2013/03/29

逃げ腰?(プロジェクトD)(5)

 ドキュメント系のレビューは技術的な内容に終始するだけに、参加するのは担当者とN部長で自分は参加していなかったが、それとは別に元請けのN社にプロジェクト全体の進捗を報告する「定例会」が毎週2回設定されていた。通常の、WBSやら課題管理表などを元に、各タスクの進捗を報告する会議だ。これにはN社のマネージャーとサブの女性、こちら側はN部長と自分が参加することになった。

 

 「この会議での報告は、いずれにゃべさんにお願いしたい」

 

 というところまでは、これまでの現場も似たようなものだから問題ないと思っていた。ところが、面倒臭がりのN部長からは、事前に何の指示や打合せもないぶっつけ本番の参加となり、この場で初めて見たWBSの見方すらわからないという状況で、専門用語が飛び交うN社マネージャーとサブとN部長との丁々発止のやり取りも、何を言っているのはサッパリちんぷんかんぷんと言うテイタラクだ。

 

(まあ、当面はNさんが説明するのだろうから、自分は徐々に覚えていけばいい・・・)

 

と気楽に構えていたのが、3度目の進捗会議にして早くもそのように気楽に構えていられる状況ではなくなった。

 

このN部長は、なにかと「自社用」が多く暇さえあれば自社に帰っていたが、選りにもよって、この進捗会議の日に「自社用」でトンズラしてしまったのである。

 

それならそれで、前日に

 

「明日は自社に寄るので、進捗会議の対応をお願いします」

 

と事前に伝え、どのように説明すべきかポイントをレクチャーするなど「作戦会議」くらいはやりそうなものだが、そのようなことはまったくなしで丸投げなのである。

 

3回目と言えば、まだ一週間かそこいらだから、WBSで何百行もあるタスクの内容すらまったく理解が出来ておらず、とても説明ができる状態ではない。

 

進捗会議は通常は週一のパターンが多いが、ここでは週2回行われていたため、1回くらいは飛ばしてもいいのではとの思いで、念のためN社のマネージャーに

 

「今日はNが自社作業で不在のため、進捗会議は中止か明日にリスケにしていただけないか?」

 

と聞いてみたが

 

「普段通りにやってください」

 

と、ニベもなく却下された。

 

大手N社のマネージャーらしい尊大かつ気難しいT氏だから、おそらく却下されるだろうとは思っていたが、案の定だ。仕方なく、やけくそで臨んだ進捗会議は、まったくボロボロに終わり、T氏から

 

「まず、タスクの内容を早くちゃんと理解してくれよ!

じゃないと、話にならんわ」

 

とキツく言われた。女性とは思えないような口の悪さで、皆から恐れられているサブリーダーのK女史は

 

「まあ、まだ1週間かそこいらだったら、無理もないっちゃーないけどさ。にしてもNさんも、なんも引きつがずに丸投げしてくってのはあり得んわ・・・」

 

と呆れていた。

 

また、毎朝「朝会」というミーティングがあって、各担当のタスクの確認とその日のタスクの指示がN部長から出されたが、慣れるにしたがい日毎にN部長の「自社寄り」が増えてきた。

 

こうした場合なども、通常なら前日などにあらかじめ打合せをしてもらいたいものだが、当日の朝に電車に乗っているようなタイミングで

 

「急きょ、自社に寄らなければならないことになりました。朝会で各担当に、以下の指示をお願いします」

 

と、細かい指示内容を書いたメールが飛んでくるようなケースも増えた。しかし、この段階はまだかわいい方で、内輪の話のうちはまだよかった。

 

N部長の「自社寄り」の頻度は増加する一方となった。しかも、わざわざ朝会やN社との定例会のタイミングを狙っているかのように、その時間にいないことが多くなり、気付けば半分近くはこちらがメインスピーカーを努めなければならなくなっていた。

 

