2010/12/16

ダメ男(プロジェクトF)(4)

大体において、このような無口な人間と言うのは仏頂面でぶすっとしていて雰囲気を悪くする「悪意の無口」か、或いはなにも喋りはしないがニコニコしていて雰囲気を壊さない「善意の無口」の二つのタイプに別れると思っていたが、このMに限ってはそのどっちにも属さなかった。

 

「ぶすっとして雰囲気を悪くする」ことはないが、さりとて「ニコニコとして人の話に耳を傾けたり、笑ったり」ということもなく、置物のように無表情にじっと座っているだけである(もちろん、置物ほどの魅力や存在感も皆無だったが)

 

小太りで髪の半分以上が白髪のMだけに、第一印象では50歳くらいに見えたから30代後半と知った時には驚いた。見た目が老けているというだけでなく、動作も緩慢で老人くさかったし、一緒に食事をしていても食べるのが異常に遅い。早い話が30代後半という働き盛りとは思えず、著しく「覇気」に欠けていた。

 

無口な人間でも、毎日同じ顔ぶれで食事をして居れば次第に打ち解け、会話にも参加してくるだろうと思っていたが、Mが打ち解けることは最後までなかった。自分から会話を始めたり、誰かに話しかけるということはただの一度もない。それでも当初は、それぞれが気を利かして話しかけていたが、常に「ハイ」のひと言で終わったり、何を言っているかわからないような、ろくな返事が返ってこなかったりが続いたことで、そのうちに声を掛ける物好きも居なくなった。

 

不思議なことに、それでも毎日金魚の糞のようにくっついてくるのである。正直、まったく会話が成り立たないMは居るだけ邪魔だったが、敢えて「来るな」と言うことも出来ないから、弁当を買ってきて済ませるなどの行動に期待していたが、遂にまったく喋らないまま最後まで一緒にくっついて来た。

 

ある時、遂に業を煮やしてMを喫煙所に誘い

 

「昼とか我々と一緒に行きたい?

本当は、一緒に行きたくないとかってことはないかな?」

 

と、単刀直入に聞いた。こういう愚図な相手には、遠回しではダメでズバリと聞いた方が良い。Mはいつものように、照れ笑いを浮かべて黙っている。

 

「どっちか、と聞いてるんだが・・・」

 

「あ・・・行きたいです・・・」

 

「本当に?」

 

「・・・はい」

 

「正直、一緒にいても全然話さないから、もしかして嫌々というか義理でくっついてきているのかな、と思ってね。もしそうだったら、まったくそんな気遣いは必要ないんだ。みんなと一緒が嫌なら、弁当を買ってきたり一人で行ってもいいし。

 

『オレは、一人で行くのが好きだから』

 

と言えば、全然構わない。オレだって、実はあーやって大勢で行くのはあまり好きじゃないんだよね」

 

「・・・」

 

「そーじゃないの?」

 

「はい・・・」

 

「みんなと一緒に居て楽しいのかな?」

 

「・・・はい」

 

「正直、まったく楽しそうに見えないんだが。全然、喋らねーしな・・・」

 

「はあ・・・」

 

「自分もそうだけど、多分他の連中からすれば全然しゃべらんのに、なんで毎日一緒に来るんだろうと、不思議に思ってるだろうな。直接そんなこと聞いたわけじゃないけど、みんなが会話で盛り上がっていても参加してこないしね。たぶん、悪気はなくて単にコミュニケーションが苦手なだけだと思うが、それなら無理に一緒に来る必要はないというだけのことで、別にそんな大層な話じゃないんだがね」

 

「はい・・・」

 

「別に今、この場で明日からどうするとか決める必要はないが・・・一緒に行きたければ行けばいいし、そうでなければ無理に付き合う必要はないというだけのことだ。ただ一緒に行くのなら、もう少し積極的に会話に参加するとかしないと、回りがしらけてしまうからね。いきなり積極的にというのは難しいかもしれんし、逆に他の連中も気味悪がるかもしれんが、多少なりとも会話に参加する姿勢は見せてはどうかな?

そうではなく今まで通りなら、他の連中とかのことも考えると正直、一緒でない方がいいように思うが・・・」

 

「あ・・・わかりました」

 

「どーもお節介で悪いね・・・で、どうするの?」

 

「もう少し、喋るようにしたいと思います・・・」

 

結局、最後まで一緒にくっついて来たM君が会話に参加することは、殆ど皆無だった ヽ( ̄ー ̄*)ノオテアゲ

 

Mは喋らないだけでなく、相当に頭が悪かった。

 

(なんで、こんなヤツを取ったのか?

いったい、どんな面接をしたんだ?)

 

と、ずっと疑問に思っていた。M以外の2人もスキルはそれほど高くはなかったものの、飲み込みが早く教えたことに対しての応用が利いたが、Mだけは理解力も応用力もまったく「小学生レベル」だった。

 

PMやT氏からの作業依頼は、リーダーの自分に降りてくる。それらの作業分担をメンバーに割り振る時は、必然的にM以外の2人に頼まざるをえず自然と2人の作業負荷が高まった。作業が立て込んだ時は、本来Worker想定ではないリーダーの自分までもが、役立たずのMの代わりや尻拭いで実作業をしなければならない。Mに作業を任せた場合は、100%期待外れの結果しか出てこないため、それを直すのにかえって余計な工数が掛かったり、誰かをサポートにつけても結局二度手間となって効率が悪くなるだけで、Mには「現場立会い」など頭も技術も使わなくて済む、単に「居るだけでいい作業」しか振れなかった。

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