2023/02/03

ゲルマンの神々(1)

出典http://ozawa-katsuhiko.work/

 ゲルマンの神々は、主神「オーディン」を中心とした神々の体系ということになりますが、ギリシャ神話でも「ゼウスの一統」だけがいたわけではなく様々の血筋を持った神々がいたように、ゲルマン神話でもその体系は複雑です。核となる「アース神族」の他に「巨人族」出身であったり、さらには「ヴァンル神族」と言われる神々の種族がいたり、「こびと族」や「妖怪」も重要です。

 

 その「アース神族」ですが、スノッリの「エッダ」ではアース神族に言及したとき「アース神は12柱いるのだ」と言ってきます。ギリシャでも「オリュンポス12神」であり、イスラエルも「12部族」で、したがってそれを引き継ぐイエスも「12弟子」を持ち、仏教でも「12神将」という具合に、偶然としてはあまりに符号しすぎる「12」という数に何があるのかよく分かりません。一番わかりやすいのが「月の満ち欠け」つまり「一年」が12月で構成されていることから、これが「全体・完全」を表す数なのかもしれません。しかし「そうだ」とは言われていないのであくまで推量になってしまいます。

 

 ところが、「12神」だと言いながら、この「エッダ」で列挙された神を数えていくと13ないし14になってしまいます。その矛盾については良く分かりません。

 

 さて、神々にまつわる物語は複数の神々が介在してきますから、その名前と職分くらいを知らないと混乱してしまいますので、まずそれを簡単に紹介しておきます。

 

 まず「アース神族12神」ですが、ここは男性神だけです。「アース神族」に属する女神については、その後で紹介することになってきます。スノッリの「エッダ」は一人一人紹介していくやり方をしているので便利ですが、ここでは整理して順番を少し変えて紹介していきます。ただし、もちろん他にも神々がいることは物語の中で明らかで、第一オーディンの兄弟で世界の形成に尽力していた「ヴィリ」と「ヴェー」が12柱の神々として名前があげられておらず、他にもここで言及されないけれど他の物語で名前が挙げられてくるアースの神がたくさんおりますので、ここではとりあえず「主要神」を列挙していると理解しておきましょう。

 

「アース神族12神」

1、オーディン

 主神が「オーディン」となり、彼は「アルファズル(万物の父)」と呼ばれるとされ、他の神々も強力ではあるけれど、ちょうど子が父に仕えるように彼に仕えているとされます。しかし、物語の中で彼は専制的に振る舞っているわけではありません。

 

 ちなみに、この「オーディン」のアングロ・サクソン発音が「ヴォーダン」となり、これが「Wedneの日」つまり「Wednesday(水曜日)」として、今日まで英語に保たれてきました。他の北欧言語でも、発音こそ違え同様ですが、興味深いことにドイツ語だけは彼の名前を残しておらず、Mittwochといって「週の真ん中」というつまらない言い方になっています。ということはドイツのゲルマン民族はオーディンを主神としていたのではなく、火曜日に名前を残している「テュール」か、木曜日の「トール(ドナール)」かどちらかが主神であって、ヴォーダンは存在しなかったか小さなものであった可能性が考えられます。オーディンについては別途大きく取り扱いますが、彼の最後は世界終末戦争において妖怪狼に飲み込まれてしまうものでした。

 

2、トール

 そのオーディンに次いでいるのが「トール」だと紹介されます。主神オーディンをのぞき、「アース神族」を代表する神というわけなのか「アースのトール」と呼ばれると紹介されます。たくさんある神々の物語の中でも、この「トール」にまつわる話が一番おもしろく、人柄(神柄?)としては単純・豪快・短気でかんしゃく持ちだけれどユーモラスで憎めないといった豪傑の風情で、ギリシア神話での英雄ヘラクレスのようなイメージとなります。彼の得意技は「ミョルニル」という「槌」をとばして相手の頭蓋骨を粉々にしてしまうことで、それはもう山をも打ち砕くといった風情ですから敵は誰よりもこのトールを恐れていると言われます。

 

 彼は二頭の山羊に引かせた車に乗っているため「車のトール」といわれ、この山羊の車に乗って「槌」を振りかざしている姿が「トールのイメージ」となります。そのためか彼は「雷神」に間違われてしまったようで、ドイツ語での「雷」という言葉は彼の名前に由来していますが(Donner)、しかし「エッダ」による限り同一視はしていません。

 

 このトールの活躍は群を抜いているため、ノルウェーなどスカンディナビア地方においてはトールが主神であったのだけれど、それがオーディンを主神とする他のゲルマン人部族に押されて主神の地位を奪われたのだろうと推定されています。それというのもトールは単独で多くの神殿を持ってまつられていた形跡があり、地名や人名にトールにゆかりの名前が多いということが指摘されています。したがって、彼の名前も英語の曜日に残り「Thurの日」つまり「Thursday(木曜日)」になります。ドイツ語でも表記がDonnersとなりますが、木曜日はDonnerstagとなります。彼は世界終末戦争において人間世界を取り巻く海に巣くう巨大な毒蛇と戦うことになり、それを倒すことはできましたが、彼もまたその毒蛇の毒を吸ってしまったため倒れていきました。

 

3、テュール

 次に「テュール」です。彼は、ここでは「アース神の一員」としての優れた働きくらいしか紹介されていませんが、「トール」がそう考えられているのと同じく、彼もおそらく原ゲルマン人ないし部族によって「オーディン」以前に主神として崇拝されていた神ではないかと考えられている神です。

 

 その名残が「Tueの日」という彼にちなんだ曜日が今日まで英語に残ってきました。いうまでもなく「Tuesday(火曜日)」です。ドイツ語ではDienstagとなります。

 

 エッダでは彼は「何者も恐れない大胆さ」を持つ神として戦士が祈るべき神とされています。彼は世界終末戦争において地獄の番犬と戦い相討ちとなっています。

 

4、バルドル

 ついで「バルドル」です。彼については、その「容姿の美しさ」が称えられ、またアース神の中でもっとも賢く雄弁であると言われます。また誰にも好かれるその善良さと人望は、彼の死の物語の中で遺憾なく描かれてきます。「神々と世界の終末」の後、新たなる世界に生きる神の一人として彼は冥界から戻るのであり、そうした重要性を持ちます。

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