これが参画後半年くらい経って、業務内容もすっかり覚えてしまった後ならまだよいが、まだ1か月やそこらだからスキルも知識も中途半端な状態だ。当然ながらN社の求めるスキルは高いから

 

「このくらいは、理解してもらわんと困るなあ」

 

などと、露骨に嫌味を言われ続ける。それでも進捗が順当ならまだしも、どのタスクも遅れていたり軒並み品質が低いものばかりだから、その言い訳を考えるのに腐心するばかりで、N部長が逃げ回っている気持ちが理解できた。

 

 メンバーたちは元々持っているスキル以上に高いレベルが求められ、創ったドキュメントは片っ端からダメ出しを食らい直さないといけないとなるため、毎日のように終電近くまでの稼働を強いられていた。

 

 CISCO最高峰の「CCIE」を持つN部長からすれば、メンバーのスキルの低さは歯がゆいばかりだったろうが、時間が経過しようともメンバーのスキルはサッパリ上がってこなかった。こちらが傍で見る限り、元々センスがないのが致命的と思えたが、それに加えてN部長が面倒くさがりのせいか、メンバーたちに技術を継承するのではなく、メンバーたちの作業を自分で巻き取って、全て自己完結させてしまっているためと思えた。もっとも、N社の設定する厳しい納期に間に合わせるにはメンバーたちの力量では到底追いつかないから、N氏としては技術継承などと暢気なことを言っていられる場合ではなかったろう。

2013/03/22

技術屋部長(プロジェクトD)(4)

 前リーダーのT氏は頭の回転が速く、そのうえ弁も立つ人物だったから、なぜNGになったのかは不明だった。

 

それとなくN部長に聞いたが

 

「ちょっと、ある事件がありまして・・・」

 

と言葉を濁していたから敢えて追及もしなかったが、あの無邪気とも思える性格から、おそらくN社のトップ辺りに何か余計なことを言って嫌われたのだろうくらいの想像はついた。

 

口の悪いT氏が

 

「メチャクチャ頭がいい人」

 

とN部長を評していた。

 

そのN部長が相当に頭脳が切れることはすぐにわかったが、それより何より技術スキルが非常に高く、スキルの低いメンバーばかりのこのチームでは突出していたのは事実で、Ciscoの最高の資格である「CCIE」を10年も前に獲っていたくらいだ。

 

これだけでも「超一流のネットワークエンジニア」の証明と言えたが、N氏の凄いところはネットワーク系に留まらずOracleプラチナ、PMPなど、どれ一つをみても世間一般的には「数年かけて取れるかどうか」レベルの最高難易度のIT資格ばかりで、名刺には資格とロゴが狭いスペースからはみ出しそうに並んでいた。

 

さらに驚いたことに、この人はそもそもC社と言っても北海道のC社の社員だったのを、このプロジェクトに参画するために招聘されていたらしいのである。D社肝いりのプロジェクトだけに、元請けのN社の気合の入れ方が伝わるが、わざわざ北海道からN氏が単身で乗り込んできていたということは、これだけ人材が溢れていそうな東京本社に適任者がいなかったということなのか?

 

いずれにしても、わざわざ北海道から呼び寄せられるくらいだから、その優秀さはこちらの想像を絶しているのかもしれなかった。

 

このように、このN部長は頭も切れるしスキルは非常に高いのは間違いなかったが、その一方で案外とズボラなところがあった。

 

もっとも、自分が入ってきたことで

 

(これは、マネージメントを任せられる)

 

という安心感が芽生えたのかもしれない。

 

元々、技術者によくありがちだが、このN部長もマネージメントはあまり好きではないようで、Config修正など技術的な細かい内容の仕事をしている時の方が、生き生きとして見えた。

 

それで当初から

 

「技術的な細かい内容のところは私がやりますので、管理系はにゃべさんにおまかせしたい」

 

と宣言していた。

 

