2005/10/28

呑み会

 にゃべとマサト、ホソノのトリオとA女子の面々は、キャンパス内のラウンジなどで何度も顔を合わせるうちに徐々に親しさを増していた。


 一緒に呑みに行った時は、誰もが酒が強いのに舌を巻かされることに。

 
 にゃべ自身はと言えば、当時はまだ人並みに毛が生えた程度ながら、世間知らずだったせいで


 (オレも、そこそこは行ける方だ・・・)


 と思い込んでいたものだったが、実際にマサト、ホソノとのトリオでは最も飲めないのである。

 

 初めて皆で飲みに行ったこの時は、ビール大ジョッキ3杯と日本酒一合程度で、すっかり酔っ払ってしまった。


 ホソノは4~5杯目くらいまでは覚えているが、まだまだ余裕がありそうだったが、これはまだまだ序の口で、圧巻だったのはケーコだ。


 中ジョッキを軽く2杯程度呑んだ後に、付き合いで日本酒を飲んだ後は、さらに酎ハイ、カクテルと際限がない。しかも彼女の場合、呑むだけでなく食欲に加え舌の回転も誰よりも早く、どれもが一向に衰えるところを知らない勢いだ。


 まったく、ものすごいバイタリティであった。


 「ちょっとぉ、にゃべ!
 もう酔っ払ったん~? 

だらしないな~」


 などと、不覚にもバカにされてしまった (д)

 
 もっともケーコの場合は、これまでの付き合いからも、これはある程度は予測出来たが、もっと驚いたのはマサトの方だ。


 おの大きくない痩身の、どこにあれだけのアルコールを蓄える場所があるのかと思うほどに、果てしなく呑み続けていたのには意外というしかなかった。


 記憶にある限りでも、大ジョッキで3-4杯は呑み、さらに日本酒を2本に酎ハイ数杯までは間違いなく呑んでいたが、その後にまたビールと日本酒を飲み直していたらしい。


 A女子が揃って


 「マサトは強い!」


 と、呆れていたくらいである。

 

さすがの女傑ケーコも

 

 「ホンマ、マサトには敵わんわ。これまで何十人もと呑みに行ったんやけど、間違いなく彼が横綱やて・・・」


 心底呆れていたくらいだ。


 「それに引き換え、アンタはだらせんなー、オトコの癖して」


 まだまだ呑みなれていない修行前で、あの程度の酒で酔い潰れていたのは、確かに我ながら情けなかった。

 

しかも面白かったのは、普段は比較的温厚なあのマサトが、酔うと少しばかり人格が変わるのが、判明した事である。


 あの大魔神ケーコと、舌戦を繰り広げていたのは知っていたが


 「ちょっとぉ、この子・・・酒乱のケがあるんやないー?」


 とやられると


 「いつもから、酔っ払ってるようなテンションのヤツに、言わはったくねーよ」


 とやり返していたのは、実に痛快極まりなかった。

この時は大恥を掻いたにゃべだったが、元々オヤジ譲りの酒飲みの素養があったのか、その後は場数を重ねるにつれ、次第にキャパシティが上がって来たのには、自分でも驚いた。

 

その後は、酔い潰れるまでになった事も数えるほどで、いずれもマサトか、彼と双璧をなす横綱クラスの酒豪・美和と呑みに行った時くらいなものか。

2005/10/27

オッフェンバック『地獄のオルフェ』(Orpheé aux Enfers)

 


『地獄のオルフェ』(Orpheé aux Enfers)は、18581020日にブッフ・パリジャン座で初演された、ジャック・オッフェンバック作曲による全二幕四場のオペレッタ(またはオペラ・ブッフ)である。

 

初演から18596月まで連続228回公演を記録した大ヒット作にして、オッフェンバックの代表作である。日本では、1914年に帝劇で初演されて以来『天国と地獄』の名で知られる。特に劇中登場する『地獄のギャロップ』は、運動会のBGMやカステラの文明堂のCMにも使用され、クラシック音楽の中でも非常に有名な曲の一つである。

 

なお、このギャロップを後半に含む有名な序曲は、ウィーン初演のためにカール・ビンダーが編んだものである。現在はドイツ語演奏でもこの序曲を含まないものなど、様々なバージョンが混在している。

 

他のオッフェンバック作品の例にもれずドイツ語上演が非常に多く、1970年代には東西ドイツそれぞれで競作のように映画化されている。

出典Wikipedia

 

