出典http://ozawa-katsuhiko.work/
「ロキの懲罰」
その後、すべてを知った神々は、ロキに対する怒りを爆発させました。それを覚るとロキは逃げだしてある山に身を隠し、四方に窓のある家を造って、そこに住んで始終窓から四方を見張っていました。しかも昼間はしばしば「鮭」に身を変えて、滝壺の中に隠れていました。そしてアース神たちが、どうやって自分を捕らえる工夫をするとか案じて、自分を捕らえる「網」の具合など自分で試作などしていました。
そんな折り、ついにオーディンがロキの居場所を見つけました。ロキはそれを悟ると素早く試作していた網を火にくべて燃やしてしまい、河の中に飛び込みました。アース神たちはロキの家に迫ると、「知恵者クヴァシル」が家の中に入り、いろいろ調べていくうち火の中の灰を見つけ、それを調べてこれが魚を捕る網に違いないと察知して、その灰の形から類推して一つの網を作り上げていきました。
アース神たちはそれを持って河に来て、一方の端をトールが持ち、もう一方は残った神々が一緒になって持って、網を河に投げ入れました。しかしロキは巧みにそれをかいくぐって、二つの石の間に身を潜めていました。それと知った神々は、網がさらに下まで届くように重しをつけて投げ入れ、ロキはそれを逃げなどしているうち海の近くまできてしまいました。
海はさすがに危険でした。そこでロキは飛び上がって、網の上を飛び越えて再び滝の方に逃れてきました。そこでトールは河の中に入り、網で追い出すように迫っていきました。ロキは海に逃れるか、再び網の上を越えて逃げるかの決断が迫られました。ロキは後者を選んで思い切り飛び上がりましたが、トールはそれを逃がしはしませんでした。トールは思い切り、鮭となっているロキをつかみましたが、頭の部分は滑ってしまい、ようやくしっぽのところで固くつかむことができました。それ以来「鮭のしっぽ」は細くなったと言われます。
こうしてロキは捕らえられ、そして洞窟のところに連行され、神々は三つの平らな岩を取り上げて穴をあけ、その穴に紐を通してロキを、この三つの岩にくくりつけてしまいました。三つの岩の一つは肩のところ、二つめは腰の下、三つ目は膝の下でこうしてロキは身動きできなくされてしまいました。
さらに毒蛇が捕まえられてきてロキの頭の上にくくりつけられ、その毒がロキに降りかかるようにしてしまったのです。そのためロキの妻「シギュン」は桶を持って夫の傍らにたって、この毒が頭に降りかからないようにしているのでした。しかし、その毒が桶いっぱいになると、それを捨てに行かなければなりません。その間は猛毒がロキに降りかかるので、ロキは痛さに猛烈にもがくことになりました。それが人間世界で「地震」と呼ばれている現象なのだとされます。
こうしてロキは世界の終末がくるまで、ここに捕らえられて苦しまなければならないことになりました。従って、この続きは「世界終末戦争、神々の黄昏」になってきます。
これ以外にも、ロキは至るところに出現しているもっともポピュラーな神であり、とりわけ『ロキの口論』と題された歌謡は、ロキが並み居る神々・女神をすさまじく誹謗していく非常にユニークなもので、ロキの性格の一つが良く描かれている作品です。
さて、以上のようなものが「悪神ロキ」にまつわる物語ですが、こうしてみるとゲルマンの神々の方が、ギリシアの神々に比べて断然「人間的」であるということが言えそうです。というか、私たちが想像する「神の性格」というものがまるきり無いとも言えます。
ギリシアの神々の物語は「神々の世界だけの物語」を見るとゲルマン神話に似ていると言えますが、しかし「人間世界との関係」がやはり根底にありますので「人間を越えた神の力」というものが描かれてきて、その部分で「神の超越性」が見られてくるのですが、ゲルマン神話にはそれがないために「まるきり人間」の物語と変わらなくなってしまうわけでした。今回のテーマの「ロキの物語」は、そうした「人間世界の写し」としての神の物語という性格を顕著に示していたと言えるでしょう。
また、「ロキ」というのは神話学的に「閉じる者、終える者」を意味するか、あるいは「火」を意味するかとされています。「閉じる、終える」と理解すれば、世界終末をもたらす者ということだとなります。しかしどうも、たとえばノルウェーでは暖炉の火がはねた時など「ロキの仕業」とするとかがあって、本来「火の精霊」であったものがアースの神の一員に昇格していった段階で神々を助けたり、あるいは災いをもたらすという「火の両面性」がイメージ化されていき、やがて「災いの方向」に物語がつくられていったということかもしれません。そして、このロキも「島のゲルマン人」に特有の神であったと考えられています。また「暖炉の火の跳ね」に見られるように、かなり日常的な神であったのだろう推測されています。
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