ところで、この現場に入って驚いた、と言うよりガッカリしたのは、メンバーのスキルが軒並み低いことだった。面接時からN部長からはそれらしいことは聞いていたが、あちこちのパートナー会社からかき集めた技術者は、どれもスキルが低く

「どうにか頭数だけ揃えたのか?」

というレベルだった。

 

もっと正確に言うなら、10人ほどいるうち3人ほどは使えなさそうなレベルである。しかも冒頭に記したように、このプロジェクトが「D社のスマホ向け新基盤構築対応」として「最新機能満載の技術」を採用するのが至上命題だから、普通のネットワークエンジニア以上のハイスキルが求められるのだが、そのレベルの要員は皆無に見えた。

 

N社に提出するドキュメントは、メンバーの中でマシな方の数人で作成していたが、元からバリバリのエンジニアであるN社のマネージャーとサブリーダーからは、当然ながら毎回ボロカスに扱き下ろされていた。

 

N社の設定する厳しい納期に間に合わず、なんとか間に合わせるためにスキルの高くないメンバーが自転車操業をやっている状態だ。それでも、最終的にどうにかなっているのは、実はN部長が裏でフォローしていたらしい。

 

面接時に

 

「どうしても手が足りない時は、実作業もお願いするかもしれません」

 

と言っていた通り、とてもではないが手が足りない状態で混乱していた。もっとも、これに関しては前の現場で身に染みて懲りていたので、面接時に

 

「じゃあ、この場でお断りします」

 

というと、すかさず

 

「わかりました。じゃあ、私がやります」

 

と返したN部長だった。

 

前の現場同様、入ったら実作業ばかりをやらされるようなら即刻退場する肚は決めていたが、それを見越していたか幸いにもN部長は、この約束はしっかりと死守した。

 

それで、まったく使えないメンバーでも自分が面接して入れた責任からか、出来そこないの設計書やconfigは部長自らがこっそり手を入れていた。それは「フォロー」と言うレベルを超越して、殆ど「一から作り直さないと使えない」レベルのものばかりだったらしい。

 

もっとも、N部長も根っからの技術屋だけに「困った連中だ」などと慨嘆しながらも、ドキュメントを創るのは好きなようで、リーダーの身でありながら夜遅くまで細かい作業に没頭していることが多かった。N社のマネージャーとサブリーダーも、メンバーのスキルが低いのはとうにわかっているから、実際にはほとんどをN氏が作っているのは知っていたし、密かにそこに期待している節もあった。サブリーダーのK女史もN氏と同様、根っからのエンジニアだけに、技術面では裏でかなりN氏のフォローに回っていた。

 

そのような状況であるうえ、元々が根っからのエンジニアであるN氏は、マネージメントは好きではないらしく

 

「技術的な細かい内容のところは私がやりますので、管理系はにゃべさんにお任せする」

 

と宣言したのは先にも記したとおりだが、それでもリーダーたる本人はれっきとした「大手C社の部長」であり、対するこちらは「パートナーの雇われサブリーダー」風情だから、自分の想定では裏方に徹してマネージメントを行い、フロントには当然N氏が立つものと理解していた。

 

ところが、これがとんだ見込み違いであることに気付かされたのは、参画後わずか1週間が経つか経たないかという時だ。

2013/03/15

体制(プロジェクトD)(3)

一体、関係者が何人存在しているかさえ誰も把握できていないような、これだけの大所帯のプロジェクトのチーム構成はどうなっているのか。体制図を見るとチームだけでも自分の所属するLBチームを始め、サーバ、ネットワーク、セキュリティ、アプリ開発、パッケージ、ツール開発、DB、運用、認証、パッケージ、ミドルウェア、品質管理、プロジェクト管理などなど、書いていくだけでもキリがないくらいに多岐に渡り、ざっと20チームくらいはあったか。さらに先にも触れたように、ネットワークやサーバ、アプリ開発などは2~3チームに細分化され、それぞれが10名程度でチーム構成されていたから、これだけでもざっと200300人。さらに、アンダーには下請けで実作業を行うチームが存在していることも加味すれば、どうやっても実態を把握するのは不可能なレベルと言えた。

