ところが、ここにとんでもないことが起こった!
PMから、唐突に何の前触れもなく
「YさんとKさんは、来週から別のシステムに異動になります・・・」
と、非常識な宣言がなされたのだ!
後から、理由を聞いたことろでは
「本番移行が始まる他システムの方から、人を出してくれと頼まれたから仕方がなかった・・・」
と言い訳していたが、選りにも選っていても役に立たないどころか、足を引っ張るだけの無能なMだけを残すとは!
しかも、元々いた技術者2人のうちの1人は既にトンズラしていたから、実質的にはC国人技術者1人に頼らざるを得ない状況だ。そのトンズラを決め込んだC氏が
「情報がまったく落ちてこない・・・」
と常々文句を言っていたが、まさにその通りで今回のようなやり方が当たり前となっていた。そのようにして、常に皺寄せを食い続けたC氏でなくとも、トンズラしたくなろうというものだと思えた。
いずれにせよ、これから本格的なシステム移行が順次始まろうという矢先で、まったく計画性のない行き当たりばったりの対応ばかりである。
元々、3人しかいなかったworkerのうちの2人を取られたのだから、残るは自分とMしか居ない。といっても、Mは「0.5人/月」どころか「マイナス0.5人/月」が実情だけに、こちらが「2人/月」以上の働きをしなくてはいけなくなった。
既存のチャイナ系技術者は最もスキルが高かったが、これは障害対応などを一手に受けていたため、移行などの作業にはフルに使えない状況だ。結果として、この「無謀な異動」によって殆どの依頼を自分ひとりで対応し、なおかつ稀代のバカモノの面倒まで見なければならないという、前代未聞の最悪の展開を迎えることになった。
ようやく入退室のセキュリティカードが発行された時は、入場から実に1ヶ月が経過していた。その時点に到っても、まだ席を作ることが出来ないという非常識さだ。結局、席を作る見通しが立たず、空きのある別システムのフロアを「間借り」するというバカゲタ結果になった。
移動した新しいフロアでは席がPMの隣となり、なにかと監視される居心地の悪さの中、次のサブシステムの移行が始まろうとしていたが、相変わらずPMからもT氏からも情報は降りてこなかった。
Mのダメっぷりは、そろそろPMやT氏にも知られるところとなった。この頃は、移行前の性能試験の追い込みに入っていた。Fの担当者が作ったシナリオの出来が悪いためのトラブルに見舞われた時などは、初日の朝9時から翌日夜10時までの「37時間勤務」に付き合わされるハメとなった。朝から深夜まで、ぶっ通しで性能試験に付き合わされた挙句に「シナリオが違っていた」では、泣くに泣けない。それまで、どうしても思うような結果が出ないのだから、どこかがおかしいと気付きそうなものだがFの担当は、ひたすら同じことを繰り返すしか芸がなかった。
ともあれ、シナリオが狂っていたのは動かしがたい事実だけに、修正する以外にどうにもならない。担当は、関係者を集めて言い訳を交えて説明したため、PMは
「よくわかんねー説明だ・・・」
と、呆れ顔だった。
「ともかく、これからシナリオを作り直すってんだから、3時間くらいはやることがないだろう。2人は今のうちに仮眠していてもいいし、場合によっては外に出て行ってもいいよ。あまり遠くまで行かれると困るが、連絡さえついて呼んだら直ぐに帰れる範囲でなら・・・」
「仮眠」と言っても仮眠室があるわけではなく、大勢の作業者が居る現場でパイプ椅子を並べて寝るしかなく、そんなことなら外に出た方がましだ。漫喫でもないかと思って駅まで行ったが、東京とは思えない田舎の駅だから漫喫1件もなく、散々歩き回った末にようやく都市部ではお目にかかったことのないような、貧相な「カラオケBOX」が目に付いた。
「あんなところに居ても息が詰まるだけだから、オレはここで休んでいくことにするよ・・・」
相変わらず、金魚の糞のようにくっついて来たMに言うと、例によって無言のまま一緒に入ってきた。
「カラオケをするのではなく、しばらく横になって休みたい」
というと、通された部屋は畳の和室だった。
「ソファの部屋の方がいいな・・・」
と言ってソファに変えてもらったが、これが失敗だと気付くのに時間は掛からなかった。
なにしろソファが狭く、足を伸ばして寝られるサイズではないうえに、涼しいだけ助かると思ったのは最初だけで、ちょうどソファの真上にあるエアコンからまともに風が吹き付けてきて、涼しいどころか寒くて寝られたものではなかった。せめて、頭の上のエアコンだけでも止められないかとコンセントを探してみたが、たくさんありすぎてどれが該当するものか特定できない。フロントへ行って聞いてみると
「あのエアコンは集中制御のため、止めることが出来ません・・・」
と言うことだ。
「ならば、部屋を変えてくれ」
と頼んだが、既に満室になっているという。仕方なく、寒いのを我慢してともかく横になっていたが結局一睡も出来ぬまま、明け方になるとPMから
「そろそろ始まるので、戻ってきてくれ」
と、携帯に連絡が来た。北国のように寒いカラオケBOXから、再び暑い現場へと戻ったのが午前5時ごろだ。そこから延々、ぶっ通しで性能試験は続き、終った時は夜の10時を回っていた。
前日朝9時から~翌22時まで、連続37時間という狂気。その間、カラオケBOXに3時間ほど居る時間があったとはいえ、3度の食事は総てコンビニか弁当屋で買ってきた粗末な弁当を、蒸し風呂のような暑い現場で汗を流して掻きこむという異常さだ。幸か不幸か現場から近いワタクシは、大回りをして30分以上掛かる電車よりは、直線に近いバスなら10分で通えるため普段はバスで通っていた。が、このバスも22時過ぎにはなくなってしまうだけに、トラブル対応など深夜に及ぶことが多い現地作業の時は、バスがなくなるケースが多かった。
地方出身者の感覚では、22時や23時過ぎの電車というのは空いているものだと思っていたが、東京の電車はどれもこのような時間帯でもラッシュ並みの混雑は変わらず、特に普段乗っている中央線や山手線に到っては、終電がいつもラッシュ並みの大混雑なのである。
現地作業で疲れた体で、満員電車を乗り継ぐのが億劫で
「(自転車の置いてある最寄り駅まで)バスで10分だから、タクシーでもしれてるだろう」
と思いタクシーに乗ったところ、1350円だったことに味を占め、それからはバスがない時間帯は自分だけタクシーで帰っていた(他の者は仕方なく、作業場所のパイプ椅子で夜を明かしていた)