2023/11/03

ゲルマン的英雄像(2)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/


 翌年、またその弟が10歳になったということでシグムンドのところに送られてきた。

しかし、やはりその子も駄目であった。こうしてシグニュは卑劣な悪人シゲイルの血が入っている子では駄目だと悟り、シグニュは懇意にしていた魔女に頼んで自分の姿と取り替えてもらった。そしてシグニュの姿に身を変えた魔女にシゲイルの相手をしてもらっている間に、魔女の姿になっているシグニュは森へと忍んでいった。この魔女は絶世の美女であったので、シグムンドはこの魔女の姿になっている妹シグニュをそれとは知らずに抱いた。

 

三日三晩二人は情を交わし、やがてシグニュは子どもを生んだ。その子は「シンフィエトリ」と名付けられた。そしてまた10年がすぎ、シンフィエトリはシグムンドのもとに送られてきた。その前にシグニュはこの子を試そうと衣を腕に一緒に縫いつけ、さらにそれをむしり取ってみたが、シンフィエトリは平然としていたので今度は大丈夫だろうと思っていたが、果たしてシグムンドの与えた試練にも動ずるところが無かった。

 

 こうして二人は復讐の機会を待ったが、その間二人は魔法の狼の毛をかぶって狼にされてしまうなどの試練があって、こうして二人は時節到来ということでシゲイルの館へと忍んでいった。しかし、ちょっとした偶然から二人は見つけられてしまい、シゲイルに捕縛され閉じこめられてしまうが、シグニュがひそかにシグムンドの剣を手渡したので、それによって二人は脱出し館に火をかけていった。

 

 あわてて飛び出してきたシゲイルに対して、シグムンドとシンフィエトリはヴエルスング一族のシグムンドとその妹シグニュの子であると名乗り、すでにシグムンドは亡き者と信じ込んでいたシゲイルは驚愕した。二人はシゲイルを討ち、ついに一族の敵をとった。そして燃えさかる館からシグニュを助け出そうとしたけれど、シグニュはここで始めてシンフィエトリの出生の秘密を語り

 

「自分は、これまで一族の敵をうつため敢えて我が子を殺し、兄シグムンドを欺いて交わって子をもうけるなど、あらゆることも堪え忍んできた。今この悲願が達せられた上は、もはや生きている価値もない、嫌な相手ではあったけれど夫と呼んだ以上、シゲイルと共に死ぬ」

と言って火の中に駆け込んでいってしまった。

 

 こうして敵をうったシグムンドとシンフィエトリは故郷に戻り、そこを略奪していた簒奪者を討ち果たして祖国を自分たちの手にとりもどした。シグムンドは、新たにボルグヒルドという女性を妻として王としてこの地に君臨し、そして数々の戦いにかり出されたがいずれも勝利を収め、天下にその勇名を轟かせた。その中でのシンフィエトリの活躍はめざましかった。

 

 ところがある時、その息子シンフィエトリが、一人の女性を巡って自分の妻ボルグヒルドの一族と争いになり、相手を殺してしまうという事件が起きてしまった。その一族はその敵ということで策を練り、宴会を催してそのさなかにシンフィエトリに無理に毒の入った酒を飲ませて殺してしまったのであった。

 

 最愛の息子を失ったシグムンドは、自分も死んでしまうほどの悲しみにうちひしがれ、一人シンフィエトリの亡骸を抱えて森の中へと入っていった。そして深い森の中の湖の傍らに出ると、そこに一艘の小さな船があって、その中に一人の見知らぬ男が座っていた。男はシグムンドに向こう岸まで渡してやろうと声をかけてきた。シグムンドはそうしようと思ったけれど、船が小さすぎたので先ずシンフィエトリの死骸を渡してもらい、ついで自分もわたろうとした。ところが船はシンフィエトリの死骸を乗せると、スーと岸を離れてやがてかき消すように消えてしまったのであった。これは実は「神オーディン」だったのであり、彼は自分の特に気に入った勇士を自分の館ヴァルハラへと導くため、普通はヴァルキューレに託するところを自分で出向いて来た姿だったのである。

 

 こうしてシグムンドも館に戻り、シンフィエトリを殺した一族の者であった妻ボルグヒルドを離縁し、新たにヒヨルディースという女性と結婚することになった。ところが、別に同時期にヒヨルディースに求婚していた王がおり、彼はシグムンドに負けた恨みを晴らそうと密かに大軍を用意し、突然急襲してきたのであった。用意の無かったシグムンドの軍は小人数であったが、シグムンドの獅子奮迅の活躍はめざましく、戦いは一進一退となっていた。そうした戦闘のさなか、相変わらず敵の軍勢を押しまくっていたシグムンドの前に突然、幅の広い帽子をかぶった片目の男が現れ、その槍でシグムンドに討ちかかってきたのであった。シグムンドがその剣でこの槍を打ち払うと、これまでどんな堅い剣や盾、鎧にも刃こぼれ一つしなかったあの名剣が、まっぷたつに折れてしまったのであった。

 

 こうしてシグムンドの軍勢は劣勢になり、なおも奮迅の活躍をし続けるシグムンドであったが、ついにその命運は尽きていったのであった。

 

 いうまでもなく、この幅広の帽子をかぶり片目の男とは「神オーディン」であり、彼は直々に自分のもっとも気に居る勇士シグムンドをヴァルハラに連れて行くべく迎えにきたのであった。

 

 他方、シグムンドは新しい妻ヒヨルディースに子だねを残しており、その子がやがて「シグルズ」と名乗る英雄へと成長していくことになります。この「シグルズ」こそ、中世のゲルマン歌謡「ニーベルンゲンの歌」の主人公となる「ジークフリード」の元の姿でした。しかし、ここでは「アインヘルヤル」をテーマとしましたので、以上までにしておきます。

 

 さて以上にみた「シグムンドとシンフィエトリ」という、この二人の親子のアインヘルヤルの物語でゲルマン人がモデルとする英雄象が浮かび上がってくると思います。それは、一言で言うと「一族に対する忠誠」が基本となっていて、一族が討たれた時の復讐が重要なポイントになっています。それに加えては「剛胆さ」「死を怖れず真っ向から敵や危機に立ち向かうこと」「そのための犠牲は何も怖れない」などが読み取れます。

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