2008/01/21

歳月(10年の歴史part5)

  (まさか・・・いくらなんでもこれだけの組織の中で、マネージャーってありか?)

 

が、それほど珍しくはない苗字はともかくとして、あのどんな捻くれ者でも読めない変わった字だった名前までまったく同じだったから、あのK氏に間違いなかった。

 

元々、当時の現場リーダーなども

 

「Kさんは、自分なんかより凄くレベルが高いからね。繋ぎで来ていたみたいですけど、ここじゃ勿体ないですよ・・・」

 

と言っていたが、まさかそれほどとは思っていなかった。

 

 が、考えてみればあれから3年近く経っているし、元々相当な下地があるだけに、その間に大幅なスキルアップをしたことは大いに考えられる。スキルは高いながらも繋ぎで来ていたK氏と、まったく素人で入った自分とはいえ、かつては同じコンビで仕事をした相手が今やこの巨大なピラミッドのマネージャーとして、5人の中の一人として頂点に君臨するのに引き換え、こちらはその最下層の面接をしている。なんという違いか。

 

これには、愕然とせざるを得なかった。

そして、数日後に来た回答は「スキル不足により、NG」だった。

 

 さらに厳しい「冬の時代」は続いた。あの携帯シェア9割以上を誇っていた、当時のD社のあるシステムにおいて、マネージャーとして頂点に君臨していたK氏。片や、同じシステムのピラミッドの最下層の面接にすら通らなかった、己を省みる。

 

何の因果か、かつては同じコンビで仕事をした2人が、このようにハッキリと目に見える形で、その違いをこんなにも残酷な形で見せ付けられたのだ。

 

(この差は、一体なんなのだ?)

 

あれから約3年の間、恐らくは相当な研鑽を積んできたのであろうK氏であり、改めてわが身を振り返った。元々、斜陽のホスト系システムから入ったという運の悪さはあったものの、その間これといった目標も持たず努力もせず、ただ漫然とその日暮らしを続け目の前の課題を無意味に片付けながら、糊口を凌いできたツケが廻ってきたのである。努力や実力の差は、こんなにもハッキリと、残酷な形で現れてしまうのだ・・・

 

この後

 

「このままでは、この世界で生きていく事は出来ん」

 

と考えたのは、必ずしもK氏の影響ではまったくなく、様々な要素が重なったからである。そもそも、相手は比べるにはあまりにも話にならないくらい、この世界では巨大な存在になっていたのだ。

 

そうして、何度かの紆余曲折を重ねていった。独学で幾つかのベンダー資格を取得し、実戦でも複数の大規模な現場でエンジニアとしての経験を積んだ。名古屋に新たな拠点の出来たD社からも仕事の誘いが来たが、断る場面もあった。特にD社に恨みがあったわけではなく、あくまで業務内容が物足りなかったからに過ぎなかったが、ともあれD社からお誘いがかかって、その内容を吟味するくらいにはなった証ではあった。気付けば、初めてのIT業界であのK氏とコンビを組んでから、すでに数年が経過していた・・・

 

 その後、上京して東京でも幾つかの現場を渡り歩き、さらに経験を積んだ。かつてのD社の面接などは、すっかり忘却の彼方というような長い年月の経過を経ていた。

 

そうして、D社の基幹システム更改でお誘いが掛かった時は「あの面接」から、実に10年の歳月が経過していた。

 

忘却の彼方といはいえ「D社」と聞けば様々な思い出がある中で、やはり忘れられないのは、10年前の「あの面接」である。かつては同じコンビで1ヶ月間仕事をしたK氏が、東京本部のマネージャーとしてピラミッドの頂点に君臨し、片やピラミッドの最下層の面接すらあえなく「NG」を突きつけられたのが、10年前の惨めな姿であった。

 

何度か、IT業界に見切りをつけようとも思いながら

 

(こんな中途半端なままでは終われん・・・)

 

と、その都度踏み止まり、繰り返しNGを突きつけられながらも、それなりに経験積んで徐々にステップアップをしてきていた。そして、10年前の「要らない技術者」に  「D社の新しい基幹システム作りを一緒にやりませんか」と、声が掛かったのだ。今や世界を代表する通信キャリアに成長した大企業であり、幾つものシステムを抱えている中でも最もコアな部分である、基幹システム移行プロジェクトである。

 

自分自身、まだそんなにスキルが高いとは思ってないし、相手の事情もあるのだろうがオーバースキルであることは明らかだと思い、一旦は辞退した。が、営業と現場リーダーから

 

「是非、一緒にやりましょう!」

 

と熱心に誘われ、破格の条件も提示された。勿論、リスクを覚悟してでも、この仕事を請けたのは「スキルアップしなければいけないのだ」という思いが総てであり、あのK氏とは何の関係もあるはずがない。

 

が、

 

(相手の事情はどうあれ、とにもかくにもここまで来たのだ・・・)

 

と、自分にしかわからない「10年の歳月」の重みをそっと噛み殺しつつ

 

(これは、単にひとつの通過点に過ぎない・・・まだまだ成長しなければ)

 

と、自らに言い聞かせた。

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