2010/12/30

限界?(プロジェクトF)(6)

現地作業などでは必ずPMかT氏が一緒に付くだけに、最早それらの眼からMのバカを隠し覆うことは出来なくなっていた。

 

ある現地作業で、Mと分担して性能試験の対応をしていた時のことだ。MにPMが付いて作業を監視している時に、つまらないミスをやらかした。自分の作業がひと段落着いて、Mのところへ行くと

 

「要するに、作業目的を理解できていないということじゃないのか?」

 

と、PMから怒られていた。

 

「自分のやろうとしていることを、理解できているか?」

 

「・・・」

 

「返事が返ってこないんだけど・・・」

 

珍しく、PMがかなり苛立っていた。

 

「どうなんですか、Mさん!」

 

「理解・・・できています・・・」

 

「じゃあ『二百多重』とはどういう意味か、説明してみて!」

 

「・・・」

 

「黙ってちゃ、わかんないでしょ!」

 

と、PMが困ったようにこちらを見た。

 

「わからんのだったら、正直にわからんと言え!」

 

と、思わずこちらも苛苛して怒鳴りつけると

 

「わかりません・・・」

 

とボソリ。PMが頭を抱える。

 

この際、PMが怒ってNGにでもなればちょうど好都合だと思ったが、意外なことに

 

「じゃあ説明するから、よく聞いていてください」

 

といって、丁寧に説明を始めた。

 

ところが、無表情なMはいつものようにまったく反応がないから、聞いているのか居ないのかまったく手応えがない。

 

「今の説明を理解できたか?」

 

「・・・」

 

「理解できたのか、出来なかったのか、どっちなんだ?」

 

「えーっと・・・」

 

「だから、えーっとじゃなくて・・・」

 

「理解できなかったから、もう一回説明してくれと言えばいいじゃん!」

 

最早こうなればやけくそで、徹底的に正体を見て貰いさっさとNGを突きつけてくれと願う心境だ。が、辛抱強いPMは、何故かまだ「NG」を出さなかった。

 

性能試験はこの後も暫く続いたが、以前にトンズラした既存の技術者の代わりとして、ほどなく新人が入場してきたことで

 

「現地での性能試験はピークを超えて、これからは性能監視がメインになるから、新しく来たKさんを中心に対応してもらう。しばらくはMさんにサポートで残ってもらい、オレやTもこっちで対応することが多いから、にゃべさんは某拠点でコントロールをして下さい」

 

というPMの指示で、ようやく「地獄」から釈放されることとなった。

現地での「性能監視対応」は一本立ちしたK君に任せることになり、居ない方が望ましい無能なMがまた某拠点に戻ってきて、平和が乱されることになる。

 

Mはその後も、任された作業で中途半端な対応をしてPMから説明を求められ、立ち往生する場面が多く見られた。なにせPMの隣が自分の席だけに、知らぬ顔をしているわけにもいかないから、Mに代わって

 

「Mの意図は、おそらくこういうことでしょうが・・・」

 

と何度もフォローした。

 

「オレは、いつもMさんに説明してくれと言ってるのに、なんでいつもにゃべさんが説明するのか?」

 

とも言われた。考えてみれば、フォローをして文句を言われるのもバカバカしいし、同じようなケアレスミスを繰り返すMは、フォローのし甲斐がまったくない相手だ。そんなことを考えている時、遂に決定的な場面がやって来た。

 

「この資料を見ると、SSL証明書の期限が違っているんだが。これは、本当に正しいのか?

Mさんが間違っていると思うが・・・もし本当なら・・・期限が切れていたら大変なことだぞ・・・」

 

と、いつにない激しい追及にあっていた。漏れ聞こえてくる話からして、大方Mの勘違いだろうと当たりをつけていたが、ここは敢えて知らぬ顔を決め込む。

 

「あ・・・」

 

「どうなんだと聞いてるんだけど・・・返事が返ってこないんだけど・・・」

 

「・・・」

 

「ちゃんと自分の目で設定を見て、確認したのか?」

 

「・・・・」

 

「どっちなんだって?」

 

「確認してませんでした・・・」

 

「は?

なんで確認しなかったの?」

 

「・・・」

 

追い詰められて汗ビッショリ、しどろもどろになりながら説明をしていたが、元々ジーさんのような聞き取りにくいくぐもった声の上、小さい声でもごもごと言っている。おまけに話の内容も支離滅裂だったから、傍目にも聞いていられなかった。

 

今回、敢えて突き放してみただけに、これまでに薄々は感じていたであろうPMにも、Mの想像以上のバカさ加減が遂になんの遮蔽もなく顕わになった。

 

「もう、いいよ・・・」

 

というと勢いよく席を立ったPMは、会議室に入ると携帯を取り出した。

 

(いよいよ、これでMはNGだな・・・)

 

PMを視線で追っていくと、電気が消えたままの薄暗い会議室でしかめっ面をしたPMが延々と携帯で話している。

 

(ええ・・・Mさんですけど、あれはちょっと酷いですね・・・スキル的な部分だけでなく、それ以前にそもそもコミュニケーションも満足に取れないので、ちょっとこれ以上使っていくのは無理かな・・・)

 

と、営業に「NG」の三下り半を突き付けている様子が聞こえてくるようだった。

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