2019/06/25

プラトン(2) ~ 「「魂」(プシュケー)論」

プラトンの思想を語る上では「イデア」と並んで「魂」(プシュケー)が欠かせない要素・観点となっている。そして、両者は密接不可分に関連している。

初期の『ソクラテスの弁明』『クリトン』『プロタゴラス』『ゴルギアス』等においても、既に「魂を善くすること」や、死後の「魂」の行き先としての冥府などについて言及されていたが、第一回シケリア旅行においてピュタゴラス派と交流を持った後の、『メノン』以降の作品では、本格的に「魂」(プシュケー)が「イデア」と並んで話の中心を占め、その性格・詳細が語られていくようになっていく。

『メノン』においては「(不死の)魂の想起」(アナムネーシス)がはじめて言及され「学ぶことは、想起すること」という命題が提示される。中期の『パイドン』においては「魂の不死」について、問答が行われる。

『国家』においては「理知、気概、欲望」から成る「魂の三分説」が説かれ、末尾では「エルの物語」が語られる。『パイドロス』においては「魂」がかつて神々と共に天球を駆け、その外側の「イデア」を観想していた物語が語られる。

後期末の『法律』第10巻では「魂」こそが運動の原因であり、諸天体は神々の「最善の魂」によって動かされていることなどが述べられる。

このように、プラトンの思想において「魂」の概念は「善」や「イデア」と対になり、その思想の根幹を支える役割を果たしている。

なお、アリストテレスも『霊魂論』において「魂」について考察しているが、こちらは感覚・思考機能を司るものとして、今日で言うところの脳科学・神経科学的な趣きが強い考察となっている。

倫理学
プラトンは師ソクラテスから「徳は知識である」という主知主義的な発想と、問答を通してそれを執拗に追求していく愛智者(哲学者)としての姿勢を学んだ。初期のプラトンは、そうした師ソクラテスが、正義・徳・善などの「単一の相」を目指して悪戦苦闘を続ける様を描いていたが、第一回シケリア旅行におけるピュタゴラス派との交流を経て中期以降の対話篇では、その目指されるべきものが「善のイデア」であるという方向性で固まっていった。

『国家』においては、国家の守護者たる「哲人王」が目指すべきものとして「善のイデア」が提示され、その説明のために「太陽の比喩」「線分の比喩」「洞窟の比喩」が示された。

後期末の『法律』においては、第10巻にて神々は人間を配慮しており、その配慮は宇宙全体の善を目指しているのだということが論証され、第12巻においては「哲人王」に代わる国制・法律保全、及びその目的である「善」達成のための機構としての「夜の会議」の構成員もまた「哲人王」と同じような教育と資質が求められることが述べられる。

こうして、プラトンは人間が「自然」(ピュシス)も「社会法習」(ノモス)も貫く「善のイデア」を目指していくべきである、とする倫理観をまとめ上げた。

そして、この倫理観は『国家』『法律』において「哲人王」「夜の会議」と関連付けて述べられていることが示しているように、プラトンの政治学・法学の基礎となっている。

アリストテレスもまた『形而上学』から『倫理学』を『倫理学』から『政治学』を導くという形で、そして「最高の共同体」たる国家の目的は「最高善」であるとして、プラトンのこうした構図をそのまま継承・踏襲している。

感性論・芸術論
プラトンは経験主義のような、人間の感覚や経験を基盤に据えた思想を否定した。感覚は不完全であるため、正しい認識に至ることができないと考えたためである。

また『国家』においては、芸術(詩歌・演劇)についても否定的な態度を表している。視覚で捉えることができる美は不完全なものであり、完全な三角形や完全な円や球そのものは常住不変のイデアである。芸術はイデアの模倣にすぎない現実の事物をさらに模倣するもの、さらには事物の模倣にすぎないものに人の関心を向けさせるものである、として芸術に低い評価を下した。

プラトンの西洋哲学に対する影響は、弟子のアリストテレスと並んで絶大である。

プラトンの影響の一例としては、ネオプラトニズムと呼ばれる古代ローマ末期、ルネサンス期の思想家たちを挙げることができる。「一者」からの万物の流出を説くネオプラトニズムの思想は、成立期のキリスト教やルネサンス期哲学、さらにロマン主義などに影響を与えた(ただし、グノーシス主義やアリストテレス哲学の影響が大きく、プラトン自身の思想とは様相が異なってしまっている)。

プラトンは『ティマイオス』の中の物語で、制作者「デミウルゴス」がイデア界に似せて現実界を造ったとした。この「デミウルゴス」の存在を「神」に置き換えることにより、1世紀のユダヤ人思想家アレクサンドリアのフィロンはユダヤ教とプラトンとを結びつけ、プラトンはギリシアのモーセであるといった。『ティマイオス』は、西ヨーロッパ中世に唯一伝わったプラトンの著作であり、プラトンの思想はネオプラトニズムの思想を経由して、中世のスコラ哲学に受け継がれる。

アトランティス伝説の由来は『ティマイオス』および『クリティアス』によっている。

カール・ポパーは、プラトンの『ポリティア』などに見られる設計主義的な社会改革理論が社会主義や国家主義の起源となったとして、プラトン思想に潜む全体主義を批判した。
出典 Wikipedia

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