2008/03/21

追想編(偉大なる奇人変人・ミスターpart8)

 前回まで、愉快なミスターに纏わるエピソードをご紹介してきたシリーズも、ついに最終章となる。書いてしまってから「あ、そういやあんなのもあった」とか「まだ、こんなのもあったっけ」なんていうのも、まだ幾つも脳裏に浮かんできたが、なにせミスターのおもしろエピソードを細かく拾っていては、それこそキリがなくなってしまいそうなため、ひとまずはここでピリオドとする。

 

(ああ、これは書いておくのだった・・・)

と特に惜しまれたのは、有名な監督時代の「欲しい欲しい病」だ。言うまでもなく、他球団の有力な選手を無闇矢鱈と欲しがるミスターの悪癖で、FAが導入されて以降は現実に数々の大物選手を獲得して悦に入りながら、失敗したのにも懲りた様子がなかった。

 

さらには、オリンピック代表監督に就任するや、プロ野球を代表するスター選手を一堂に集める派手な行為が

「まるで、珍しくて高価なオモチャを欲しがる、無邪気な子供のようだ・・・」

などと酷評されたりした。

 

このようなミスター心理を分析していくだけでも、一遍の興味深い読み物が出来そうなのだが、この辺りにまで踏み込んでいくとなると全体の構成にまで影響が及んできそうでもあり、また過去に別の企画で触れてきた経緯もあるため、今回は敢えて割愛した。

 

ここまでのシリーズを読み通してきて、野球にあまり興味のない人やミスターを良く知らない人には、あたかもワタクシがミスターに対して、やたらとケチばかり付けているような印象を受けるかも知れないが、無論ワタクシ自身の意図はそれとは、まったく逆のところにある。

 

シリーズの冒頭にも触れたが、ミスターの魅力は、あれだけのスーパースターでありながら、まったく気取ったところのない気さくで天真爛漫なパーソナリティに尽きる。通常、スーパースターと言われるような天才は、得てして横柄な言動や振る舞いなどが、往々にして目に付きやすいものだ(サッカーの中田某や大相撲の朝青龍など)が、ミスターの場合は、逆にあれほどのスターでありながら、あそこまで驕ったところがまったくなのが珍しいくらいの、謙虚な人柄が多くの人々を惹き付けて止まぬ最大の原因といえるだろう。

 

ワタクシ自身の絡みでいえば、高校2年生の時に思うところがあり、不登校を決め込んだ時期があった。この不登校の時期は、年末年始の冬休みを挟んだ1ヶ月弱という、学生の身分としてはかなり長い期間であり、その間に色々と心の中で葛藤を通して「浪人生」と年齢を詐称し、名古屋地下街のブティックなどでバイトをするなど、紆余曲折を経る事になった。

 

その間、ほぼ終日のようにカーテンを締め切った部屋に閉じ篭もり、色々と思索をしていた。担任のR教諭が訊ねて来たのは、不登校を決め込んで半月近くが経過した頃だった。

 

この不登校は、学生やこのR教諭にもまったく影響されぬ、一にかかって自身から発した問題であり、したがってR教諭に対してもどの学生、そして学校に対しても勿論、爪の先ほどの怨みのあるはずはなかったが、やはりそういう時期だけに教師だけでなく、学校関係者とは顔を合わせたくない気持ちが働いていた。とはいえ、頑固オヤジがそんな我が儘な居留守を許す訳もなく、R教諭が部屋に通されて来たのである。

 

R教諭は、座り心地が悪そうにしながらも役目上、型どおりのヒアリングを始めた。こちらとしては、鬱陶しいばかりだから

 

「これはオレ自身の問題なので、わざわざ足を運んで貰わなくても、自分で解決しますよ・・・」

といった一点張りに終始したため、R教諭も取り付くシマもないという態だった。

 

ところが説得を諦めたか、どういう経過でかは覚えていないのだが、次第に話題が世間話となり、いつの間にか野球の話になっていった。ワタクシが野球好きと見たR教諭が

 

「で、にゃべは、どこのファンなんだ?」と訊いてきたので「無論、巨人ですよ」と応えると

「なにー、巨人? 巨人って・・・一体、誰が好きなんだ・・・?」

「誰って事もないけど・・・まあ、巨人そのものというか・・・」

「巨人なんて、今じゃ誰もいいのいないだろー。今時、巨人ファンになっても詰まらんわ・・・オレの頃はだなー、ナガシマナガシマさ」

 

R教諭はそれまでとは別人であるかのごとく、子供のように得意そうに鼻をうごめかした。

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