野菜炒めが大好物である。
サッカー少年だった学生時代は、勿論「肉食男子」だ。ステーキなら200~300g、焼肉も大好物というだけでなくパワーの源だと信じていた。
「肉ばっかり食べてたら・・・」
とサラダを作ったり買ってきたりしたが、ポテトサラダはあまり好きではない。そこで心配した母が、肉類の時に一緒に作ってくれたのが野菜炒めで、これにはすっかり嵌った。
定番はキャベツにもやし、場合によりニンジンやタマネギなどが入るが、醤油が好きなワタクシは、これにたっぷりと醤油をかけて食べていた。このように、元々は「肉食に偏るのはよくない」という母の心使いから始まった野菜炒めだったが、気付けばいつしか「野菜炒め」がお目当てになってきて、これが主菜になったりもしていた。
肉類とは違い毎日でも食べられるから、母も「これは楽だよ」と、喜んで作ってくれたものである。
≪この調理方法(野菜炒め)が、広く一般家庭で見られるようになったのは、日本では1950年代~1960年代以降の、特に高度経済成長期のころである。ガスと電気が一般家庭の台所に普及したのが、この頃だったためと見られる。他にも普及の理由は、調理用の油が低価格で購入できるようになったこと、少ない肉類に多くの野菜を加えることで、子供の旺盛な食欲を安価で満たす効果があったことや、また調理が簡単で様々な工夫もしやすいことなども考えられる。この特性は、小学校などにおける家庭科の調理実習の題材としても好ましいものであり、ある研究では調査対象となった学校の半数以上で野菜炒めを実習の題材として取り上げている。大学生がよく作る料理としても、上位に位置することが報告されている。
この「野菜炒め」のメリットは、言うまでもなく一度にたくさんの種類の野菜を食べられることだ。基本的には「何でもアリ」の世界で、熱を通しても溶けない野菜類は用いることができるが、代表的なものは下記の通り。
ニンジン・・・主に千切りにして用いるが、最初に入れて油と良く馴染ませることで、カロチン等の栄養素がより吸収されやすくなる。十分に炒めたり、あるいは炒める前に軽く茹でておくと甘味が増し渋みが弱まる。
タマネギ・・・スライスしたり、ざく切りにして入れると、炒めている途中でほぐれて半透明になり辛味が薄れて甘味が増す。比較的最初の頃に入れても構わないが、歯ごたえを残したい場合は他の材料がある程度炒まった段階で加えると良い。ただし、炒め過ぎると汁に含まれる糖質が焦げて苦くなるため、苦味を好まない人は炒め過ぎに注意すべきである。
我が家ではニンジンはあまり使われなかったが、タマネギはちょいちょい使用された。カリウムやリンなど栄養満点なタマネギとはいえ、普段はそんなに食べるものではないから、この機会にしっかりと栄養を摂っていた。
キャベツ・・・さて「野菜炒め」と言えば、誰がなんと言おうと主役はこのキャベツだ。キャベツは大好物で、自分で作るインスタントラーメンでも定番だった。最も広く、また量的にも多く用いられる材料で調理の中頃に入れる。ビタミンB1を多く含み、また野菜をたくさん食べた気分が味わえる。手でちぎったり、葉を3~5cm角程度に切って用いる他、好みで芯を薄切りにして入れる。
モヤシ・・・比較的調理の後の方に入れるが、軽く柔らかくなる程度まで炒めると他の野菜や肉から出た汁を吸って旨みが増す。また比較的安価で栄養もあるため、満腹感を得やすい。炒める前に予め根と豆の固い部分を取り除いておくと、更に口当たりも良くなる。1分程度を超えて加熱すると、シャキシャキとした食感が失われるが、青臭さが軽減される。キャベツとともに、自作インスタントラーメンの定番である。
肉類は豚肉、ベーコン・ランチョンミート(スパム等)、魚肉ソーセージ、ハム(ボンレス・プレスのどちらでも)、ウインナーソーセージ、缶詰(ツナ・鮭など)等が用いられるが、場合によっては炒り卵で代用される場合もある。牛肉は、この調理法では固くなり過ぎるため野菜炒めには適さず、鶏肉は炒めると油を吸ってしまう上に肉がバラバラにほぐれてしまうため、やはり適さない。
油は殆どの食用油が利用可能であるが、ラード等の獣脂は味がくどくなりがちなため、癖が無く酸化され難いサラダ油・菜種油・大豆油・コーン油等の植物性油が用いられる。ごま油は風味と炒め加減の兼ね合いが難しく、酸化され易いこともあるため、あまり用いられない。
一般に豚肉や鶏肉を焼くと、細菌は死滅する一方で変異原と呼ばれる有害物質(遺伝毒性・発がん性の可能性がある)が増える。しかし、豚肉に加熱したニンジン・モヤシ・キャベツを加える、コショウや醤油を添加するなどの行為により、変異原性が数十パーセント抑制されるという研究結果が報告されている。同報告ではさらに、実際の食生活に近い形で豚肉・ニンジン・モヤシ・キャベツを具材とし、醤油と味噌で味付けした野菜炒めを作って評価したところ、豚肉の単独加熱の場合と比較して25%の変異原性抑制率を得ており、肉由来の変異原を避けるという観点から、野菜炒めにすることの有効性が実証されている。
まさに栄養学的にも、理に適った「野菜炒め」である。実家を出てからは、かつてのように毎日のようにして食べることは難しくなったものの、できるだけ安い定食屋や大衆食堂、あるいは中華屋で回鍋肉や八宝菜を食べるようにしている。
上京後の定番は「日高屋」と「やよい軒」の野菜炒め定食だ。
どちらもボリューム満点だけに、ビールを飲んでこれを食べるとかなり腹が膨れる。日高屋の場合は「野菜たっぷりタンメン」も病み付きになるし、やよい軒は味噌汁の「貝汁(アサリ)変更」は必須だ。
ところで、外食すると様々「珍客」に出くわすことがある。かつて大塚で働いていた時、駅前の日高屋で例の如くに「野菜炒め定食」を食べていると、カウンターの対面に20代前半とおぼしきリーマン風のニーちゃんが陣取り、同じ「野菜炒め定食」をオーダーした。このニーちゃんは余程の辛党なのか、ひと口食べる度にブラックペッパーに手を伸ばし、二振り、三振りを繰り返しているのだ。
「オイオイ・・・そんなに無茶振りしたら、本来の味なんてわからんでしょーが!」
と思いつつ
(世の中には、変わった御仁が多いものだわい・・・)
と呆れつつも、目を離せないのであった。
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