2011/07/11

民営化(プロジェクトU)(1)

郵政民営化の間もないころ、関連する大規模プロジェクトの求人情報があちこちから流れてきていた。

 

これまで国営で行っていた事業の民営化だけに、なにしろ規模が巨大である。

 

民営化に伴い、持ち株会社となる日本郵政をトップに、その配下に日本郵便、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の4つの組織に分割されるが、当時の情報を基にそれぞれどれだけの規模感かを示すと、以下の通りとなる。

 

●日本郵便

宅配便、小包取扱数は約23億超。業界最大手ヤマト運輸の宅急便とクロネコメール便を併せた約30億超に比べ一歩譲るものの、ガリバーであることに変わりない。

 

●郵便局

全国各地に普及している郵便局2万4千店は、大手コンビニチェーンのセブンイレブン(約1万2千店)の2倍。これにローソン(約8千店)、ファミリーマート(約7千店)の大手コンビニ三社を合算した数に匹敵する(2006年のデータ)

 

●ゆうちょ銀行

貯金・預金残高は約188兆円。これがいかに凄いかは「3大メガバンク」と比べれば一目瞭然。三菱UFJが約100兆円、三井住友が約66兆円だから足してもまだ追いつかず、3位のみずほ約54兆円を加えて、やっとこさゆうちょ銀行を上回るレベル。

 

●かんぽ生命

総資産は約122兆円。いわゆる「国内四大生保」と比較してみると、トップの日本生命でさえ約52兆円と半分にも満たない。2位の第一生命が約34兆円、これに3位の明治安田生命の約27兆円を加えて、どうにか近付いた。4位の住友生命の約22兆円を足して、ようやくかんぽ生命一社を上回った。

 

このように民営化となった場合は、どの組織を見てもいずれも「業界の超ガリバー」となるだけに、ひと口に「郵政民営化関連プロジェクト」の募集と言ってもプロジェクトは多岐に渡り、果たしてどの組織のどのPJを担当するのかは皆目見当もつかない。通常の求人のように「〇〇社の××プロジェクト」と書いてあれば、これまでの経験上からなんとなくプロジェクトの内容についてのイメージはできるが、当時毎日のようにメールで流れてきていた「郵政民営化関連プロジェクト」だけは、その内容にサッパリ見当がつかず

「なんだかよくわからんが、ともかく郵政関係のPJなんだな・・・」

と言う程度の理解で妥協するしかなかったのも無理ないくらい、これまでの常識は全く通用しない規格外の大プロジェクトといえた。

 

ところで、これまで見てきたように複数の組織に分割された、それぞれのプロジェクトが別個に走っていたのか、あるいは日本郵政という総元締めの親玉が全体をコントロールしていたかの実態は詳らかではないが、我々エンジニア側から見た場合の「郵政民営化関連プロジェクト」は、「サーバ」、「NW」、「DB」、「アプリケーション」、「ミドルウェア」というようにカテゴリ別の求人がされているように見えた。おそらくは上記に見て来たそれぞれの組織の中に「サーバ」、「NW」、「DB」、「アプリケーション」、「ミドルウェア」等の領域があり、その領域単位で入札を行っていたらしい。つまるところ、こうした企業側としてはシステム単位での受注となっていたからだ。流れてくる関連の求人情報を見る限りでは「郵政」というひとつの大きなくくりの中に、先の「NW」、「サーバ」、「アプリ」などの領域に分かれ、それぞれが入札をしているように見えたのである。

 

そうして、当然のことながらNWを専門とするワタクシのところに届くメールは、もっぱら「郵政民営化関連プロジェクトのNW対応」の求人になるわけだが、これだけの「正規のプロジェクト」だから、Ciscoゴールドパートナーを始めとした名だたるNIer数社によって、激しい入札の競争が繰り広げられたことは想像に難くない。

 

ここまでシステマティックなピラミッド構造が確立された業界において、末端の方で蠢いているワタクシのような一技術者のところに、それら入札競争を繰り広げているような「日本を代表する一流企業」から直接に声がかかるわけはなく、ピラミッドの頂点から水が低きに流れるように元請け、孫請け、三次請けと、下手をすればさらに仲介の会社を経由して、ようやくのことで「郵政民営化関連プロジェクトのNW対応要員募集」というメールが来るのだから、この求人の発信元たる元請けがどこかというところまでは、まったく見通せるわけがなかった。

 

それでも、これだけの大規模なプロジェクトだ。元請けはNWだけでも大手ITベンダーの数社は受注しているはずで、そこから子会社や下請け、孫請けと求人案件が流れてくるから、末端の三次請け、四次請けとなると一体何社が関わっているか判然としなかった。実際に、この頃はかつて取引のあった中小数社を始め、転職サイトを通じても聞いたことのない未知のベンチャーらしき企業からスカウトメールがバンバンと届いていた。元請けのITベンダーは言うまでもないが、その下に何社あるかわからない下請け、孫請けの多くの中小企業も関連プロジェクトでは大いに潤ったことであったろう。

 

とはいえ、スカウトメールが来たからと言って、すんなりと話がまとまるはずもなく、ことこの「郵政民営化関連プロジェクトのNW対応」に限っては声だけは良くかかるが、実際に面接が設定されるには至らなかった。求人メールに添付される情報のタイトルでは、なぜか「郵政」というキーワードは書いておらず「大手物流業」と記載されているのが暗黙の了解のようになっていた。

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