現地作業などでは必ずPMかT氏が一緒に付くだけに、最早それらの眼からMのバカを隠し覆うことは出来なくなっていた。
ある現地作業で、Mと分担して性能試験の対応をしていた時のことだ。MにPMが付いて作業を監視している時に、つまらないミスをやらかした。自分の作業がひと段落着いて、Mのところへ行くと
「要するに、作業目的を理解できていないということじゃないのか?」
と、PMから怒られていた。
「自分のやろうとしていることを、理解できているか?」
「・・・」
「返事が返ってこないんだけど・・・」
珍しく、PMがかなり苛立っていた。
「どうなんですか、Mさん!」
「理解・・・できています・・・」
「じゃあ『二百多重』とはどういう意味か、説明してみて!」
「・・・」
「黙ってちゃ、わかんないでしょ!」
と、PMが困ったようにこちらを見た。
「わからんのだったら、正直にわからんと言え!」
と、思わずこちらも苛苛して怒鳴りつけると
「わかりません・・・」
とボソリ。PMが頭を抱える。
この際、PMが怒ってNGにでもなればちょうど好都合だと思ったが、意外なことに
「じゃあ説明するから、よく聞いていてください」
といって、丁寧に説明を始めた。
ところが、無表情なMはいつものようにまったく反応がないから、聞いているのか居ないのかまったく手応えがない。
「今の説明を理解できたか?」
「・・・」
「理解できたのか、出来なかったのか、どっちなんだ?」
「えーっと・・・」
「だから、えーっとじゃなくて・・・」
「理解できなかったから、もう一回説明してくれと言えばいいじゃん!」
最早こうなればやけくそで、徹底的に正体を見て貰いさっさとNGを突きつけてくれと願う心境だ。が、辛抱強いPMは、何故かまだ「NG」を出さなかった。
性能試験はこの後も暫く続いたが、以前にトンズラした既存の技術者の代わりとして、ほどなく新人が入場してきたことで
「現地での性能試験はピークを超えて、これからは性能監視がメインになるから、新しく来たKさんを中心に対応してもらう。しばらくはMさんにサポートで残ってもらい、オレやTもこっちで対応することが多いから、にゃべさんは某拠点でコントロールをして下さい」
というPMの指示で、ようやく「地獄」から釈放されることとなった。
現地での「性能監視対応」は一本立ちしたK君に任せることになり、居ない方が望ましい無能なMがまた某拠点に戻ってきて、平和が乱されることになる。
Mはその後も、任された作業で中途半端な対応をしてPMから説明を求められ、立ち往生する場面が多く見られた。なにせPMの隣が自分の席だけに、知らぬ顔をしているわけにもいかないから、Mに代わって
「Mの意図は、おそらくこういうことでしょうが・・・」
と何度もフォローした。
「オレは、いつもMさんに説明してくれと言ってるのに、なんでいつもにゃべさんが説明するのか?」
とも言われた。考えてみれば、フォローをして文句を言われるのもバカバカしいし、同じようなケアレスミスを繰り返すMは、フォローのし甲斐がまったくない相手だ。そんなことを考えている時、遂に決定的な場面がやって来た。
「この資料を見ると、SSL証明書の期限が違っているんだが。これは、本当に正しいのか?
Mさんが間違っていると思うが・・・もし本当なら・・・期限が切れていたら大変なことだぞ・・・」
と、いつにない激しい追及にあっていた。漏れ聞こえてくる話からして、大方Mの勘違いだろうと当たりをつけていたが、ここは敢えて知らぬ顔を決め込む。
「あ・・・」
「どうなんだと聞いてるんだけど・・・返事が返ってこないんだけど・・・」
「・・・」
「ちゃんと自分の目で設定を見て、確認したのか?」
「・・・・」
「どっちなんだって?」
「確認してませんでした・・・」
「は?
なんで確認しなかったの?」
「・・・」
追い詰められて汗ビッショリ、しどろもどろになりながら説明をしていたが、元々ジーさんのような聞き取りにくいくぐもった声の上、小さい声でもごもごと言っている。おまけに話の内容も支離滅裂だったから、傍目にも聞いていられなかった。
今回、敢えて突き放してみただけに、これまでに薄々は感じていたであろうPMにも、Mの想像以上のバカさ加減が遂になんの遮蔽もなく顕わになった。
「もう、いいよ・・・」
というと勢いよく席を立ったPMは、会議室に入ると携帯を取り出した。
(いよいよ、これでMはNGだな・・・)
とPMを視線で追っていくと、電気が消えたままの薄暗い会議室でしかめっ面をしたPMが延々と携帯で話している。
(ええ・・・Mさんですけど、あれはちょっと酷いですね・・・スキル的な部分だけでなく、それ以前にそもそもコミュニケーションも満足に取れないので、ちょっとこれ以上使っていくのは無理かな・・・)
と、営業に「NG」の三下り半を突き付けている様子が聞こえてくるようだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