地獄のオルフェ」は、真面目な夫婦愛のギリシア神話「オルフェウスとエウリディケ」を完全にドタバタ、オチャラケにしたパロディ作品で、日本には明治or大正時代に初演され古くから根深い人気があります。序曲の最後の部分がギャロップ(非常に速い2拍子の舞曲、または馬の駆け足の意)で、フレンチカンカン(踊り)のBGMとして使われたことからこの部分が特に有名になり、単独して演奏されるようになりました。

 

俗に、この曲を「カンカン」、「カンカンポルカ」等とも呼んでいます。また、この序曲は複数存在するようですが、現在親しまれているのは1860年にカール・ビンダーが編曲したものです。

2005/10/26

オッフェンバック オペラ『ホフマン物語』(2)

 


出典http://opera-synopsis.sakura.ne.jp/index.html

 

オッフェンバックはオペレッタ(オペラより少し軽く、より親しみやすい「喜歌劇」)の開祖です。書き上げたオペレッタはなんと111作品。オペレッタという分野は「流行」に敏感で、作品は当たったり外れたりします。そうこうしているうちに、これだけの数を量産してしまいました。

 

そんなオッフェンバックも晩年になって、オペラの傑作を後世に残したいと思います。それだけの実力を自分は持っているんだ、と意気込んで作曲に臨んだのがこの『ホフマン物語』でした。ところが、オペラを完成させないうちにオッフェンバックは、痛風によって健康を害し亡くなってしまいました。

 

オーケストレーションやレチタティーヴォの部分は、友人の作曲家エルネスト・ギローが補筆させて完成させました。しかし、上演を行った劇場が2度も火災に見舞われたりと楽譜が散逸してしまい、未だ決定稿が確定しないままになっています。

 

研究家の間でも「決定稿は存在しない」という点では一致しているそうです。色々なバージョンが存在し、公演ごとに考えられた『ホフマン物語』が上演されます。オッフェンバックの夢は、私たちの前に変幻自在に現れるのです。

 

オペラの作曲が未完であるだけでなく、作品そのものも不思議な世界観で構築されています。まったく異なった3つのオムニバス・ドラマ。1つのオペラで、3つ分のオペラを楽しむことができ、そのどれもが不思議な恋の物語です。

 

もちろん音楽についても、有名な間奏曲「ホフマンの舟歌」や、ホフマンの歌う「クラインザックの歌」があり、そして機械人形そのもののようなオランピアのアリアは、コロラトゥーラ・ソプラノの最大の見せ場となっています。

2005/10/25

オッフェンバック オペラ『ホフマン物語』(1)

 


ジャック・オッフェンバックは、1819年にケルンに生まれる。1833年、チェロの勉強をしにフランスのパリへ。演奏の傍ら作曲活動を続け、1850年にテアトル・フランセの指揮者になる。後の1855年には、自らブフ・パリジャンという劇場を作成。幾つものオペレッタを上演、人気を博す。1880年に没するまで、幾度もの演奏が行われた。

 

爆発的な人気と反比例するかのように、痛烈な風刺、退廃的な快楽主義は知識人からの批判も多かった。エミール・ゾラは

 

「オペレッタとは、邪悪な獣のように駆逐されるべき存在」

 

とまで書いているが、今日では第三帝政期フランスを代表する文化のひとつとして、歴史的評価も作品的評価も高い。

 

晩年フランスでは一時の人気を失い、オペラ「ホフマン物語」に新生を賭けていた。死後には、各作品は彼自身が監修したウィーン版に源を発するドイツ語上演がフランスに代わって主流を占める(有名なオペレッタ「天国と地獄」序曲は、ウィーン版のためのオリジナルである)

 

特に戦後は東ベルリンでのフェルゼンシュタイン演出による「青ひげ」や「ホフマン物語」が歴史的な成功を収めた。近年は、ミンコフスキらによるオーセンティックなフランス語上演も急速に盛り返し、もともと上演の盛んだったドイツ圏と併せ活況を呈している。

 

『ホフマン物語』(Les Contes d'Hoffmann)は、フランスの作曲家ジャック・オッフェンバックの4幕のオペラ(オリジナルは57場)

 

ドイツ・ロマン派の詩人E.T.A.ホフマンの小説から3つの物語を用いて脚色したジュール・バルビエとミシェル・カレの同名の戯曲に基づいて、ジュール・バルビエ(Jules Barbier)が台本を書いた。

