このような経緯で現場に入ったのだが、初めて顔合わせした前任者のK氏というのが、どうみても60は優に超えていそうな高齢であったことだ。
「この人が、前任者のK氏か。スキルが高いということだったが、年恰好から見て大したことはなさそうじゃね?」
などと決めつけていたものの、すぐにこの考えを改めなければならなかった。
というのも、入ってすぐに分かったことは、このK氏のスキルが予想をはるかに超えて高かったことで
(とてもじゃないが、オレにこの人の代わりが努まるはずがないじゃないか)
ということとともに、S社の担当のT氏もまだ30そこそこだけに経験値の浅いのは否めなかったものの、それ以外のスキルはさすがに大手SIerの社員らしくK氏に匹敵しうるレベルだった。
(これは、案外とえらいところに来てしまったか・・・?)
と慌てるところだったが、そんな中で唯一というべきか、契約先となるI社のS君のスキルはといえば、これが逆の意味でお話しにならず
(こいつは、本当にNWエンジニアなのか?)
と疑ってしまうレベルだったのである。実際にK氏の引継ぎには、S君も同席していたのだが、入ったばかりの自分でも簡単に分かることが理解できておらず
「このバカ!
何度も教えたのに、なんでわからないんだ!」
と、頭を叩かんばかりの辛辣さでK氏はS君を罵倒し、すっかりS君の馬脚が現れた格好だ。
さて、そんな体制にあって「引継ぎ」とはいっても、文字通り老体に鞭打つかのようなK氏の稼働は低かっただけに、手取り足取りどころか殆ど引継ぎもないままに、早速リーダーのN氏とT氏に呼ばれ
「今度、機器リプレースの大きめのプロジェクトがあり、その設計書を作らないといけないんですが、これをにゃべさんにお願いしたい」
ということだ。
「開発計画書の作成は、Kさんがある程度進めているはずなので、Kさんから引き継いで完成させてほしい」
このユーザーの銀行では、設計書を「開発計画書」と呼称していたらしいが、過去の資料を見ると要するにNW設計書を作ればよいわけだ。
早速、MtgでK氏に確認すると
「ああ、あれね・・・全然作ってねーな・・・私はもう残り少ないから、あれはにゃべさんにお願いしたい・・・」
と、すっかりトンズラを決め込もうという姿勢のK氏から丸投げされた。
とはいえ、S氏はスキルが低くて(というよりは、殆ど素人レベル)全く頼りにならないから、いよいよ偶にしか出てこなくなったK氏に色々と聞いたり、K氏が居ない時は隣の席のT氏に聞いたりしながらコツコツと作成していくしかない。ところが、もうすぐいなくなる半病人のようなご老体のK氏はともかくとして、まだ30そこそこと壮年で今が働き盛りのはずのT氏が、やたらと「病欠」が多かった。
ある日のこと、リーダーのN氏から
「どうですか?
開発計画書の方は、進んでますか?」
と聞かれたので
「そこそこ進んではいますが・・・最近はKさんもあまり出てこないのは、まあ仕方ないとして、Tさんはどうしちゃたんでしょう?」
と聞くと
「アイツはね・・・ちょっとメンタルの問題を抱えているのでね・・・正直、あまり充てにしない方が良いですよ。なので、これまでNWチームはKさん中心に動いてきましたのでね・・・これからは、そこはにゃべさんが・・・」
というではないか。
(なんで元請け社員のT氏や、先輩格のS君がいるのに、新参者の自分が・・・)
と思いつつも、開発計画書の作成が進んでくると、これが自分でも意外なくらい案外と興に乗ってきてしまった。
過去の計画書を沢山読み込んで研究してみると、
(こうしてみると、案外大したものはない気がする・・・どれもイマイチというか・・・こうなりゃ、オレがアッと驚くようなものを作ってやるか!)
と、なぜかすっかり「やる気」を出してしまったのだ。
人間、「やる気」になった時ほど、強いものはない。しかもそれなりの裏付けもあるから、コツコツと頑張った結果、当初全く想定していなかった、自分でもうっとりして何度も読み返すような完成度の高い(と思われる)成果物が出来上がった!
K氏とT氏、そして(おまけに過ぎないが)S氏とのレビューでは、辛口のK氏も
「良いんじゃないですかね・・・これは」
としか言わなかったが、元請け社員のT氏も
「Nさんにも見てもらって、問題なければJ社のSさんレビューに進みましょう」
とT氏の見解がわからないまま、N氏のレビューへと進む。T氏やK氏とは違い、率直な性質のNリーダーは
「これなら十分、Sさんレビューに出せるレベルと思いますが・・・TとKさんは、どうです?」
「私も、直すところはないですね・・・」
と、T氏も初めて本音を言った。
こうして、ユーザーであるJ銀行のS氏のレビューが設定された。
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