出典http://ozawa-katsuhiko.work/
こうしてウートガルザ・ロキはトールを振り返り、
「トールのすごさについてはいろいろ言われているが、さてここでどんな技を見せてくれるかな」
と尋ねた。
そこでトールは「酒飲み比べ」と言った。王は、それはいい、といって角杯を持ってこさせて言った。
「一息で空にできたら見事だ、二息でできる者はいくらかいる、だが三息で空にならなかったからといって、酒飲みではないとはいえないだろう」
とからかった。トールは角杯をみて少し大きいなとは思ったが飲めないとは思わなかった。そして一息でグイグイあおって飲んでもういいだろうと思って口を離して中をのぞいたところ、全然減っていないように見えた。
王はトールをからかった。怒ったトールは再び角杯に口をつけ力一杯飲み続けた。しかしやっぱり全然減っていなかった。王はまたもトールをからかった。トールは怒りに怒って三度角杯を口にして、あらん限り息の続く限り飲み続けた。そして中をのぞくと、今度はかなり減っているのが見えた。こうしてトールは杯を置いた。
王は、
「アースのトールが思ったほどたいしたことはないということが分かったけれど、もっと他の競技をしてみるかい」
と言った。
トールは
「いいだろう、だがどうも妙な気がする。こんな風に飲んで、たいしたことがないなんて」
とつぶやきながら「何をしたらいいか」と尋ねた。
すると王は
「たいしたことではないけれど、ここの若者たちがよくやることだが、儂の猫を持ち上げてみせてくれ。もっとも先ほどたいしたことがないというのを見ていなかったら、こんなつまらんことは要求しなかったのだがね」
と言った。
そして一匹の灰色の猫が、広間に飛び出してきた。そこでトールは猫に近寄り、腹の下に手を差し入れてもちあげようとした。猫は背中を丸めた。しかし持ち上がらない。トールはできる限り手を伸ばし、やっと猫の片足が持ち上がった。しかし、それ以上は無理だった。
そこで王は
「思った通りだ、トールは小さいからなあ」
と言った。
トールは怒り
「小さい、小さいというが、それじゃ俺と力比べをしてみるがいい」
と怒鳴った。
王は
「それじゃお手並み拝見といこう、先ず儂の乳母のばあさんとやってみてくれ」
といった。ばあさんの「エリ」が出てきて、二人は相撲をすることになった。だがトールが攻撃すればするほど、ばあさんのエリは盤石のように動かず、今度はエリが攻撃にでるとトールの片足は浮き、こうして二人は激しく戦いつづけたが、まもなくついにトールは片膝をついてしまったのだった。
しかし、ともかくトールたちは客分としてのもてなしを受けて一晩を過ごし、朝になって出発することになった。ウートガルザ・ロキは、見送りに一緒に門の外までやってきた。
そしてトールが
「あんたたちが、俺のことをとるに足らぬ奴とよぶことは分かっている。だから、いい気分がしない」
と言ったのをきいて、
「もう城の外にでているから、本当のことを教えてやろう」
と言った。
「儂が生きているうちは、二度とおまえを城の中に入れることはしないだろう。もしおまえがこんなにも力があるものすごい奴だと知っていたら、儂らの危険を思って始めから城の中などに入れはしなかったよ。じつは儂は、おまえの目を欺いていただけなのだ。始め森の中で儂がおまえたちに出会って荷物を一緒にしたけれど、おまえたちがそれを開けられなかったのは、こっそり鉄線で全部しっかり縛っておいたからさ。次におまえは三度儂の頭を槌のミョルニルで叩いたけれど、あれはまともに食らっていたら儂の頭は砕け散っていたよ。あの山を見てみろ、三つの大きな谷ができているけど、順番に谷がでかくなっている。あれがおまえの槌で打った跡だよ、幻で頭の代わりに、あれを打たせていたわけさ。
競技も同じで、最初の食べ比べでのロキの相手というのは野火だったのさ。だから肉でも骨でも、樋までも何でも燃やし尽くしてしまったわけだ。また駆け比べでスィアーヴィの相手をしたのは、儂の思考だったのだ。儂の思考のスピードに敵う奴などいるわけもない。そしておまえが飲んだ角杯だが、あれの端は海につながっているのだ。だから空になるわけもないのだが、仰天したのが三杯目で、おまえは大量の海の水を飲んでしまったのだ、だから海にいってごらん干潟ができているだろう。猫の時は、おまえが猫の片足を持ち上げた時には、儂ら全員怖れおののいたものだ。なぜならあれは猫ではなくて、この大地をぐるりと取り巻いているミズガルズの大蛇だったからさ。
最後のエリとの相撲もそうだ。エリというのは「老齢」なのだ。老齢と戦って勝った試しのある者など存在しない。それなのに、おまえは老齢と戦ってせいぜい片足をついたぐらいのものだった。さてこれで本当の別れだ、しかし、もう儂のところを尋ねようとはしない方が、お互いの身のためだろう。今度は儂はあらゆる手段を講じて、城を守るつもりだから」
と言った。
これを聞いてトールは騙されたことに怒り槌を振り上げたけれど、ウートガルザ・ロキの姿はどこにもなく、また城も何もかもすべてなくなり一面の野原が広がっているだけであった。こうしてトールたちは戻ってきたが、トールは大蛇を探しに行こうと心に決めていた。
話はここからトールの大蛇探しとなり、巨人の漁師のところに行き、大蛇をつり上げるのに成功するけれど、大蛇を怖れた巨人が糸を切ってしまい逃がしてしまった話が続きます。それ以外、トールについてはさまざまの話があります。
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