それから数年後、久々に歯に痛みを感じた。
これまで風邪を引いたり体が疲れている時など、一時的に水や湯が滲みるような感じはあったが、いずれも一時的なもので時間が経つと痛みはなくなっていたが、この時は一向に痛みが消えない。いよいよ我慢が出来なくなった時は、間の悪いことに祝日だった。
前回通っていた歯科は、土曜も診療していたため通いやすかったが、さすがに祝日は休診だ。最近の競争の激化で、平日は夜の9時や10時までとか土曜診療の歯科が増えてはいるが、さすがに日曜や祝日診療のところはなさそうだった。
ネットで検索して、ようやくにして祝日診療の歯科を見つけ、mixiのコミュニティのクチコミでも評判の良いのを確認して、その「C歯科」へ行くことに。例によって、最初にレントゲンを撮った結果
「虫歯ではなく、噛み合わせが原因」
との診断だ。
「右上の奥歯が下がってきて、噛み合わせが悪くなり負担がかかっている」
下がってきた歯は、ン年前の最初の治療の時に金属を被せてあるため、歯を削るわけではなく金属を削ればいいとのこと。その結果を見て、抜く抜かないの判断になるとのことだった。
ともあれ原因を取り除いた結果、痛みも滲みる感じもなくなった。翌週に、そのことを医師に告げると
「痛みがなくなったのであれば、当面はこれで問題ないんじゃないかな?
敢えて抜くこともないと思いますので暫く様子を見て、なにかまた不都合があればその時に再度ご相談しましょう」
と、あっさりと終った。
(ン? なんだ、これは?)
と、強い違和感を感じた。
いかにも呆気ない、呆気なさ過ぎるではないか!
これまで、歯医者といえば痛い歯の治療だけしてくれればいいのに、頼みもしないレントゲンを撮って
「あれもコレも悪いから、この機会に全部治してしまおう!」
というものだと思っていただけに、このアッサリ感はなんなのかと思えた。
「ということは・・・これで終わりと・・・?」
「そうですね・・・全体をざっと見たところ虫歯もないようですし・・・ただ、歯石がかなり溜まっていて、これが虫歯の原因になりやすい状態ではあるので、歯のクリーニングをするといいかもしれません。これは、まあ今すぐでなくてもいつでも良いでので、もしよければ予約をして来て下さい」
と、まったく
「どっちでもいいぞ」
と言わんばかりだ。
この違いは一体、なんなのか? と考え、ハタと思い当たったのが「開業医」と「勤務医」の違いだった。
いうまでもなく、開業医は自分の金儲けに直結する。患者が来ないことには収入にならず、患者が沢山来れば収入も増える。以前にも観てきたように、開業までには膨大な費用がかかるから、それを回収しないといけないし、開業してからも維持のための経費も大きい。だから、開業医は患者がたくさん来てくれないことには成り立たないし、1回で簡単に治療が済んでしまっては儲からない。折角来てくれた患者だから、経営的には出来るだけ細く長く吸い取る必要があるはずだ。これが単に痛む虫歯の治療だけでなく、レントゲンを撮って関係ない歯まで色々と点検をして
「あれも悪いこれも悪い、いっそついでに治してしまおう!」
という、これまでの医師の根底にあったのではないか。
そうだ、これまでに罹った歯科医は総て開業医だった。
一方、勤務医は今回が初めてだ。当たり前だが勤務医は月給取りだから、基本的に決まった時間仕事をすれば収入になる。指名などによって多少の増減はあるかもしれないが、基本的に患者の数が多かろうが少なかろうが、それが開業医のように収入に直結することはないはずだ。無論、極端に流行らない病院なら給料も減るだろうが、その場合は他の医院へ移れば良いだけである。
おまけに開業や維持の費用も掛からないから、借金返済のためにあくせくと頑張って儲ける必要もなく、自然と開業医ほどの欲がなくなるのではないか。開業医の場合は、面倒な治療をするほど高い治療費を取れるのなら敢えて頑張るだろう場面であっても、勤務医にすればなにをやっても給料は変わらないのであれば、敢えて面倒なことはしない方が楽である。抜かなくて済むなら抜かないようにするだろうし、他の治療にしてもどうせ給料が変わらないのであれば、人の心理としてミスをしたら大事になるような緊張を伴う困難な治療よりは、無難で簡単な方を選ぶはずである。
また簡単に治った患者が来なくなったとしても、新しい患者は自動的にアサインされてくるから、それを待っていればいいだけで経営的な発想は必要はなく、開業医のように「鵜の目鷹の目で重箱の隅をつつくようにして、悪いところを見つけ出す」(?)ようなマネをする必要もない。
これに対して開業医の場合は「経営的な発想」が必要だ。
「どうしたら患者が増えるか、さらには折角掴んだ」患者を他医院に取られず、繋ぎ止めておくにはどうする必要があるか」
といったことも、考える必要があるだろう。