 

ワタクシの所属は「E基盤」のLBチームだが、これ自体はメンバーが10人程度。リーダーは、あの面接で顔合わせしたC社部長のN氏、サブリーダーがワタクシで、配下のメンバーが10人程度。これはDプロジェクトの体制だが、先にも触れたように維持管理のLBチームというのが別にあり、こちらは50名程度の大所帯を構えていた。

 

この50人から成るLBチームのリーダーは、大手N社の課長T氏、サブリーダーは同じN社主任のK女史、その配下のメンバーは主に通信系の大手工事業者であるE社で構成されていた。

 

このプロジェクト全体と言うべき「E基盤」のリーダーは、N社子会社のNC社のシニアマネージャー、その下のサブリーダーなどプロ管は同じNC社のメンツで固められ、その配下に各チームがぶら下がっている形だ。

 

「E基盤」のLBチームはNC社との契約らしかったが、維持管理で直接的にはプロジェクトは関係ないとはいえ、NC社の親会社の天下のN社のマネージャーたるT氏配下になんとなく入るような格好になっていた。

 

ちなみに「E基盤」リーダーのN氏は、LBチームサブリーダーのK女史と相性が良いらしく、面接の時から

 

「N社の女性が窓口になってくれますので、困ったりわからないことがあれば彼女に聞けばよい」

 

と言っていたから、初対面まではてっきり優しい女性だと思い込んでいた。

 

このC社のチームリーダーだが、当初はC社の課長補佐T氏であったが、なんらか問題を起こしたとかで、上位会社からNGを突きつけられてしまった。上位会社と言っても元請けのN社ではなく、さらにその下にN社系列のNC社という会社が挟まっているのがなんともややこしいが、先にも触れたように元請けの大企業N社はトップの2人しかいないから、実質的には大所帯を構えていた系列のNC社の連中が幅を利かせて、E基盤に関してはNC社の幹部連中が親会社のN社の威光を背に肩で風を切るような威風だった。

 

で、その当初にC社が送り込んだT氏は、そのNC社のリーダー(つまりD基盤LBチームの親玉)のお眼鏡に適わずNGを突き付けられたという次第で、T氏の後任としてC社リーダーに指名されたのが、ワタクシを面接したあのN氏だった。

 

C社はN社の系列ではないが、元来が老舗の通信関連業者として知られた上場企業でもあり、過去にN社などキャリア関係の仕事を多くこなしていた関係もあって、このプロジェクトでもLBチーム以外にもネットワークやサーバなど様々なチームに人を入れており、総勢数十名の大所帯を形成していたらしい。その中で最も地位が高い部長のN氏だけに、特定のチームではなくN社関係者で固められた「プロ管」と称される管理グループに所属し、C社の親玉として君臨していた。

 

ところが前任T氏の失態により、そのN氏がN社の意向でLBチームのリーダーに任命されたわけだ。が、先にも触れたように、大所帯を抱えるC社として、管理者としてトップに立つN部長が特定チームにべったり張り付いているわけにもいかない。とはいっても、C社から出向している社員はチーム内には1人しかおらず、しかもまだ20代半ばの若手だ。そこそこ優秀であることは確かだが、なにせマネージメントの経験がないだけに、これを10人のリーダーとするには無理があった。そのような事情から、今回ワタクシに白羽の矢が立ったわけだ。

2013/03/08

Dプロジェクトとは?(プロジェクトD)(2)

Dプロジェクトとは?

