2012/03/22

開発計画書(プロジェクトJ)(2)

このような経緯で現場に入ったのだが、初めて顔合わせした前任者のK氏というのが、どうみても60は優に超えていそうな高齢であったことだ。

 

「この人が、前任者のK氏か。スキルが高いということだったが、年恰好から見て大したことはなさそうじゃね?」

 

などと決めつけていたものの、すぐにこの考えを改めなければならなかった。

 

というのも、入ってすぐに分かったことは、このK氏のスキルが予想をはるかに超えて高かったことで

 

(とてもじゃないが、オレにこの人の代わりが努まるはずがないじゃないか)

 

ということとともに、S社の担当のT氏もまだ30そこそこだけに経験値の浅いのは否めなかったものの、それ以外のスキルはさすがに大手SIerの社員らしくK氏に匹敵しうるレベルだった。

 

(これは、案外とえらいところに来てしまったか・・・?)

 

と慌てるところだったが、そんな中で唯一というべきか、契約先となるI社のS君のスキルはといえば、これが逆の意味でお話しにならず

 

(こいつは、本当にNWエンジニアなのか?)

 

と疑ってしまうレベルだったのである。実際にK氏の引継ぎには、S君も同席していたのだが、入ったばかりの自分でも簡単に分かることが理解できておらず

 

「このバカ!

何度も教えたのに、なんでわからないんだ!」

 

と、頭を叩かんばかりの辛辣さでK氏はS君を罵倒し、すっかりS君の馬脚が現れた格好だ。

 

さて、そんな体制にあって「引継ぎ」とはいっても、文字通り老体に鞭打つかのようなK氏の稼働は低かっただけに、手取り足取りどころか殆ど引継ぎもないままに、早速リーダーのN氏とT氏に呼ばれ

 

「今度、機器リプレースの大きめのプロジェクトがあり、その設計書を作らないといけないんですが、これをにゃべさんにお願いしたい」

 

ということだ。

 

「開発計画書の作成は、Kさんがある程度進めているはずなので、Kさんから引き継いで完成させてほしい」

 

このユーザーの銀行では、設計書を「開発計画書」と呼称していたらしいが、過去の資料を見ると要するにNW設計書を作ればよいわけだ。

 

早速、MtgでK氏に確認すると

 

「ああ、あれね・・・全然作ってねーな・・・私はもう残り少ないから、あれはにゃべさんにお願いしたい・・・」

 

と、すっかりトンズラを決め込もうという姿勢のK氏から丸投げされた。

 

とはいえ、S氏はスキルが低くて(というよりは、殆ど素人レベル)全く頼りにならないから、いよいよ偶にしか出てこなくなったK氏に色々と聞いたり、K氏が居ない時は隣の席のT氏に聞いたりしながらコツコツと作成していくしかない。ところが、もうすぐいなくなる半病人のようなご老体のK氏はともかくとして、まだ30そこそこと壮年で今が働き盛りのはずのT氏が、やたらと「病欠」が多かった。

 

ある日のこと、リーダーのN氏から

 

「どうですか?

開発計画書の方は、進んでますか?」

 

と聞かれたので

 

「そこそこ進んではいますが・・・最近はKさんもあまり出てこないのは、まあ仕方ないとして、Tさんはどうしちゃたんでしょう?」

 

と聞くと

 

「アイツはね・・・ちょっとメンタルの問題を抱えているのでね・・・正直、あまり充てにしない方が良いですよ。なので、これまでNWチームはKさん中心に動いてきましたのでね・・・これからは、そこはにゃべさんが・・・」

 

というではないか。

 

(なんで元請け社員のT氏や、先輩格のS君がいるのに、新参者の自分が・・・)

 

と思いつつも、開発計画書の作成が進んでくると、これが自分でも意外なくらい案外と興に乗ってきてしまった。

 

過去の計画書を沢山読み込んで研究してみると、

 

(こうしてみると、案外大したものはない気がする・・・どれもイマイチというか・・・こうなりゃ、オレがアッと驚くようなものを作ってやるか!)

 

と、なぜかすっかり「やる気」を出してしまったのだ。

 

人間、「やる気」になった時ほど、強いものはない。しかもそれなりの裏付けもあるから、コツコツと頑張った結果、当初全く想定していなかった、自分でもうっとりして何度も読み返すような完成度の高い(と思われる)成果物が出来上がった!

 

K氏とT氏、そして(おまけに過ぎないが)S氏とのレビューでは、辛口のK氏も

 

「良いんじゃないですかね・・・これは」

 

としか言わなかったが、元請け社員のT氏も

 

「Nさんにも見てもらって、問題なければJ社のSさんレビューに進みましょう」

 

とT氏の見解がわからないまま、N氏のレビューへと進む。T氏やK氏とは違い、率直な性質のNリーダーは

 

「これなら十分、Sさんレビューに出せるレベルと思いますが・・・TとKさんは、どうです?」

 

「私も、直すところはないですね・・・」

 

と、T氏も初めて本音を言った。

 

こうして、ユーザーであるJ銀行のS氏のレビューが設定された。

0 件のコメント:

コメントを投稿