんて、一向に出てこんぞ・・・)

と、何度も首を傾げた。
※実際には第1楽章から登場しているが、ここまではあくまで「脇役」的な扱いである。

そうこうするうちにも、上品かつ叙情的な雰囲気の横溢する第1楽章とは打って変わり、第2楽章に入るや一転して印象的な華やかな曲調に変わった。しかしながら依然として期待するオルガンは、一向に出てこないのである。

(確かに、これだけでも充分にいい曲ではあるが・・・しかしオルガンが出て来ないのは詐欺だ・・・)

そんな疑問を深めつつ、いよいよ最後の第2楽章・第2部に差し掛かると、ようやくにしてオルガンが華麗に登場。まさに「真打ち登場!」いう感じで、いきなり後頭部をガーンと殴られたような、大きな衝撃に見舞われた。

このように、オルガンが派手に活躍するのは35分ほどの曲の中、この最後の数分程度だ。ピアノの神様リストから「最高のオルガニスト」と絶賛されたサン=サーンスが、その持てる円熟した技術とオルガンの魅力を最大限に引き出した、単に煌びやかなだけでなく高度に洗練された技巧が、惜しげもなく注入されているのである。

癒しの音楽のような第1楽章と、転調の魅力溢れる第2楽章の第一部、そして第二部は全編通してクライマックスへ向け、息つく暇もない。特に、重厚かつ格調高いクライマックスは出色の出来栄えであり、個人的には最もお気に入りのエンディングの一つに数え上げられる。

2楽章・第二部
巨大な編成による壮大な響きこそが、この作品の一番の売りだ。三管編成のオケに、オルガンと4手のピアノが加わり、フィナーレの部分ではこれらが一斉に鳴り響く。

交響曲にオルガンを追加したのは、必ずしもサン=サーンスが最初ではない。 しかし、過去の作品はオルガンを通奏低音のように扱うものであって、この作品のように「独奏楽器」として華々しく活躍して場を盛り上げるものではなかった。それだけに、このフィナーレでの盛り上がりは今まで耳にしたことがないほどの「驚きとヨロコビ」を聴衆に齎したと思われる。
出典 http://www.yung.jp/yungdb/op.php?id=967

2004/07/30

マンスリー物件(東京劇場・第2章)part12

新しい物件は、新宿と代々木のちょうど中間くらいのところにあり、新宿の繁華街までは歩いて10分程度だが、代々木の住宅街の中にあるため少し離れているだけで閑静な立地である。収納もなくただでさえ手狭なところに、セミダブルのデカイベッドがスペースを取っていた前の物件に比べ、収納や洋服ダンスにキッチンまである新しい住居は随分と広く感じる。

最大の利点は交通の便の良さで、社内待機期間の神田にも新しい現場となる某市にも、また短期間仕事が発生するかもしれない元請けN社のある三田へも、どこへ行くにも便利な新宿駅まで歩いて10分ほどなのである。

といっても勿論いい事ずくめではなく、周囲にスーパーや大型のドラッグストアなどがないのは前と同じだったし、コンビニまでも10分近く歩かねばならないのは、道を挟んだ隣にあった前の住居の時に比べ面倒に感じる。さらにエレベーターがない物件なので、5階の部屋まで56段の階段を往復しなければならないのも、真夏は過ぎたとはいえ蒸し暑さが残るこの時期には負担であった。

以前に下見をしながら、結局引っ越さなかった最大の理由は「光熱費実費」というシステムのためだ。以前は一律料金だったため、休みの日などはエアコンも電気も終日つけっ放したままだったし、トイレも3回くらい流していたものだったが、それらを小まめに消して歩かねばならないのが手間なのと、業者が念入りに消毒をしたらしく塵ひとつないような清潔な部屋だった前の住居に比べ、決して汚いわけではないがやはりマンション形式のため、家財等の経年劣化が幾らか目に付いた辺りがマイナスだ。

しかし越してみて改めて感じた利点は、やはり「新宿まで10分少々」という日本一ともいうべく足回りの良さと、光ファイバーのインターネットが常時30MBの高速接続で安定していたところである。

 さて、物件に到着し前家賃の12万ほどを支払うと、以前の下見の時に部屋の案内と説明をしてくれた若い女性と再会する事となった。

「あ・・・以前の・・・」

「いやー、失礼したね。チト事情が変わって、ずれ込んでしまったんだ・・」

かつては下見をしておいてトンズラした後味の悪さが一瞬過ぎったが、改めて契約に漕ぎ着けたのだから、ここは「事情が変わった」という事にしておく。

予約の電話をしている時も、受話器越しの小さな子供の泣き声がやたらと聞こえてきたが、こうして説明を訊いているとまたしてもフロントの奥の方から、癇の虫が喚きだした。そしてドンドンと戸をたたく音に目をやると、小学校低学年児くらいのかわいらしい男の子が、ジーっとこちらを見ている。

「あれは・・・誰?」

「あれは、私の子供です・・・」

「え? あんな大きな子供が居たの?
学生さんとばかり思っていたけど・・・」

実際どうでも良い事だが、最初見たときから学生のアルバイトくらいにしか見えないくらいに若い作りでもあり、また実際に若くも見えたのだった。

「まあ、そんな事はどうでもいいから、案内を続けてくれたまえ・・・」

と階段で5階まで上がって部屋に入ると、実に丁寧に説明をしてくれたのであった。一通り説明が終わってから

「さっきのフロントに居たオジサンは、オヤジさん?」

と訊くと

「えー? そう見えますかー? そんなに似てますー?」

と、かなりショックを与えてしまったらしい。実際、中国人のような太目のハゲオヤジと学生のような可憐な感じの彼女では、どう逆立ちしても親子関係には見えなかったが。

「いや、ジョーダン、ジョーダン・・・にゃははは」

と、ここは笑って誤魔化す事にした。窓を開けてベランダに出ると、聳え立つ新宿の高層ビル群が目に入る。「時計台」として有名なDoCoMoビルやタカシマヤ・タイムズスクウェア、或いは文化女子大学のバカデでかいキャンパス、少し向こうには都庁、東京医大、西口の高層ビル群が聳え立ち、また明治神宮や新宿御苑にも近いという立地である。

「ところで・・・5階ともなると蚊とかGなんかは、あんまりいないよね・・・?」

前の物件では真夏を通してもついぞ見なかっただけに、ついでという感じで軽く訊くと

「そうそう、代々木ってGが多いんですよ・・・それも凄く大きいヤツが・・・」

ガ━━━━━━(´Д`;)━━━━━━ ン

「なんで、そうなるわけ?」

「近くの明治神宮に、大きな木が沢山あるからじゃないですか・・・なんか余計な事を言ってしまいましたね・・・」

直ぐにも逃げ帰りたい(;´д` )トホホ