このプロジェクトのユーザーは、携帯最大手の某社だ。

参画時期は、ちょうどスマートフォンのニーズが爆発的に増え始めたころで、それへの対応がこのプロジェクトである。

 

このキャリアでは、いわゆる「ガラケー」と言われるスマホが登場する前の時代から、

複数の大きなプラットフォームを所有し、それぞれ約800万のユーザーが収容可能だったが、これまでのIP接続サービスや第3世代移動通信システム(3G)に加え、新たにスマートフォン、Long Term EvolutionLTE、ロング・ターム・エボリューション)といった新サービスの提供に伴い、爆発的に需要が増加した。これにより、これまでのプラットフォームでは、とても急増したユーザーを捌けなくなりそうだということから、現状使っているプラットフォームの増強を含め、新技術を搭載したプラットフォームを構築する必要に迫られていた。

 

計画では、現状ではひとつのプラットフォーム(以降は「基盤」と記載)あたり約800万収容できるところを、より最新の高機能を備えた新しい機器に入れ替えることにより、ひとつの基盤で現行の倍となる1600万ユーザーを収容する。仮に現時点で3つの基盤があるとした場合、「800万×4」で3200万ユーザーまで収容可能だったものが、倍になれば「6400万」である(この数字は必ずしも実態を表したものではなく、あくまでフィクションである)

 

最大手のキャリアとしては、現行の「3200万」でも余裕があるというわけではなく、ましてや今後のスマホ普及による過去に例のない爆発的なニーズを視野に入れれば、「6400万」でもまだ心もとないのは素人目にも明らかで、当然ながらさらに先を見据えた計画を練っているところだった。

 

増強の計画として、まず既存の4つの基盤(A号~D号)に続く、5つ目の基盤となる「E号」の構築から始まる。とはいえ、この新基盤は、既存の基盤の倍のユーザーを収容できるものでなければならないから、現行踏襲ではなく様々な新機能を駆使したものでなければならない。まず、この1600万ユーザーが収容できる「E号」が構築出来次第、これを参考に既存の4つの基盤を「E号」と同じ最新技術満載の基盤に作り替えていく、というのが青写真だった。この時点の計画では、既存の4基盤の改修と並行し、さらに新機軸満載の「F号」を開発するところまでの青写真が描かれており、その完成は数年後だがここまで行けば「1億ユーザー」の収容まで視野に入るという、まことに気宇壮大というべきだが、しかしながら最大手キャリアの責務としては必須の計画である。


Dプロジェクトの規模

ここまでの話からだけでも大方の予測はつくだろうが、当然ながらプロジェクトの規模としては「超」の字が付きそうな大規模レベルである。

 

通常、プロジェクトの規模感を表す場合、一般的に「関係者の人数」や「予算総額」などで表現される。

 

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)による定義によれば、プロジェクト関係者の人数に対するプロジェクトの規模は、以下のように定義されている。

 

ü  小規模:30 名未満のプロジェクト

ü  中規模:30 名以上〜100 名未満のプロジェクト

ü  大規模:100 名以上のプロジェクト

ü   

このプロジェクトを当てはめてみると、まず「プロジェクト関係者の人数」は何人いるのか、まったくわからない。例えば、ワタクシが所属することになった「E号のLBチーム」というだけでも10名以上いて、その上に元請けである大手電機メーカーN社のLBチームがあり、ここだけでも実に50名ほどの所帯を構えていた。ただし、こちらの方はプロジェクト関係と言うよりは維持管理の方にカウントすべきだろうが、それにしても「LBチームだけで50名」というのは、なかなかお目にかかれない規模感であることに違いはない。

 

ちなみに「LB」というのはロードバランサ(負荷分散装置)とことで、通常のプロジェクトであれば大抵はNWチームの範疇に入るものだが、わざわざ「LBチーム」という単独のチームを構えていること自体、あまりお目にかかれない体制と言えた。もちろん、このプロジェクトが「スマホ」という、一般の不特定多数にサービスを提供している性格上、たとえ瞬断であっても通信断が発生することが許されない事情から、負荷分散の重要性が通常プロジェクトとは比較にならないくらいに高い事情を抱えてのことだが。

 

