出典http://ozawa-katsuhiko.work/
以上の「神々の黄昏」では「主立った数人の神」の戦いだけしか語られていませんでしたが、この戦いに備えてヴァルハラで暮らしていたかつての英雄たち、つまりアインヘルヤルと呼ばれていた者たちはどういう者たちだったのか、それもやはり紹介しておきたいです。その中で、もっとも有名な「シグムンド」を紹介しておきます。
フナランドの王「ヴェルスング」には、10人の息子と一人の娘がいた。その長男は「シグムンド」といい、一人娘の名前は「シグニュ」と言って二人は双子の兄妹であった。兄弟はいずれも抜群の勇士であったが、この二人の優れと美しさは群を抜いていた。
娘のシグニュが成長した時、ガウトランドの王であった「シゲイル」がシグニュに求婚してきた。ガウトランドは強大な国であったので、父王ヴェルスングは良い縁組みであるとしてこれを認めた。シグニュは何となく悪い予感がしたのだけれど、父の決定に従った。
そしてシゲイルはやってきて、盛大に婚礼の宴が開かれた。すると、そこに突然つばの広い帽子を深々とかぶり、袖のないまだらのマントを身につけた長身の老人が入ってきた。彼は片目で、手には一振りの剣を持っていた。老人は館の中央に生えている巨大な柏の大木のところに近寄ると、その根元の幹に手にした剣を差し込んだ。そして
「この剣をこの幹から引き抜けた者が、わしからの贈り物としてこの剣を所有するがよい。その者は、この剣が世に二つとない希代の名剣であることを知ることになるだろう」
と言って立ち去っていった。その老人は誰あろう「神オーディン」が身を変えて現れた姿であった。
人々は老人の他を圧する雰囲気に立ちすくんでいたが、老人が立ち去ると皆ハッと我に返って、男たちは皆な柏の木の根本に駆け寄った。そして、てんでにその剣を引き抜こうとしたけれど、どんな力自慢の男もビクともさせることができなかった。最後にシグムンドが近寄りその剣に手をかけると、何の力も要せずスルリと剣は抜けてシグムンドの手の中に収まった。その剣は燦然と光り輝き、そのすばらしさに感嘆せぬ者はなかった。
その剣をみたシゲイルはうらやましくて仕方がなく、シグムンドに向かってその剣の三倍の重さの黄金を支払うから、その剣を譲って欲しいと申し入れた。しかしシグムンドは、この剣は引き抜いた者が持つべきということでその申し出を断った。
シゲイルは花婿の申し出が断られたということで心が煮えくりかえったけれど、表面は平静を保って、心のうちに復讐の計画を誓った。そして翌日になって突然、天候の具合で今日のうちに出帆したいと言い出し、その代わり三ヶ月後に王ヴェルスングだけでなく、シグニュの兄弟ともども招待したいので自分の国に来て欲しいと申し入れてきた。
他方、一夜の語らいの中で、シグニュは夫シゲイルがとんでもない卑劣な悪人であることを見抜き、結婚を解消したいと願ったが父のヴェルスングはそれを許さず、シゲイルの申し入れに従って、その日のうちに二人を出発させた。
約束の三ヶ月目に、ヴェルスングたちはシゲイルの館目指して出発したが、シゲイルの方はヴェルスングたちを皆殺しにしようと密かに大軍を集めて待ちかまえていたのであった。父ヴェルスングや兄弟たちの船がやってきたことを知ると、シグニュは密かにシゲイルの館を抜け出して父の元に忍び入り、シゲイルの悪巧みを教え、一たん戻って今度は軍を引き連れて戻り、シゲイルを討ってくれるようにと懇願した。
しかしヴェルスングは「敵に後ろを見せぬ」という誓いを生涯貫いてきていたので、ここで戻るわけにはいかないとして敢えて上陸し、少ない部下を引き連れ待ちかまえたシゲイルの大群の中に切り込んでいったのだった。ヴェルスングとシグムンドはじめ兄弟たちは奮戦したけれど、しかしあまりの多勢に無勢のためについにヴェルスングは部下ともども討ち取られ、兄弟たちも全員捕縛されてしまった。
シゲイルは全員すぐに殺してしまおうと思ったけれど、シグニュのたっての願いがあり、森の中に身動きできないように縛り付けておくことにした。しかし、そこには残忍な雌の狼がおり、それはシゲイルの母が魔法で身を変えられていたものであった。その雌狼は夜ごとにやってきて、10人の兄弟を一人づつ喰い殺していくのであった。そして、ついにシグムンド一人だけになってしまった。シグニュは自分の信頼できる家来を密かに使いに出しそのことを聞き出すと、その家来に蜜をもたせそれをシグムンドの顔に塗り口にも含ませておくように命じた。
すると夜中になって、いつものように狼が現れシグムンドに近づいたが、蜜につられてそれをなめているうちシグムンドの口の中の蜜もなめようと口の中に舌を入れてきた。妹シグニュの作戦を察していたシグムンドは、口だけはうごかせたのでその狼の舌に思い切りかみついた。びっくりした雌狼は大暴れし、そのおかげでシグムンドを縛り付けていた木が折れ、縛めはゆるんでシグムンドは自由となった。シグムンドはそのまま狼の舌をかみ切って、それを殺して兄弟たちの敵をうった。
これを知るとシグニュは早速森へと忍んでいき、兄シグムンドと会って今後の復讐のことについて話し合った。シグムンドは、ひそかに森の中に小屋を作って復讐の時を待つことにした。シグニュは、すでに二人の男の子をもうけていたが、その上の子が10歳になるので復讐の役にたつならばと、シグムンドのもとに送り込んできた。シグムンドは、その子の度胸をためそうと小麦粉の中に「まむし」をいれておき、自分が薪をとりに行っている間に「パン」を焼いておくように命じてみた。しかしシグムンドが戻ってきたとき、その子は何もしていなかった。わけを聞くと小麦粉の中に何やら得体のしれない生き物が入っていたので、手をつけることができなかったと言った。シグムンドはガッカリして、それをシグニュに伝えた。するとシグニュは、そんな子は生きていても何の役にもたたないから殺してよいと返事をしてきた。
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