伝統のハタ・ヨーガ
伝統的なハタ・ヨーガは総合的・全人的なヨーガ道である。具体的には制戒、坐法(アーサナ)、浄化法(シャトカルマ)、印相(ムドラー)、調気法(プラーナーヤーマ)、瞑想(ディヤーナ)である。
ヨーガには大きく分けて古典ヨーガとハタ・ヨーガという二つの流れがある。ハタ・ヨーガは生理的・身体的な修養を軸とする。また、古典ヨーガは心の作用の止滅を目指したのに対し、イメージを活用して心を統御しようとするハタ・ヨーガは、むしろ心の作用を活性化させる傾向を有するものと見ることができる。ハタ・ヨーガの古典『ゴーラクシャ・シャタカ』は、『ヨーガ・スートラ』の説く八支則(アシュターンガ、アシュタ=八、アンガ=肢)のうち、ヤマ(禁戒、制戒)とニヤマ(勧戒、内制)を除く六つをハタ・ヨーガの六支則とする(ハタ・ヨーガの六支則については後述)。
スヴァートマーラーマは自身の著書『ハタ・プラディーピカー』の中で、ハタ・ヨーガをラージャ・ヨーガの前段階として位置づける。そして、ラージャ・ヨーガはハタ・ヨーガなしには成立せず、ハタ・ヨーガはラージャ・ヨーガなしでは成立しないと繰り返し述べている。ここでいうラージャ・ヨーガは、一般に『ヨーガ・スートラ』の古典ヨーガのことと解される。両者の主な相違点は、ラージャ・ヨーガで行う坐法は、瞑想状態を維持するために身体を整える目的で行われることである。
したがってラージャ・ヨーガは瞑想に重点を置き、そのために蓮華座 (結跏趺坐)、達人座 (en:siddhasana)、安楽座 (en:sukhasana)、正座 (vajrasana) といったポーズを行う。ハタ・ヨーガは、瞑想以外にも身体の訓練を目的とする坐法も行う。ラージャ・ヨーガで行うプラーナーヤーマ(調気法)に、バンダ (Bandha)(締め付け)を伴わないことと類似している。
ハタは熱い物と冷たい物のように相反するエネルギーを表す。(炎と水など陰陽の概念と同様に)男性と女性、プラスとマイナスなどである。ハタ・ヨーガは、身体を鍛練するアーサナと浄化の実践、呼吸のコントロール、そこから得られるリラクゼーションと瞑想によってもたらされる心の落ち着きを通して、精神と身体の調和を図る。アーサナは体の平衡を保つ訓練である。アーサナによってバランスが取れ、鍛えられると心身ともに健康になり、瞑想の素養となる。ただし、痰や脂肪の多い人はプラーナーヤーマより先に浄化法を行うことが必要である。
アシュターンガとは、パタンジャリが編纂した『ヨーガ・スートラ』に書かれている8支則のことである。すなわち、倫理遵守に関わるヤマ (Yama)(禁戒)とニヤマ(勧戒)、アーサナ(坐法)、調気法であるプラーナーヤーマ(調息)、感官を外界から内に引き戻すプラティヤーハーラ(英語: pratyahara)(制感)、思念の集中であるダーラナー(英語: dharana)(凝念)、瞑想であるディヤーナ(静慮)、高度な心の抑止の境地であるサマーディ(三昧)の8つである。8支則は、正確には8段階の修養過程であり、段階ごとに効果が顕れ、それが次の段階の基礎となる。パタンジャリのアシュターンガ・ヨーガ(八支ヨーガ)はラージャ・ヨーガと混同されることも多いが、『ヨーガ・スートラ』自体にはラージャ・ヨーガという言葉は使われていない。
ハタ・ヨーガは、六支則に基づいてサマーディ(三昧)に到達しようとする。ハタ・ヨーガの六支則とは、アーサナ(坐法)、プラーナーヤーマ(調気法)、プラティヤーハーラ(制感)、ダーラナー(集中)、ディヤーナ(無心)、サマーディ(三昧)である。ハタ・ヨーガの原点となる教典は、サハジャーナンダの高弟であるスヴァートマーラーマによって書かれた『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』である。ハタ・ヨーガで重要なのは、クンダリニーの覚醒である。ハタ・ヨーガの成果は、次のように現れるとされる。身体が引き締まる、表情が明るくなる、神秘的な音が聞こえる、目が輝く、幸福感が得られる、ビンドゥー(英語: bindu)のコントロールができる、エネルギーが活性化する、ナーディーが浄化される、など。
プラーナーヤーマ(調気法)
プラーナ(生命力)とアヤマ(拡張する、または調節する意)の2語から成る言葉。プラーナーヤーマは呼吸を長くし、コントロールして整える。その方法には、レーチャカ(呼気)、プーラカ(吸気)、クンバカ(英語: Kumbhaka)(通常の吸って吐く程度の間呼吸を止めること、保息)の3種がある。プラーナーヤーマは精神的、身体的、霊的な力を高めるために行う。しかし危険を伴うこともあるため、習得できるまでは経験豊富な指導者の下で行うことが必要とされている。
0 件のコメント:
コメントを投稿