峠は中国地方で「垰」あるいは「乢」とも書き「たお」、「とう」、「たわ」、「たわげ」などと呼ぶ地方があり、地名などにも見られる(岡山県久米南町安ケ乢など)。登山用語では「乗越(のっこし)」などとも言い、山嶺・尾根道に着目した場合は鞍部(あんぶ)、窓、コル(col)とも言う。
かつて峠はクニ境であり、その先は異郷の地であった。そのため、峠は「これから先の無事を祈り、帰り着いた時の無事を感謝する場所」であったことから、祠を設けている所が多い。この祠は、異郷の地から悪いものが入り込まないための「結界」の役割も果たしていたと考えられる。本来の意味から転じて、何らかの物の勢いが最も盛んな時期のことを「峠」という。
峠の語源は「手向け(たむけ)」で、旅行者が安全を祈って道祖神に手向けた場所の意味と言われている。「峠」という文字は、日本で作られた国字(和製漢字)である。異説として、北陸から東北に掛けた日本海側の古老の言い伝えがある。
「たお」は「湾曲」を意味していた。稜線は峰と峰を繋ぐ湾曲線を描いており、このことから稜線を古くは「たお」と呼んでいたと言う。「とうげ」とは「たお」を越える場所を指し「たおごえ」から「とうげ」と変化した。したがって稜線越えの道が無い所は、峠とは呼ばないのが本来である。同じように「たお」から変化したものとして、湾曲させることを「たおめる」→「たわめる」、その結果、湾曲することを「たおむ」→「たわむ」と言う。或いは実が沢山なって、枝が湾曲する状態を「たわわ」と言うようになった、と説明している。
「峠」という言葉は、色々な場面で使われる。「峠」を辞書で引くと
1.
山道をのぼりつめて、下りにかかる所。山の上り下りの境目。「―道」
2.
物事の勢いの最も盛んな時。絶頂。「病気は今夜が―だ」、「選挙戦が―にさしかかる」とある。
「1」は、これまで紹介してきた本来の「峠」であり、「2」は比喩的に使われるものだ。例えば病気などで非常に危険な状態、今夜が生死の分かれ目といった場合に「今夜が峠」などと言われたりする。これは「物事の絶頂の時期、極限」の分かれ目を意味する。
一方「坂」というのは、字面の通りで「土が反っている」という意味だ。土は地面のことで、それが「反(そ)っている」というのは、傾斜があることを意味する。対して「峠」は「山」に「上る」道と、反対側に「下る」道のある場所を指しているのは、一目瞭然だ。 通常は生活道路を有する低山の頂部を指し、富士山の頂上のように生活に直結した道のない部分は峠と言わない。
0 件のコメント:
コメントを投稿