 

1881210日、パリのオペラ=コミック座で初演。主人公ホフマンが、歌う人形のオランピア、瀕死の歌姫アントーニア、ヴェネツィアの娼婦ジュリエッタと次々に恋に落ちるが何れも破綻するという内容。未完のまま作曲家が死去したこともあって数多くの版があり、謎の多い作品とされている。

 

通常第4幕で演奏されることが多く、ジュリエッタとの恋の場面で歌われる「ホフマンの舟歌」が有名。

2005/10/24

甲子園劇場へ(TMシリーズpart2)

 日本シリーズが思わぬ展開のまま、二試合を終えた。

千葉でロッテが二連勝」というここまでの結果自体は、シリーズ前からある程度予測していたワタクシにとってはそんなに驚きではないが

第一戦 千葉ロッテ 10-1 阪神
第二戦 千葉ロッテ 10-0 阪神

と、これほど酷い一方的な展開になるとは誰が予測しえただろうか?

ロッテの選手が投打に渡って充実している事は確かとはいえ、阪神の方が投打ともにあまりに酷い出来なのは、やはり約半月ものブランクを感じずにはいられない。ここまでの二試合を見る限りは、勢いに乗ったロッテの前になすすべのないかのように見える阪神であり、まるでシーズン中の阪神に対するGのブザマな戦いをそっくりなぞっているようで、なんとも不思議な気分である。

大の阪神嫌いなワタクシにとっては「ザマアミロ」と快哉を叫びたくなるような展開だが、その実プロ野球最高の舞台でありかつ一年締めくくりの決戦として、やはり好勝負を期待していたのである。

ここまでを見る限りは「プレーオフ」なる出来損ない制度の、それも片方だけという中途半端な導入によって、あまりにも両チームで条件が違い過ぎてしまい不公平感がどうにも拭いきれない。阪神にとっての一縷の光明は、言うまでもなく次からの三試合は甲子園でゲームが出来る事であり、この二試合の惨敗を通してゲーム勘が戻っていれば、流れがガラリと変わる事も予測出来る。

ここまで二試合合わせて「20-1」というスコアも、初戦一回表の「赤星出塁⇒鳥谷の早打ちで赤星の盗塁帳消し⇒金本併殺」がその後の流れを決定づけたように、ほんの些細なプレーで流れは変るものなのである。ましてや実力的には、ロッテに比べても遜色はないはずの今年の阪神なのだ。

と言うよりは、ここで流れを返られなければズルズルと四連敗でおしまいであり、阪神にとって日本一へ繋がる道は何が何でも甲子園で三連勝するしかなくなった、と言っても過言ではないだろう。千葉マリンというあの独特のクセのある球場で、阪神が二連勝するのはよほどの幸運がなければかなりの至難である事を考えれば、甲子園で一つでも落とした途端に俄然苦しくなるだろう。

頼みのJKFが誰一人として千葉マリンのマウンドを経験できなかったのも、阪神にとってはこの先の大きな不安材料である。逆に千葉ロッテの方は、この連勝によって仮に甲子園で三連敗したとしても、再びマリン球場に戻って二連勝する事はそれほど難しくはないと思える。さらに甲子園で一つでも勝つ事が出来れば、千葉マリンで二試合のうち一つを取ればいいのだから俄然優位に立った事は間違いない。

千葉ロッテにとって唯一怖いのは、甲子園で阪神を勢い付かせて折角ここまでのいい流れが変わってしまう事だ。それでなくとも甲子園での試合だけは、何が起こるかいつの時もやってみなければ予測が付けにくく、余裕を持って臨める千葉ロッテの選手とはいえあの独特の雰囲気には、やはり想像を絶するようなプレッシャーを感じるはずである。

2005/10/23

千春の寮を襲う(3)

実は、今日がダメだった場合は

 

「今度は飲みに行こう」とか「次はゆっくりできるんだよな?」という約束を取り付けるつもりだったが、これだけ忙しそうな様子を見て、ついそれも言いそびれていると

 

「今度来るときは、事前に連絡くらい欲しいわ。これでもレッスンとか入ってて、なかなか時間が自由にならんから、事前に調整がいるんだよ」

 

「ほー、なるほど。わかったよ。」

 

「今日みたいに、いきなり寮の近くまで乗り付けて、周りうろついてたりしたらマジで通報されるよ。私が恥かくし、止めといてね」

 

「マジでか?

