2011/03/03

最終日(プロジェクトS)(5)

「前にも言ったように残作業の引継ぎなどないし、退場手続きといってもカードやら鍵を返すくらいだから、それはわざわざ現場に出なくても営業ベースで処理して欲しい。現場の近くまでは行きますから、なにか書類に署名などが必要というなら現場の近くで書いて、営業に渡しますので。なんなら現場ビルまで行っていいが、中には入らずに済むようにして欲しい。もしどうしても出勤しろと言うのであれば、当月分の給料は請求します。ただし、明日は午後から面接が入っているので、午前中しか対応できませんがね」

 

翌日の午後に面接が入っているのは事実だった。

 

「ではその線で、ちょっと調整してみます・・・」

 

その日に、連絡が来た。

 

「先に言っていたように、特に引継ぎとかがなければという前提で、即退場でも良いということです。ただし条件が二つあって、ひとつは今月数営業日分の給料は出ません・・・出ないと言うか、うちとして上に請求できないので・・・」

 

「結構です」

 

「もうひとつの条件は、明日だけは出て欲しいとのことです。一応、残作業の引継ぎと退場の手続きがあるので、これはどうしても出てもらわないといけないらしい。引継ぎなど問題なく終われば、午前中だけでよいということです・・・」

 

「手続きは営業ベースでやってもらいたいと、お願いしたはずですがね。出ろと言うのなら、今月数営業日分の全請求が発生しますよ」

 

「それは、放棄すると言う話だったでしょ?

明日、手続きのため出てもらう分については当社が持ちますので、対応してもらえないかなー?」

 

と、社長は拝み倒さんばかりだ。ともあれ一日も早く出たいので、この月の数営業分の給与は「放棄」して、退出処理まで行うことを受諾する。

 

その日は、社長からiPhoneMMSメールで

 

「明日は本当に、よろしくお願いします。全て明日で終了しますので、よろしくお願いします」

 

と、暗に「トラブルを起こすなよ」というメールが飛んできた。とはいえ、このところPMとは顔を合わせれば怒鳴りあっていた(というよりは、PMの方がなにかとムチャ振りをしてきては、勝手に激昂している認識だった)のが現状で、最終日もどんなイチャモンをつけられるかわからず、したがってどんな泥沼な展開が待ち受けているかも予想できないという、波乱含みの様相なのである。

 

S社長からは

 

「にゃべさんはこれで終わりでも、うちとしては上の会社とは今後も営業的なことがあるので、残り期間はくれぐれも社会人としての常識を持って行動して欲しい」

 

と言われていたが

 

「最終日にも無理に出ろと言うならば保証の限りではない。そもそも、無理難題を言っているのは向こう(PM)であって、こっちは被害者なのだ。飛んでくる火の粉は、当然振り払うしかない」

 

とハッキリ伝えたものの、S社長(或いは、その上の会社の営業)としては、ともかく「最終日に出て、忠勤を尽くした」ということしか念頭になく、他のことまでは余裕がないようだった。

 

仕方なく、何食わぬ顔で出勤してメールをチェックすると、PMからメーリングリスト宛に

 

「体調不良のため、10時ごろ出社いたします」

 

というメールが飛んでいた。

 

ところが10時、10時半となっても一向に出てこない。と思っていると

 

「体調が回復しないため、医者に寄ってから出勤します。午前中には出る予定ですが、場合によっては間に合わないかもしれない・・・」

 

というメールが飛んできたのを見て

 

(まるで、オレに対するメールみたいだな・・・)

 

と苦笑した。

 

必要なデータをサーバに移し、不要なデータの削除などをしていると11時を過ぎた。「引き継ぎ」と言ってもまだ後任が入っていないから、やるとすれば相手としてはI氏くらいしか思いつかないが、あれだけ「引継ぎが必要」といっていたにもかかわらず、I氏は一向に知らぬ顔を決め込んでいた。

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