とはいえ、いわばNWとしては「傍流組」のLBチームだけでもこの大所帯なのだから、いわゆる「主流どころ」とされるネットワークやサーバ、アプリチームなどは、それぞれの機能やレイヤ単位でチームが細分化され、各チームに30人くらいはいそうだっただけに、ここまでですでに「大規模:100 名以上のプロジェクト」の定義はあっさりクリアしていた。

 

参画後、すぐに確認した「プロジェクト体制図」は、関係者の数が多過ぎるため、各チームのリーダーとサブリーダーのみ記載したものだったが、それでもチーム数が数十あることから、このマネージメントのメンバーの体制図だけでも100人近い名前が載っていた(ちなみに、ワタクシはLBチームのサブリーダーとなっていた)

 

関係者の人数とともに、プロジェクトの規模を表す要素として「予算」がある。こちらの方は、先のIPAガイドラインに示した人数のような規模感を図る指標値はなさそうだが、これまで数多くのプロジェクトに参画してきたワタクシの経験値から言えば、以下のような感じになるのではないか。

 

ü  小規模:百万以下

ü  中規模:千万以下

ü  大規模:億~数十億

ü  超大規模:百億以上

 

もっとも、ワタクシの場合は何故か過去にいくつもの「超大規模プロジェクト」に携わってきた。予算総額など書くわけにはいかないが、例をあげれば公的なものでは「某国営物流業の民営化」、「ハローワークのポータル移行」、「東証システム移行」、民間でも「世界のT社のポータル提供」など、いずれも数百億よりさらにひとケタ、あるいはそれ以上という「ウルトラ級」のプロジェクト言えたが、このDプロジェクトこそは人数、予算規模ともに、これらのビッグプロジェクトにもまったく引けを取らないレベルと言えた。

2013/03/02

根気治療(10)

「T歯科」での治療が再開した。ン年前、まだ地元の愛知に住んでいた時に被せた奥歯については、3年前の虫歯治療後に奨められていたものである。

 

「ン十年」間の間に、どのような状態になっているかわからないので、一度被せたものを取って中を確認してみた方がいい。もしゴミが溜まっているようなら、掃除もしないといけないだろう」

 

と言っていたが

 

「ただし痛みとか問題がないのであれば、特に今すぐにやらなくてもいいでしょうが・・・」

 

と言っていたのを免罪符として、そのまま放置していたのである。その放置が、何の因果か他の痛みの治療をしたタイミングで、痛みとなって表れたのだ。ここに至って問答無用で根治するしかなくなったが、ン十年間被せてあった金属を取り除いたところで「H歯科」のバカ高い治療費には見切りをつけた。

 

したがって「T歯科」に来た時は、ン十年被せたままだったものが外れた状態で、特に真ん中はブリッジを取り除いた穴が開いていただけに、何かと不自由だった。

 

(ともかく、早く穴を埋めてくれ・・・)

 

という願いも虚しく、またしても何度目かの「歯医者地獄」が始まろうとは・・・素人考えでは、すでに被せ物は取れた状態なのだから、さっさと歯を入れてくれというところだが、残った歯に

 

「ゴミが溜まっているので、まずはそれを取り除く必要がある」

 

ということらしい。これがまた気の遠くなるような手作業で、これだけで3回も通う羽目になり、その後も削ったり型を取ったりで、結局2ヶ月以上掛かってようやく穴が埋まった。

 

ともあれ「これで総ての治療が完了しました」とのご託宣であった。

 

「これで総ての治療が完了しました」とは言われたものの、本当に「完治」したのだろうか?

