2010/12/02

劣悪な環境(プロジェクトF)(2)

この業界では「OJT」などという親切ものがあるはずはないが、この時はサーバ関連の業務でバックアップだかリカバリか何かに失敗して、大混乱していた。そのため、サーバ側で採用された中で特にスキルの高そうな2人が、その対応で呼ばれて「拉致」されていく。サーバに比べ、ネットワークの方はまだ余裕があったらしいとはいえ、無論初回説明などはなく

 

「まだ席が作れずPCも使えないので、取り敢えずは設計書などの資料を見ていてもらいたい」

 

と、PMから指示が出る。

 

「今日は担当のTが休んでいるので、具体的な作業のスケジュールなどは明日、Tが出てきたら話しましょう」

 

ということだった。

 

まだ入ったばかりだから、この時点では勿論T氏の稼働があんなにも酷く、またあれほどいい加減な人物とは想像だにしていなかった。サーバチームの方は、初日の午前中に「拉致」されていったスペシャリストらの調査の結果、バックアップだかリカバリだかが上手くいっていない件で、その復旧にはとんでもなく人手が必要となるということが判明し、その対応として木曜日には新規参入の10人を超える全員が作業場所に狩り出される。駅で待ち合わせをして、初日から対応に当たっていた担当者に案内してもらいながら話を聞くと、初日の午前中に「拉致」されて以降、ぶっ通しの徹夜作業で水曜日の朝まで「48時間連続勤務」、一旦帰宅して少し寝たが水曜の夜にまた呼び出され、今まで対応していたということだった。

 

なんとも恐ろしい話だが、この現場ではこのくらいは日常茶飯事のように行われていたことが、すぐに判明する。しかも稼働負荷が高いばかりではなく、作業場所となるこの役所の施設が蒸し風呂のように異常に暑かった(通常いるオフィスは、まだマシだったが)。連日、35度を超える茹だるような猛暑だというのに、冷房がまったく動いていないのだ(この時は、まだ福島の原発事故前の話である)

 

健康ランドの脱衣所にあるような大型の扇風機が何台かあったが、どれも見当違いの方向を向いていて一向に風が来ない上、そもそも冷房の入っていない蒸し風呂のような部屋だから、単に熱風をかき回しているに過ぎず、団扇や扇子で扇ぎ滴り落ちる汗を拭きながらという劣悪な環境である。これに人の多さが、暑さに余計に拍車をかける。特に「本番移行」となると、各チームの関係者が集まるためか、そんなに狭くもない作業場所が人で埋め尽くされていたため、これが益々部屋の温度を上げていた。一旦、トイレやタバコなどで席を立ってから戻ってくると、それまで座っていた場所に誰かが座っているということも多く、作業PCすら数が不足していて満足に使えないということも珍しくなかった。

 

ある本番作業で、9時に現場に入ると既に立錐の余地もないくらいに埋まっており、座る場所がないということもあった。が、見渡してみると、常に居るだけで殆ど作業らしきことをしていない者が多く、実質的には半数もいれば充分なのではないかと思えた。さらに、この暑さに拍車をかけていたのがFのマネージャー連中である。Fと言えば、日本を代表するような大手電機メーカーだから、そのマネージャーともなればれっきとしたエリートのはずだ。が、マネージャークラスの面々は「エリート」のイメージとは遥かにかけ離れて、なぜかヤー公か土方のように極めて柄が悪いのが揃っていた。

 

現場作業は、マネージャーより下の者が仕切っていたが、障害など何らかの問題が出ると「責任者」のマネージャーが登場してきて、部下のPLを相手に聞くに堪えないような汚い罵詈雑言で怒鳴り散らすのが恒例となっていた。

 

「障害など何らかの問題が出ると」と書いたが、実際の本番作業では殆ど問題なく終ったためしがなく、必ず何らかの問題が発生してマネージャーが出てくる、というのが「お約束」のようになっていた。おまけに最寄り駅の周辺はそれなりに栄えていたが、駅から徒歩10分以上にある現場の周辺はまったくなにもないところで、食事は近所の薄汚い弁当屋か1件だけあったコンビニで済ませるという、実に劣悪な環境だった。しかも設定変更や移行といった本番環境の作業は、当然のことながら深夜に行われる。となると弁当屋は閉まっているから、1件しかないコンビニ以外に選択肢はなかったが、そのような作業の時は多くの関係者が出ているので、残り物にしてもろくなものが残っていないという悲惨さである。

 

このようにして、ただでさえ劣悪な環境をなんとか我慢して作業に当たりながらも、ガラの悪いFのマネージャーの激怒の矛先が、いつこちらに向いてこないとも限らないという別の緊張感の中で、みな針の筵に座らされているような心境だった。

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