通報って、誰がするんだ?」

 

「そりゃ、学生とか。寮母とか。ウチの寮母は超煩い人だから。過去にも似たようなことで通報された男が何人もいるし。これ、覚えといて」

 

「ひえ~。そりゃ、かなわんな・・・」

 

ここで例のメガネ女子のことを思い出した。

 

「そーいや、なんか門のとこで出たり入ったり変な女がいたが・・・あれは見張ってたとか?」

 

「マジ?

それって、メガネかけたおばさんじゃなかった?」

 

「いや、眼鏡はメガネだが、どうみても学生だろう。チラ見だから、メガネの小柄な子程度の印象しかないが・・・どう見ても絶対おばさんじゃねーな」

 

「ふーん。もしかしてミユウかなぁ・・・?」

 

と独り言をいうと

 

「ねえ。今、私立て込んでるんだ。ちょっと先でもいいなら、都合付けてこっちから連絡するから。そん時は、神戸とかも少しは案内してやるわ」

 

「ほんとか。まあ、こっちは年中暇だから、いつでも呼んでくれよ」

 

というと、千春は以前のように手を叩いて爆笑した。

 

「しかし相変わらずだねー、アンタって!

天下のX大行っても、まだ勉強しないんだねー。それでも留年の心配がないって、ある意味羨ましいよ。」

 

「皮肉かい、それ?」

 

「全然。だって嫌いな勉強をしなくてもいいんだったら、好きなことに打ち込めるし。普通ないでしょ、それ。あんな日本中から頭いい人ばっかり集まってるとこでね・・・」

 

「その話は置いといて、夏休みに帰省とはかするんか?」

 

「そう、それよ、問題は!」

 

と、千春はテーブルを叩いた。

 

「やっぱ、夏休みくらいは帰省せんとだよね?

さっきも言ったようにレッスンとか立て込んでるし、正直すっげー面倒なんだけど、親が帰れ帰れって煩くてね。

にゃべは?」

 

「うちは別に何も言ってこんな。これまでも金がなくなった時に電話するくらいだったから・・・」

 

「そうそう。私も結構、お金送ってもらってるから、夏休みくらいは帰らんわけにいかんしねー。まあ、でも(A高の)同級生で会いたい子もたくさんいるから、帰ろうとは思ってるけどね。でも夏休みの課題とか多いんだよね、うちは」

 

どうやら「天下のX大」とはいえ「暇な文学部」とは全く異なり、名門の音楽学部ともなると大変らしいことが、この時の千春の話でようやくわかって来た。(あるいは彼女が特に期待され、教授などから嘱望されていたためだったせいかもしれぬ。こういうことに関してなぜか自慢めいたことは言わない女だけに、真相はわからなかったが)

 

「にゃべも、夏休みの課題とかあるんでしょ?

なんせ天下のX大様だし・・・?」

 

「オマエな~!

さっきから、異常に『X大』というのを強調しすぎじゃねーか?

どうも、ひっかかるんだが・・・」

 

「別に・・・強調する気はさらさらないけど、フツーに考えてX大ちゅーたらメチャ大変だろーなって思うでしょ、世間的には」

 

「へー、そーなん?

オレは中におるからまったくわからんけどな。まあ、自由な校風だし、夏休みだからと言って別に課題的なものはなかったと思うが・・・だって、そもそも『夏休み』ってのは「遊ぶための休み」なんだよな?」

2005/10/21

千春の寮を襲う(2)

(な~んだ・・・)

 

そのメガネの女子は、いったんこっちへ向かってきそうな格好だったが、予想外にもUターンしてマンションへ戻ってしまった。

 

(確かK女子大の寮ということだったから、タカシマの同級生か?

次出てきたら、ちょっと声かけてみるか・・・)

 

と考えてしばらくすると、予感した通り歩いて門を出て来たメガネ女子。いかにも「女子しかいない安全な寮で寛いでいました」と言わんばかりの、タンクトップに短パンという実に涼し気なイデタチだ。

 

次に出てきたら、とっ捕まえて千春のことを聞こうか思っていたが、警戒したかどうもこちらに来る気配がない。

 

何本目かの煙草を灰にして、寮の方に様子見にと足を踏み出したタイミングで着信だ。

 

「私だけど、なんか用?」

 

「おっ、タカシマか?

