2013/03/22

技術屋部長(プロジェクトD)(4)

 前リーダーのT氏は頭の回転が速く、そのうえ弁も立つ人物だったから、なぜNGになったのかは不明だった。

 

それとなくN部長に聞いたが

 

「ちょっと、ある事件がありまして・・・」

 

と言葉を濁していたから敢えて追及もしなかったが、あの無邪気とも思える性格から、おそらくN社のトップ辺りに何か余計なことを言って嫌われたのだろうくらいの想像はついた。

 

口の悪いT氏が

 

「メチャクチャ頭がいい人」

 

とN部長を評していた。

 

そのN部長が相当に頭脳が切れることはすぐにわかったが、それより何より技術スキルが非常に高く、スキルの低いメンバーばかりのこのチームでは突出していたのは事実で、Ciscoの最高の資格である「CCIE」を10年も前に獲っていたくらいだ。

 

これだけでも「超一流のネットワークエンジニア」の証明と言えたが、N氏の凄いところはネットワーク系に留まらずOracleプラチナ、PMPなど、どれ一つをみても世間一般的には「数年かけて取れるかどうか」レベルの最高難易度のIT資格ばかりで、名刺には資格とロゴが狭いスペースからはみ出しそうに並んでいた。

 

さらに驚いたことに、この人はそもそもC社と言っても北海道のC社の社員だったのを、このプロジェクトに参画するために招聘されていたらしいのである。D社肝いりのプロジェクトだけに、元請けのN社の気合の入れ方が伝わるが、わざわざ北海道からN氏が単身で乗り込んできていたということは、これだけ人材が溢れていそうな東京本社に適任者がいなかったということなのか?

 

いずれにしても、わざわざ北海道から呼び寄せられるくらいだから、その優秀さはこちらの想像を絶しているのかもしれなかった。

 

このように、このN部長は頭も切れるしスキルは非常に高いのは間違いなかったが、その一方で案外とズボラなところがあった。

 

もっとも、自分が入ってきたことで

 

(これは、マネージメントを任せられる)

 

という安心感が芽生えたのかもしれない。

 

元々、技術者によくありがちだが、このN部長もマネージメントはあまり好きではないようで、Config修正など技術的な細かい内容の仕事をしている時の方が、生き生きとして見えた。

 

それで当初から

 

「技術的な細かい内容のところは私がやりますので、管理系はにゃべさんにおまかせしたい」

 

と宣言していた。

 

ところで、この現場に入って驚いた、と言うよりガッカリしたのは、メンバーのスキルが軒並み低いことだった。面接時からN部長からはそれらしいことは聞いていたが、あちこちのパートナー会社からかき集めた技術者は、どれもスキルが低く

「どうにか頭数だけ揃えたのか?」

というレベルだった。

 

もっと正確に言うなら、10人ほどいるうち3人ほどは使えなさそうなレベルである。しかも冒頭に記したように、このプロジェクトが「D社のスマホ向け新基盤構築対応」として「最新機能満載の技術」を採用するのが至上命題だから、普通のネットワークエンジニア以上のハイスキルが求められるのだが、そのレベルの要員は皆無に見えた。

 

N社に提出するドキュメントは、メンバーの中でマシな方の数人で作成していたが、元からバリバリのエンジニアであるN社のマネージャーとサブリーダーからは、当然ながら毎回ボロカスに扱き下ろされていた。

 

N社の設定する厳しい納期に間に合わず、なんとか間に合わせるためにスキルの高くないメンバーが自転車操業をやっている状態だ。それでも、最終的にどうにかなっているのは、実はN部長が裏でフォローしていたらしい。

 

面接時に

 

「どうしても手が足りない時は、実作業もお願いするかもしれません」

 

と言っていた通り、とてもではないが手が足りない状態で混乱していた。もっとも、これに関しては前の現場で身に染みて懲りていたので、面接時に

 

「じゃあ、この場でお断りします」

 

というと、すかさず

 

「わかりました。じゃあ、私がやります」

 

と返したN部長だった。

 

前の現場同様、入ったら実作業ばかりをやらされるようなら即刻退場する肚は決めていたが、それを見越していたか幸いにもN部長は、この約束はしっかりと死守した。

 

それで、まったく使えないメンバーでも自分が面接して入れた責任からか、出来そこないの設計書やconfigは部長自らがこっそり手を入れていた。それは「フォロー」と言うレベルを超越して、殆ど「一から作り直さないと使えない」レベルのものばかりだったらしい。

 

もっとも、N部長も根っからの技術屋だけに「困った連中だ」などと慨嘆しながらも、ドキュメントを創るのは好きなようで、リーダーの身でありながら夜遅くまで細かい作業に没頭していることが多かった。N社のマネージャーとサブリーダーも、メンバーのスキルが低いのはとうにわかっているから、実際にはほとんどをN氏が作っているのは知っていたし、密かにそこに期待している節もあった。サブリーダーのK女史もN氏と同様、根っからのエンジニアだけに、技術面では裏でかなりN氏のフォローに回っていた。

 

そのような状況であるうえ、元々が根っからのエンジニアであるN氏は、マネージメントは好きではないらしく

 

「技術的な細かい内容のところは私がやりますので、管理系はにゃべさんにお任せする」

 

と宣言したのは先にも記したとおりだが、それでもリーダーたる本人はれっきとした「大手C社の部長」であり、対するこちらは「パートナーの雇われサブリーダー」風情だから、自分の想定では裏方に徹してマネージメントを行い、フロントには当然N氏が立つものと理解していた。

 

ところが、これがとんだ見込み違いであることに気付かされたのは、参画後わずか1週間が経つか経たないかという時だ。

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