2016/05/08

災難(小説ストーカー・第二部part6)


●ラッキーボーイの場合
 昨日、一昨日と、不思議なことに、あのストーカーのようにしつこいタコ坊の姿がない。
 
 あれだけ時間を大幅にずらしたり、車両を変えたりしても「ハイエナのように」当然のように同じ車両に乗っていたタコ坊が、2日も続けて居ないというのは実に奇跡的なことだった。
 
 勿論、喜ばしいことには違いなかったが、タコ坊一人いないのはさておいても、相変わらず混雑する電車にはウンザリする。
 
 普段は、ヤツの接近を許さぬようにとばかり、すっかり気を奪われ周囲を見渡すようなゆとりもなかったが、こうしてタコ坊から解放されるとなんとも手持無沙汰であった。
 
 (あの「世の不幸を一身に背負ったような不景気な顔」の代わりに、たまには目の覚めるような美少女にでも出くわさんもんか・・・)
 
 と期待しつつ周囲を見回したものの、視界に入る内の8割以上は勤め帰りのくたびれたオッサンばかりだ。
 
 残りの2割は「性別分類上」は女かもしれないが、オバサンやバーさんばかりで、自分の物差しで「女性」に分類できそうな若く美しい女性は、ほぼ皆無という有様である。
 
 おまけに、いつものことだが、名古屋から下りのこの時間の該当路線たるや、名古屋からの帰路につく乗客で毎日すし詰めの混雑だけに、見渡そうにも殆ど視野が広がらなかった。
 
 そうこうしていると、後ろからやたらと背中を圧迫される気配を感じた。
 
 混雑だから多少の接触は仕方ないとはいえ、この場合は明らかに意図的に背中を圧迫する「強い悪意」を感じ思わず顔をしかめて振り返ると、小柄でずんぐりとした狸のようなオヤジが、なにやら意味ありげに見返してきた。
 
 こうした変な輩は相手にしない主義ではあったものの、その後も執拗に「嫌らしい圧迫」を感じ、都度振り返って睨むと睨み返して来て、徐々に険悪な雰囲気が醸成されていった。
 
 ここまではそれ以上の事態には発展せず、次のターミナルで大幅に乗客が入れ替わるタイミングを見計らい、あの嫌らしいクソ狸から離れようと立ち位置を移動すると、驚いたことにあれだけ大勢の乗客が乗降する中で、狡猾にもあの狸オヤジがまた背後にピッタリと張り付いているではないか!
 
 驚いてはみたものの、新たに乗って来た乗客で満席となった車両で移動もできず我慢していると、あろうことかくそオヤジが露骨に下腹部を圧しつけてきたから、普段は「温厚な」ラッキーボーイもブチ切れまいことか。
 
 「なにやってんだ、オイ!」
 
 思いっきり睨んでやったが、敵もさるもので
 
 「はあ?」
 
 と空惚け、薄ら笑いすら浮かべている。
 
 「はあ、じゃねーだろ、とぼけんなコイツ!
 
気持ち悪りぃーから、これ以上くっ付くな!」
 
 「混んでんだから、しゃーねーだろ」
 
 「意図的にやってんだろーが」
 
 「ゴチャごちゃうるせー若造だな。
 よし、次の駅で降りろ!
 勝負付けたるわ!」

 
 と、薄笑いを浮かべるクソオヤジ。
 
 若いこちらは怒り心頭であり、我流とは言え空手と少林寺の心得もあった。
 
 どう逆立ちしても、このビール肚で小柄な中年太りのクソオヤジに負ける要素など、爪の先ほどもない
 
 その後、クソオヤジの「奇行」は一旦鳴りを潜めたまま、いよいよ次の駅が近づき電車が徐行を始めた。
 
 薄笑いを浮かべたままのクソオヤジだが、電車が駅に着いても降りる気配を見せない。
 
 「よし、降りろ!」
 
 「オレの(降りる)駅は、ここじゃねー」
 
 「いいから、降りろ。
 勝負着けるんじゃなかったのか?」
 
 とからかってやると
 
 「それは、なんのことかね?」
 
 と、白々しく逃げを打つクソオヤジ
 
 思い切り蹴飛ばしてやりたいのを我慢しつつ場所を移動したが、今度はさすがに追ってはこなかった ( _)┌θ☆( >_<) ドカッ

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