神代一之巻【天地初發の段】 本居宣長訳(一部、編集)
○宇摩志阿斯訶備比古遲神(うましあしかにひこじのかみ)は、書紀に「可美葦牙彦舅尊、可美、此云2于麻時(うまし)1、彦舅、此云2比古尼(ひこじ)1」とある。「うまし」は美称である。【「あしかび」のみに係る美称でなく、全体に係っている。】
この言葉は心にも目にも、耳にも口にも、すべて美いことを賞めるには「うまし」と言ったので【今の世では食べ物の味が良いことだけを言うが、いにしえはそうではなかった。【書紀に「可怜小汀(うましオバマ)【可怜、此2于麻師(うまし)1。】」とあり、「可怜美路(みち)」、「可怜国」などの用例もある。人の美称としても、白檮原の宮(神武天皇)の段に「宇摩志麻遲(うましまじ)命」、堺原の宮(孝元天皇)の段に「味師内宿禰(うましうちのすくね)」、書紀の崇神の巻に「甘美韓日狭(うましカラヒサ)」などの例がある。【万葉の巻三に出ている「吉野の人味稲(うましね)」を、懐風藻では「美稲」と書く。「宇摩志」を「美」と書くのがよく当たっている。】
「阿斯訶備(あしかび)」は、前述の「葦」について述べた通りである。「比古(ひこ)」は男の美称。【「比」は産巣毘の「毘」と同根、「古」は子である。】 「遅(じ)」も男の美称である。老人を「じ、おじ」と言うのも、尊んで言うのだろう。「意富斗能地(おおとのじ)神」、書紀の「鹽土(しおつち)の老翁(おじ)」、【「老翁此云2烏膩(おじ)1」とある。皇極記の歌に「歌麻之々能烏膩(カマシシのオジ)」、万葉の巻十一に「山田守翁(ヤマダもるオジ)」、同巻十七に「佐夜麻太乃乎治(さヤマダのオジ)」など。】の「じ」もこれである。
ところで「ひこじ」、「おじ」などの「じ」は言うときは濁るが、元は清音で明の宮(應神天皇)の段の国栖人(くずビト)の歌に「麻呂賀知(まろがち)」とある「ち」、また父の「ち」もこれである。また「八千矛の神」、「火遠理(ほおり)命」も「ひこじ」と言うことがある。そのことは、そこ【伝十一の三十二葉】で言う。
この神は「葦芽のごときもの」によって生まれたから「宇摩志阿斯訶備比古遲神」と名付けている。【この神の名の読み方は「うまし」と読んだ後「あしかびひこじ」を一息に読んで「あしかびノひこじ」という意味合いに読む。】
---------------------------------------------------
『古事記』では、造化三神が現れた後、まだ地上世界が水に浮かぶ脂のようで、クラゲのように混沌と漂っていた時に、葦が芽を吹くように萌え伸びるものによって成った神としている。すなわち4番目の神である。
ただし『日本書紀』では本文には書かれておらず、第2・第3の一書では最初に現れた神、第6の一書では天常立尊に次ぐ2番目に現れた神としている。
独神であり、すぐに身を隠したとあるだけで事績は書かれておらず、これ以降日本神話には登場しない。
神名の「ウマシ」は「うまし国」などというのと同じで「良い」、「美しい」、「立派」なものを意味する美称である。
「アシ」は葦、「カビ」は黴と同源で醗酵するもの、芽吹くものを意味する。
ここでは「アシカビ」で「葦の芽吹き」のことになる。
すなわち、葦の芽に象徴される万物の生命力を神格化した神である。
一般的に活力を司る神とされる。
「ヒコヂ」は男性を表す語句であるが、この神は独り神であり性別を持たない。
葦が芽吹く力強さから、チャイナから伝わった陰陽思想の影響により「陽の神」とみなされ「ヒコ」という男性を表す言葉が神名に入ったものと考えられる。
植物の葦が勢いよく生育する様子を表しているとされる。
ある学者によれば「言」は「事(実)」に基づいて発せられるもの、とのことで、これから敷衍すれば、このような複雑な名前が付けられたからには、やはり実在したと考えるべきである。
「ヒコ」は「日子」とされ「太陽の子」という意味も持つ。
ちなみに女性の「姫(ヒメ)」は「日女」から来ている。
「ヒコジ」は、元々は「コヒジ」だったとも言われる。
コヒジは「泥」を表し、葦が泥の中から生える様子を表している。
「アシ」の発音が「悪し」と同じなのを嫌い(言霊信仰)、通常は「ヨシ」と呼ばれる。
葦は水辺の植物で、日本人の生活に馴染んだ植物である。
生育スピードが速く、半年で2mか3mまで生育する。
温帯から熱帯の川の浅瀬で群生し、生育スピードが速いだけでなく、魚が集めた泥が堆積し非常に豊かな環境を作る。
日本人はこれをヨシズにしたり、屋根の材料にしたりとして豊かな環境が生活を支えていた。
そのなかで「葦」を特別な植物と考えるようになり、日本のことを「葦原中国(または「豊葦原中国」」)(とよあしはらのなかつくに)」と呼んでいた。
※「中国」は「ちゅうごく」ではなく「なかつくに」と読み「我が国」といった意味である。
※Wikipedia引用
※ http://nihonsinwa.com/ 引用
0 件のコメント:
コメントを投稿