2011/07/12

ビアガーデン(プロジェクトU)(2)

そんな、ある日のことだ。

 

登録していたベンチャーのB社から、この「大手物流業」の案件でようやく面接依頼が来た。商流が深いため、一つ上のM社というところの面接は飛ばして、M社が同行してもうひとつ上のA社に面接に行くと、あまり大きそうではない会社に相応しい広くもない会議室に、面接に来たと思しき優に10人以上が犇めいているではないか。

 

A社から、今回の「大手物流業案件」、すなわち「郵政民営化関連プロジェクトのNW対応」の概略と、それに必要なスキル要件の説明があり、これを基に順番に自己アピールをしてくれということで、10人以上が並んでいる隅の方から自己紹介と自己アピールを進めていった。

 

「今回の元請けは、大手SIerのC社です。今日の面接結果でOKとなった方は、C社の最終面談に進んでいただく段取りです」

 

と聞いて、やや引っかかった。

 

というのは、C社というのは大手商社系の有名なITベンダーで、CiscoのゴールドパートナーであることからもわかるようにNW系に強いベンダーということもあって、過去に2回くらいは面接に行っていたが、毎回スキル要件がバカ高くいつも面接でNGとはじかれてきた経緯があった。そのNGというのも訳の分からない理由だったり、面接設定された後で「充足した」とキャンセルになったりで、要するにこれまではロクなイメージがなかったため、これを理由に断ろうとしたが

 

「C社と言っても大きいから窓口はたくさんあって、これまでと同じとは限らない」

 

と営業に説得され、しぶしぶのエントリーとなった。

 

ところが、まずはC社の書類選考はクリアしたとのことで、いよいよC社の最終面接が設定される。過去の例から見ると面接でOKが出そうな感触は甚だ低そうだったが、ダメ元で面接に赴くと、面接会場となっていたのは大講堂とようなだだっ広い場所だ。各社から面接に来たらしき技術者が、ざっと見ただけでも軽く30人はいそうだった。

 

当然ながら、ここでもまずは案件内容と求められるスキル要件の説明があったが、もちろん前回のA社の説明とは違い具体的な内容だ。この説明を基に面接を始めるということだったが、なにせ人数が多いだけにC社の面接担当も3人ずつ3つくらいのグループに分かれ、技術者は3人ずつ呼ばれて順に面接をしていくという、流れ作業のようなスタイルをとっていた。

 

「今回の面接は、今日だけでなく何日かに分けて行う」というから、面接者は優に100人にも達しそうな勢いだが「今回の採用枠は5つや6つではなく、かなりの数がある」

との触れ込みだった。

 

面接での自己紹介と自己アピール後、質疑の時間が設けられ

 

「何か質問があれば、どうぞ・・・」

 

と振られたので

 

「先程の説明では、来週に入札があるとのことでしたが・・・こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、入札の結果次第では・・・?」

 

「結果次第では、と仰いますと?

ああ、なるほど・・・受注できなかったらということを、お聞きになりたいわけですね」

 

「まあ端的に言えば、そうですね・・・」

 

「それはまあ、入札なので100%確実とまでは保証できませんが、まず間違いないと思っていますよ。〇〇省には既存ベンダーとしての実績もあるし、過去実績を踏まえてリサーチしているので、まず問題はないはずです」

 

と自信たっぷりだから、これ以上こちらとしては突っ込みようがない。

 

また付け加えて

 

「また、もし仮にですが、万一そうなった場合も当社の他PJがたくさんなるため、どこかにスライドで入ってもらうことは可能」

 

とのことだ。

 

もちろん、この時点ではこの案件以外の他の案件にもエントリーしていて、そっちの方も並行して面接依頼が来ていたりしていたから

 

「まあ、こっちは面接に受かるかどうかもわからんから、受かったら考えればよいか・・・」

 

くらいに構えていた。

 

その面接を受けたのが、月曜日のことだった。

 

(あれだけの人数から選ぶとなると、結果が出るまでかなり時間がかかりそうだな・・・)

 

この時点では、このU案件以外にも面接依頼が幾つか入っていただけに、特にこれにこだわる必要もなく、それら幾つかあるうちの候補の一つくらいに考えていた。

 

翌々日の水曜日、日本橋三越のビアガーデンで飲み放題を楽しんでいるところに、B社から着信が入った。

 

「先日受けていただいたUプロジェクトの件で、元請けのC社から是非とも参画いただきたいという連絡が来ました」

 

ということで

 

「急ですが、来週頭から参画いただけないかと確認が来ていますが、対応可能でしょうか?」

 

「来週頭からか・・・確かに急ですが、まあ大丈夫ですよ・・・」

 

「では、その旨、伝えておきます。詳細は、追って連絡が来るということなので、改めて連絡差し上げます」

 

「それで、契約の方は?」

 

「それは、来週頭からの参画ということなので、明日明後日の内に急ぎ準備します。注文書と基本契約書の受け渡しのみですので、こちらの手続きはメールだけでも大丈夫です」

 

とのことだ。

 

「ちなみに今の並行状況の方は、いかがでしょう?」

 

「幾つか面接依頼があったり、調整中というのもありますが・・・」

 

「では、そちらの方はストップしていただけますか」

 

「はあ、わかりました・・・」

 

ということで

 

「ついに、Uプロジェクトに参画か~!」

 

という安心感からか、益々ピッチが上がった。

 

その日はビアガーデンから帰った夜遅くに、各社宛に

 

「他社案件で次週から参画が決定したため、今回は辞退させていただきます」

 

とメールを発信。今であれば、実際に契約を交わすまでは並行をストップするようなことはないところだが、この時はまだそこまで「摺れて」いなかった。

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