 

思えば、最初の「C歯科」で治した上の歯の痛みは、不思議と徐々に薄れてきていた。 とはいえ、その後「T歯科」で治療した奥歯は、ン年前の被せ物を外して新しい金属で被せ変えたものの、うがいなどをした時に水が滲みるのである。

 

だから「これで総ての治療が完了しました」と言われ、なおかつ

 

「他に何か気になるところとかは、ありませんか?」

 

と聞かれた時も

 

「ブリッジに当たるところの歯茎が滲みる感じがする・・・」

 

と、伝えた。

 

「そこは歯がないところですから、実際は他の上の歯じゃないかと思いますが・・・」

 

が、どう考えても滲みるのは「歯のないところの歯茎」なのだ。

 

と言うことを伝えると

 

「そうですね・・・歯はなくても歯茎にも神経がありますから、知覚過敏になっているのかもしれませんね・・・」

 

ということだったが、既にン年前に治療した金属を取って新しいものに代えたばかりであり、それをわざわざ外してまでどうこうというほどではない。滲みるといっても、それほど深刻な症状ではないのである。

 

「では、しばらく様子を見て問題があるようなら、また相談させていただきます・・・」

 

ということで、ともかく「T歯科」の治療は完了した。

 

ところが、この「T歯科」を出てから、以前にCCDカメラで口内撮影まで行った「H歯科」で「虫歯」と言われた上の前歯2本のことを思い出したのが、なんともタイミング的に悪かった。ずっと気にはなっていたのだが、この時は現実に滲みる歯のことばかりに気を取られて、すっかり忘れていたのだ。

 

とはいうものの「これで総ての治療が完了しました」と言われて歯科を出てから、すごすごと引き返して聞くのも間抜けな話である。

 

そもそも治療完了後、歯石まで取ったのだから、黒くなっているところには気付かないはずはなく「あの時に、何も言わなかったのはなぜだ?」との疑問が、時間の経過とともに膨張するにおよび

 

(本当に完治したのか?)

 

という不安が、頭の中で膨らんできていた (-_-) ウーム

 

(やはり、しっかりしたところでもう一度診てもらわなければ・・・)

 

ネットのクチコミでは評判が良く、以前からなかなか予約の取れなかった「T歯科」の予約がようやく取れた。この歯科は平日2日が休みの代わりに、土日に診察を行っているのがありがたいところで、この時も「日曜の16時半」という中途半端な時間で、どうにか予約が取れたのである。

 

ともあれ指定された時間に行くと、予約して行ったにも拘らず30分以上はたっぷりと待たされた挙句、ようやく呼ばれた。もっとも歯医者とは思えない、まるでビジネスホテルのロビーのような待合場所は、退屈しのぎにはもってこいだったが。

 

診察室も奇麗で、何台もの空気清浄機が動作しているためか実に快適な空間で、BGMはクラシックのピアノ、そして目の前のモニタには美しい風景映像が流れている。

 

「大変、お待たせいたしました・・・」

 

クチコミでは、ここの院長が「とても優しい先生」と評判が良かった。

 

こうした評判というのは、実物にお目にかかると得てして違っていたりするものだが、この先生はまったく評判どおりの「優しい先生」で、確かにこれまでお目にかかったどの医師よりも「優しい先生」だった。

 

この歯科は、前に行った「H歯科」と同じくCCDカメラを口内に入れて、総ての歯を前後左右から撮影した上での「画像診断」が特徴である。撮影した口内の画像をPCの画面に映しての説明もわかりやすく、またこちらの質問にも丁寧に答えてくれるのである。

 

説明によると

 

「噛み合わせなど問題と思われるところは何箇所かあるが、現状痛みなどがなければ特に治療の必要はないと思われる」

 

とのことで、最も気になっていた例の黒ずんでいた前歯2本については

 

「これは虫歯のように見えますが、虫歯ではありません」

 

ということだ。

 

この歯は、最初に書いたようにン年前に治療したところだったが、その当時に埋め込んだ物質の残骸とのことである。

 

「これはアマルガム合金といって、今では使われていません。なぜ使われなくなったかと言うと水銀が使われているためで、その後に登場してきた新しい金属に代わって、現在は殆ど使われません」

 

とのことだ。

 

「患者さんの場合はもう随分年月が経過していますから、もう溶けるものは総て溶けてなくなってしまっているはずですから、今残っている黒い部分はそのうちにポロリと取れてくるでしょう。その時に、新しい金属を詰めれば良いと思いますよ」という明快な回答だった。

