2010/12/09

謎(プロジェクトF)(3)

翌日の金曜に出勤すると、いつもは長テーブルに雁首を並べているサーバチームのメンバーは一人も居なかったが、代わりに見知らぬ男が一人座っていた。どこからも紹介も挨拶もなかったので、知らぬ顔を決め込んでいたが、そのうちに話してみると「ネットワークチームのメンバーとして採用された」ということだった。

 

聞けば、その週に「メンバー面接」が行われたとのことで、その面接では6人が参加して3人が採用されたという。

 

3人が採用されたって・・・じゃあ、後の2人は?」

 

見たところ、アナウンサーのようによく通る声で説明をした、このY君以外の人間は来ていない。

 

「一人は残作業があって、来週途中から入場と言っていました・・・」

 

「なるほど・・・で、もう一人は?」

 

「もう一人は・・・昨日は来ていましたけど、今日はまだ見掛けていないですね・・・私とその人は一昨日が面接で、昨日からここに来ています」

 

という。前日は現場作業に狩り出されて、池袋のオフィスには来ていなかった。

 

週が明けて火曜になると、Y君が「一人は残作業があって、来週途中から入場」と話していた若いK君が入場してきたが、先週Y君と一緒に入場したというMという人物は、まったく姿を見せなかった。

 

「で、もう一人一緒に入ったと言ってた人は、どうなったんだろう?」

 

「いや、私はまったくわかりません・・・寧ろ、私の方が聞きたいくらいで・・・」

 

「先週の木曜に入場して、その後、金、月、火と来ていない・・・連絡とかしてなかったら相当に拙いな・・・」

 

「拙いですね・・・」

 

といっていたが、PMからもT氏からもそれについて何の話も、逆に何かを聞かれることもなかった。

 

ともあれ新規参入組のリーダーとしては、このまま放置しておくのも拙いと思い、T氏に聞いてみると

 

「そういえば、出てきてないですか・・・?

なにも連絡とか、来てねーなー」

 

と、暢気なことを言った。

 

元請の営業に、ことの次第を伝えると

 

「それは大変だ・・・なにも聞いてなかった。直ぐに所属会社に確認してみる」

 

と大慌てだったが、翌日になってようやく出勤してきた。

 

新規参入の4人が揃ったところで、既存のメンバー4人が集められた。

 

「にゃべさんは新規メンバー4人のリーダーとして、またオレの代わりを期待している。 今後はTと相談しながら、推進役をお願いしたい。後の3人は、当面はTやにゃべさんの指示に従って、既存の技術者2人と協力またはサポートしてください」

 

という説明はあったが、具体的な作業指示はなくその後の数日間は、殆ど終日資料を読むだけに費やされた。さらに信じ難いことに、数日程度の我慢と思っていた座席も

 

「まだ席が作れずPCも使えないので、取り敢えずは設計書など資料を見ていてくれ」

 

という状態が、延々と続いた。

 

サーバチームは先に触れたトラブル対応で忙しいため、殆どが交代で現場に張り付いていた。現場の粗末なパイプ椅子がすっかり常駐席になっているらしく、池袋のオフィスにいるのは10人以上いるうちの常に数名に過ぎなかった。残りの「待機組」と、我々ネットワークチームの4名が「打ち合わせ用の長テーブル」に雁首を並べている状況は、延々1ヶ月に渡って続いた。

 

そんな中、サーバチームの要員として一緒に入場しながら、勝手に「リーダー面をした振る舞い」をしていた50代の二人は、1ヶ月で早々に「スキル不足」でNGとなり、現場から姿を消していた。ネットワークチームの方も、新規参入のWorkerたちは障害対応などなにかと理由をつけて、暑い現場へと狩り出されていった。

 

ようやくにして、PC設置の許可が出たのが半月以上経過した頃で、オフィスへの入退場に必要となるセキュリティカードの発行に到っては丸1ヶ月掛かり、それまでは毎朝ゲストカードを借りて入退室する日が続いた。

 

そうした悪環境を呪っていた技術者の1人が、遂に本番移行前に「体調不良のため入院」と称してトンズラを決め込み、また元々稼働が酷かったらしいT氏は半分程度しか出てこなかったため、残ったメンバーの負荷が益々高まる。ほぼ同じ時期に入ったメンバー3人のうち、YとKの2人はレベルが高いとはいえないまでもそこそこ使えるレベルだったが、残る1人のMというのがトンデモなく酷いことが判明した。

 

過去に色々な現場で多くの技術者を見てきたワタクシでさえ

 

(こんなに使えないバカは、これまで見たことがない)

 

という酷いレベルだった。

 

単に技術力が低いと言うだけでもITの現場としては致命的だが、このMの場合はそれだけでは済まず、コミュニケーション力を含めたなにもかもが、まったくダメだった。技術者として以前に、社会人としてまったく使えないのだ。

 

実に、会話すらまともに成立しなかった。なにせ、殆ど喋らないのである。

 

昼休みになると、みなで揃ってランチを食べに行くのが恒例になっていた。駅前に店がたくさんあって、その日どの店に入るかは交代で選ぼうということになったが、Mだけは自分の意思というものがまったくない。

 

「どこにするの?」と聞いても「え・・」とか「あ・・・」という以外にまともな返事が返ってこず「面倒だから、こっちで決めていいか?」といえば「ハイ」としか言わない。食事中も、まったく口を利かなかった。

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