ヤハウェ(ヘブライ語: יהוה、フェニキア語: 𐤉𐤄𐤅𐤄、古アラム語(英語版): 𐡉𐡄𐡅𐡄)は、旧約聖書および新約聖書における唯一神の名である。
この名はヘブライ語の4つの子音文字で構成され、神聖四文字、テトラグラマトンと呼ばれる。神聖四文字と、これを「アドナイ」(わが主)と読み替えるための母音記号とを組み合わせた字訳に基づいて「Jehovah」とも転写され、日本語ではエホヴァ、エホバ(文語訳聖書ではヱホバ)とも表記される。遅くとも14世紀には「Jehova原文ママ」という表記が使われ、16世紀には多くの著述家が Jehovah の綴りを用いている。近代の研究によって復元された原音に基づいて、これを「Yahweh(ヤハウェ)」と読むのが主流となっている。
本項に示す通り、この神を指す様々な表現が存在するが、特に意図がある場合を除き、本項での表記は努めてヤハウェに統一する。また本項では、ヤハウェを表す他の語についても述べる。
普通名詞
日本語訳聖書では今日、一般に、原文において「יהוה(ヤハウェ)」とある箇所を「主」と訳す。これは主に、消失の経緯で後述するユダヤ人の慣習による。今日のユダヤ人はヤハウェと読まずに、アドナイ(「わが主」)という別の語を発音するためである。カトリック系の『バルバロ訳』のほか、『口語訳聖書』(日本聖書協会)などがこれである。
また、口語訳聖書を後継する『新共同訳聖書』(同)も、一部の地名(『創世記』第22章14節、#固有名詞で後述)を除き、一貫して「主」とする。プロテスタント福音派系の『新改訳聖書』では、太字で「主」とする。これは「文語訳ではエホバと訳され、学者の間ではヤハウェとされている主の御名を」「訳し」た「主」と、これを「代名詞などで受けた場合か、または通常の<主>を意味することば」とを区別するためである。1893年の時点で日本聖公会も、エホバではなく主の語を用いるべきだとしている。
主に「英語圏」・「スラブ語圏」となるが 実際の「聖四文字」の表記例を「出エジプト記20」から挙げる。
表記例[表示]
神
旧約聖書では、「神」という一般名詞であるエル(古典的なヘブライ語発音でエール)やその複数形「אלהים(エロヒム)」も、ヤハウェの呼称として用いられる。一般に、日本語訳聖書ではこれらの音訳は使用せず、これに相当する箇所は漢訳聖書での訳語を踏襲し神とするものが多い。「全能・満たすもの」を意味するとされるシャダイの語を付してエル・シャダイとした箇所は、全能の神などと訳される。
上帝
中国語の聖書には、本項の神について「神」という語をあてたもののほか、「上帝」となっているものが多数存在した。今日も多く使われる和合本という翻訳の聖書も、この語を「神」とした上で1文字分の空白をあけ、2文字の「上帝」と同じ文字送りにしたものが多い。
「神」の字が、「אלהים」または「אלוהים」、古代ギリシャ語「Θεός(テオス)」、英語「God」の訳語に当てられたのは、近代日本でのキリスト教宣教に先行していた清におけるキリスト教宣教の先駆者である、ロバート・モリソンによる漢文聖書においてであった。しかしながら、訳語としての「神」の妥当性については、ロバート・モリソン死後の1840年代から1850年代にかけて、清における宣教団の間でも議論が割れていた。大きく分けて「上帝」を推す派と「神」を推す派とが存在したが、和訳聖書のモリソン訳の流れを汲むブリッジマン・カルバートソンによる漢文訳聖書は、「神」を採用していた。
多数の日本語訳聖書は、この流れを汲み、1938年には「神」という用語についてキリスト教神学者前島潔が論じることはあったものの、今日に至るまで適訳であるかどうかをほぼ問題とせずに「神」を翻訳語として採用するものが多数となっている。
固有名詞
旧約聖書すなわちヘブライ語聖書の原文には、ヘブライ語で記された名前「יהוה(ヤハウェ)」が6859回登場するとされている。
これは4文字のヘブライ文字からなることから、ギリシャ語では「Τετραγράμματον(テトラグラマトン)」(神聖四文字、原義は「四字」)とも呼ばれる。
アラム文字でヘブライ語を記述するようになってからも、この4文字はフェニキア文字で書かれていたとされる。
ちなみに、この4文字はラテン文字では「YHVH」「YHWH」「JHVH」「JHWH」「IHVH」などと翻字される。
『新共同訳聖書』付録には「神聖四文字 YHWH」について、次のように記されている。
この語の正確な読み方は分からないが、一般にヤーウェまたヤハウェと表記されている。この神名は人名の末尾に「ヤー」という短い形で付加されることが多い(「イザヤ」「エレミヤ」)など)
— 『新共同訳聖書』付録30ページ「用語解説」主(しゅ)
なお、同書では「旧約聖書中」とあり、一般にこの固有名詞は新約聖書には登場しない。写本などの研究から、原文の新約聖書にも使用されなかったと考えられている。文語訳聖書中でも、イエス・キリストが旧約聖書から引用したと思われる箇所で、この固有名詞は登場していない。
発音
元々、ヘブライ語は母音の表記法を持たなかった。語幹は子音だけから成り活用を母音だけで表すため、語句や文章は子音文字のみで記述され、母音の復元はもっぱら読み手の語彙力によった。この方式をアブジャドといい、現代アラビア語などにもみられる。
やがて聖書ヘブライ語が日常言語としては死語になり、ヤハウェにあたる語を何と読むか正確な発音は消失した。消失の経緯で後述するように、その発音は人々の口に上らなくなっていたのである。
しかし後に、ニクダーもしくはニクードと呼ばれる色々な点々を打つことにより、母音の表記が可能となった。
また、すでにユダヤ人は、詠唱の際にヤハウェの名の登場する箇所をアドナイ(「わが主」、消失の経緯で後述)と読み替えるようになっていた。
その際、ヤハウェ(の子音字)「יהוה」に、アドナイ אֲדֹנָי と同じニクードすなわち -ă -ō -a という母音を示す点々を打って、そう読み慣わした。
これをそのまま読むと、イェホワ (יְהֹוָה、YəHōVaH) と読める(文法上、ヘブライ文字 y には弱母音の「ă(ア)」を付けられないため、曖昧母音のエ ə に変化する)。
日本語のエホバ(ヱホバ)、英語の「Jehovah」、および各言語のそれに類する形は、ここに由来するのである。
それらは確率的に、正しい読みに偶然に一致する可能性も完全には捨てきれないかもしれないが、あくまで可能性であって、学術的にはヤハウェと推定する見解で今日ほぼ一致している。(異論もある[)
日本語では、ヤハウェの他にヤハヴェ YaHVeH(ヘブライ文字 ו [w]は現代ヘブライ語読みで/v/と発音)、ヤーウェ YaHWe(HのaHを長音として音写)などの表記が用いられることもある。
人名などの要素として用いられる יהוה の略称は「ヤ」 ( יָה [yāh])、「ヤフ」 (יָהוּ [yāhû])等であり、ここから最初の母音はaであったと推測できる。
また、古代教父によるギリシア文字転写形として Ιαουε (イァォウェ)、Ιαβε (イァベ)があり、これらからYHWHの本来の発音は英語式に表記するところの「Yahweh」あるいは「Yahveh」であったと推測されている。
出典 Wikipedia
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