2013/03/01

参入までの経過(プロジェクトD)(1)

新しい現場は、携帯最大手キャリアのDプロジェクトだ。前の現場に入っている9月の時点から、熱心に誘われていたプロジェクトである。

 

非常に忙しい現場で人手が足らないということで、話を聞く限りではNW系のエンジニアが必要だということだったが、こちらとしては今更実務を中心にやるつもりはないから、「マネージメント希望だから」と辞退した。

 

最初の面接相手F氏の話では

 

「元請けからは幾つかのチームが入っているが、どこも人手が足らないから、こちらでどのチームでとか指定はしない。好きなところを選んでいただけるということだった」

 

ということだったが、どっちにしてもLB(ロードバランサ)かNW(ネットワーク)という技術系のチームになることに変わりはない。

 

当初は「来月から来ていただきたい」ということだったが、こちらとしては辞退しているから、既にそのことは念頭になかった。

 

それとは関係なく、どうやったら早く抜けられるかに腐心していたSプロジェクトの現場からしつこく延長要請が来たため、仕方なく10月の1か月だけは延長することが決まっていた。

 

すっかり諦めたと思って忘れていた、あのDプロジェクトの話が復活してきたのは、3か月延長をしつこく要請してくる元請けを振り払い、いよいよ次に向けた活動に本腰を入れ始めた時だった。

 

悪いことに、この話を持ってきたのが以前から親しいT社で、このT社とは過去のプロジェクトでも何度も契約をしてよく知った間であったし、当然ながらT社長とその右腕のような存在の営業K氏ともかなり親しかった。

 

そのT社長からは、連日のようにラブコールの電話が入る。

 

「次は、まだ決まってないんでしょう?

こっちの方は元請けの部長が、是非とも来ていただきたいといってるんだから、にゃべさんさえその気になれば、もう決まったようなもんですよ。単価も、他よりは絶対にいいと思うけどなぁ」

と、熱心だった。

 

「しかし、この前の話では実務をバリバリとやるエンジニアが欲しいという話だったから、断ったからねー」

 

「いや、それも今度はにゃべさんの希望を聞いて、PMOで是非と言ってきてるから。今度は実作業ではなく、あくまでマネージメントがメインですよ」

 

ということだった。

 

とはいえ、他の案件も完全にマネージメントに特化したものはなく、技術的な要素を求められている点では、あまり変わりはない。それなら、すでに面接で希望を伝えている上、なおかつ「好きなポジションを選んでいただく」とまで言っているからには、これから面接をする未知の相手よりは認識齟齬が少ないかもと思い直し

 

「どうも、あまりにも前回の面接時の話とはかけ離れていて、俄かには信じ難いところもあるので、もう一度話を聞いて認識相違がないか双方で確認する、ということでどうでしょう?」

 

「ああ、それがいいかもですね。では、早速調整してみますよ」

 

と、余程儲けのいい話なのか二つ返事でOKすると、T社長は電光石火の早業で二度目の面接設定をしてきた。

 

こうして、元請けC社のN部長と初めて顔を合わせたのは、土曜の品川駅構内にあるCafeだった。

 

「話は聞いていると思いますが、うちからはLBNWなど、幾つかのチームで参画していますが、LBNWではどちらが良いですか?」

 

と聞かれた。

 

「Fさんを通じてどっちも設計や構築のような実作業なら、希望ではないと伝えたとおりですが・・・」

 

PMOというのとは少し違うが、LBチームの場合はサブリーダーのポジションとなるため、マネージメントが主になるということだったので、ではそちらでと言うと

 

「どうしても忙しい時は、実作業も手伝ったもらうかもしれません」

 

というので

 

「実作業は、あまりやりたくない・・・」

 

というと

 

「じゃあ、実作業は私がやりますので、PMOに専念してもらいますよ」

 

と、その場で話が決まった。