今どこにいる?」

 

「え?

なにそれ?

どこにいるって・・・どういう意味よ」

 

「なあ、今から出てこれんか?」

 

「出てこれんかって・・・アンタ、今どこにおるの?」

 

「今、寮の前」

 

「え~っ!

寮の前って、もしかしてウチの寮のこと?」

 

「もしかせんでも、そういうことよ。今、外出中か?」

 

「え~っ、ちょい待って!

それ、どーゆーことよ?

なんでアンタが、ここに来てるのよ?」

 

「いや、そんなオーバーに驚かんでも、ちょっと遊びに来ただけだが・・・今、外出中?」

 

「驚くわ、フツーに。

実は部屋にいるけど、さっきまでピアノのお稽古してたから、ケータイの着信に気づかんかった。今、気付いたとこよ。」

 

「そんなら、ちょうどえーわ。

なあ、今から出てこれんかな?」

 

「今からって・・・いきなり過ぎでしょ!」

 

「まあ、いいじゃん。折角こうやって、わざわざ京都から来たんだし・・・」

 

「知らんよ、そんなん・・・勝手に来といて、折角もないでしょ?」

 

「そう冷たいこと言うなって。ほら、夏休みに遊びに行くって約束したじゃん。あれ思い出したんだ・・・」

 

「にしても、事前に連絡くらいして欲しいよ。こっちにも予定があるんだし・・・」

 

「とりあえず昼飯でも食いに行かねーか?」

 

「ったく、しゃーねーな。人の都合は、お構いなしなのね?

今日は、コーヒーだけしか付き合えないよ」

 

「おいおい、遥々京都から来たオレに、コーヒーだけってのはねーだろ」

 

「自分で勝手に来といて、よーゆーわ。まあ、相変わらずだねぇ、アンタは・・・」

 

それでも、ようやくちょっと笑うような声が聞こえてきた。

 

「すぐ近くに車停めてんだ。すぐ来て欲しいな」

 

「無理!

30分待っとって!」

 

「おいおい、30分もかかるのかよ?」

 

「アンタね~。女は支度に時間がかかるもんよ。いきなり来るから、こーなるんだよ。ちゃんと覚えときな!」

 

「ちっ、しゃーねーな。しかし、こんなとこに車置いといてえーんかな?

なんもないから、周囲から違法が丸見えだぞ」

 

「それ、やばいっしょ。この辺、大学関係者しかいないから、そもそも男のアンタがうろついてたりするだけで、誰かに通報されるかもよ」

 

「おいおい、マジかい。とはいっても、周りにはなんもねーぞ。なんかCaféでもあるのか?」

 

「ちょっと駅の方に入ったらCaféとかあるから、こっから一番近い店に入ってっとって。 入ったら電話頂戴。」

 

「了解。なるはやで頼むわ」

 

「しゃーないな・・・30分以内に行くよ・・・なるべく近い店ね」

 

ということで、30分後にようやく千春に再開となった。

 

思った通り、先日の喧嘩別れのことはサッパリ忘れたような顔をしているから、こちらも敢えて触れずにおく。

 

「今日は夕方から用があるから、ランチした後まではアンタの相手はできんけど・・・」

 

「へー、忙しいんだな・・・」

 

「アンタのような遊び学生とは違うんよ」

 

と皮肉をかまされた。

2005/10/19

TM日本シリーズ開幕

 23日から、日本シリーズが開幕します。パリーグは、例の「プレーオフ」なる出来そこないのヘンな制度のおかげで、昨年に続きシーズン2位のチームが日本一を争う舞台に登場して来ました。プレーオフに関する批判は、前回『プレーオフのアホ』で触れてきましたので、ここでは敢えて繰り返しません。

2年前の「虎鷹シリーズ」では、全7戦の勝敗をリアルタイムでパーフェクトに予想しながら総てを的中させるという、ノストラダムスも真っ青の離れ業を演じてみせ、多くの常連を唸らせてみせたのがこのワタクシです。あの時の予想があまりにもズバズバと的中しすぎたがために、あれ以来は予想めいた発言は慎んでいるのが実情ですが、今年のシリーズを大まかに展望していこうと思います。

2年前の「虎鷹シリーズ」の時は、開幕からの勢いでシーズンを乗り切った感じだった阪神に対し、タレント揃いのダイエーの方はどう見ても実力的には阪神より遥かに上だったため、予想そのものは簡単でした。問題は「甲子園」という、パリーグのチームにとってはこれまで経験した事のない、あの異様な雰囲気の中で、ダイエーの選手がどれだけ平常心を保って戦う事が出来るか?   という一点に尽きました。ただし実力的には、どう見ても41敗(或いは2敗)くらいでダイエーの方が圧倒的に上回っていたのだから、甲子園での3戦を総て落としたとしても、福岡での4戦を総て勝つのは決して不可能ではないと予測した、まさに絵に描いたような予想通りの結果に終わったものでした。

さて今回は、果たしてどんな展開となっていくでしょうか?
今回も「甲子園」という、パリーグのチームにとってはこれまで経験した事のない、あの異様な雰囲気の中で千葉ロッテの選手がどれだけ平常心を保って戦う事が出来るかが、シリーズの行方を左右する最大のポイントとなってくる事は、2年前とまったく同じである事は間違いないでしょう。

パリーグのチームにとっては、甲子園での試合が3試合か4試合かによってシリーズ全体の戦況が大きく変ってくると予想されますが、奇しくも2年前と同様に今回もパリーグ本拠地からシリーズが開幕するため、問題となる「甲子園での試合」は3試合となります。この点は千葉ロッテにとってはかなり救いとなる材料ですが、しかしながら2年前に比べ阪神の戦力が攻守ともに格段に充実して来ているため、千葉ロッテとしては2年前のダイエーの時のように「本拠地での4試合に総て勝つ」という芸当は相当な至難となる事でしょう。

 一方、阪神にとっては、今回の相手がソフトBであれば戦力的にはやはりまだ幾分かは劣る感は否めませんでしたが、城島・井口を欠いたソフトBと殆ど互角の勝負を繰り広げていた千葉ロッテは、確かにまとまりの良い素晴らしいチームとはいえ、第1ステージからの勢いと敵地でのアドバンテージなどの要素を考慮しても、2年前のダイエーに比べれば戦力的には些か劣ると見てよいでしょう。そこへ持ってきて、前回も触れたように阪神そのものが守護神トリオのJFKを中心として、攻守ともに2年前よりは格段に戦力が充実して来ている事を考え合わせると、両チームの地力の差は非常に拮抗していると見るのが妥当な線ではないでしょうか。

となると、最大のポイントとなってくるのはやはり甲子園での3試合であり、千葉ロッテとしてはここで一つでも勝っておけば、地元の4試合の中で3勝すればいいわけだから日本一の可能性が大きく拓けて来ますが、逆に甲子園で3連敗を喫するようであれば、いかに地元のアドバンテージがあるとはいえ地力差から見て4試合総てに勝つのは難しく、こうなれば一気に甲子園で決着というメも出て来てしまいそうです。

繰り返しになりますが、千葉ロッテにとっては初めて体験する事になる、あの360度を阪神ファンに埋め尽くされた甲子園の狂気じみた雰囲気の中で、どれだけ平常心を保って普段着の戦いが出来るかに尽きるでしょう。

ご存知の通り「魔物が棲む」と言われる甲子園におけるビジターチームの戦いといえば、1年を通じて戦っているセリーグのチームでさえ、普段では考えられないようなワケのわからない凡ミスが続出したり、各チームのエースと称されるような投手たちが、立ち上がりから信じ難い大崩れをして大量点を許しゲームをぶち壊してしまったりといったシーンを何度見せ付けられてきた事でしょうか。いわんや経験した事のない者にとっては、想像を遥かに絶するようなプレッシャーとなる事は間違いないでしょう。

2年前のダイエーに限っては、さすがに「野武士集団」だけにあの大歓声に浮き足立つようなところは殆どなく、地に足の着いた普段着の野球が出来ていたように見えましたが、こうした大きな舞台の経験が遥かに少ない千葉ロッテの選手たちは、精神的にかなり追い込まれての厳しい戦いを強いられる事になって行く事になるのでしょう。阪神に勝って欲しくないワタクシにとっては、やはりシーズン2位でシリーズに登場して来た西武がプレーオフでソフトBを破った勢いに乗り、ブランクで勘が鈍っていた中日を破って日本一に輝いた昨年を思い起こさずにはいられないものの、実のところはプレーオフで

(ソフトBへの大歓声が、相当なプレッシャーになった)

と言っていたらしい、千葉ロッテ選手たちのメンタル面が最も心配なのですが。